
| 名前 | オットイア(Ottoia)。バージェス頁岩の北西にあるオットー峠にちなむ。種小名 prolifica は「子だくさん」の意味で、標本の多さから |
| 分類 | 鰓曳動物(えらひきどうぶつ)の系統に属する幹群 |
| 時代 | カンブリア紀中期(約5億800万年前) |
| 発見地 | カナダ、ブリティッシュコロンビア州のバージェス頁岩。歯の微化石は西カナダ堆積盆地の広い範囲から |
| 全長 | 1〜15cm(多くは8cm前後) |
| 暮らし | 海底の泥に潜り、小動物を捕食・死骸をあさる |
オットイアは、カンブリア紀の海底の泥に潜って暮らしていた、鰓曳動物のなかまです。バージェス頁岩でいちばん多く見つかる蠕虫(ぜんちゅう)で、標本は数千点にのぼります。腸の中身がそのまま化石に残った個体が数百点あり、5億年前の動物が何を食べていたかを直接たしかめられる、数少ない生物です。
姿と暮らし
体は環状の細かいしわが入った筒形で、前端には口を備えた吻(ふん)があります。この吻は靴下を裏返すように体の中へ引き込んだり、外へ押し出したりできる構造で、外側には28列の鉤(かぎ)と棘がびっしり並び、その奥の咽頭にも歯が列をなしています。獲物や泥の中のものをこの吻でくわえ込み、体内へ送る仕組みです。後端には短い尾状の突起があり、これも引き込むことができました。体の後方には4本ずつ2組の鉤が輪になって並び、これが体に見られる数少ない左右対称の特徴で、それ以外は放射対称に近いつくりをしています。
化石はU字形に曲がった状態で見つかるものが多く、泥で満たされた腸が体の中央を走っているのが見えます。U字形の巣穴に身を置き、必要に応じて吻を海底面へ伸ばしていたと考えられています。成長にともなって脱皮を繰り返していたことも化石から分かっており、節足動物や線虫と同じ「脱皮動物」の一員です。現生の鰓曳動物は、冷たい海の泥に潜って暮らすエラヒキムシなど20種ほどしか残っていませんが、吻を裏返して使う基本のつくりはオットイアからほとんど変わっていません。
オットイアがいたバージェス頁岩の海底は、大陸棚の縁から崩れ落ちた泥が積もる、光の届きにくい深い場所でした。同じ泥の上には三葉虫やアノマロカリス、ウィワクシア、円錐形の殻をもつヒオリテス類などが暮らしており、オットイアはウォルコット採石場で見つかる鰓曳動物の8割以上、群集全体でも1%を超える割合を占めています。
ミミズ扱いから鰓曳動物へ
オットイアを1911年に記載したのは、バージェス頁岩の発見者チャールズ・ウォルコットです。ウォルコットはこの生物を、ホシムシやユムシなど雑多な蠕虫をひとまとめにした「ゲフィレア類」という今は使われないグループに仮置きし、論文の表題も「中期カンブリア紀の環形動物」でした。その後もホシムシ類や、寄生虫の鉤頭動物に近いという意見が出て、分類は長く定まりませんでした。化石そのものを改めて詳しく調べる作業は1970年代まで行われず、1977年にサイモン・コンウェイ・モリスが化石の鰓曳動物をまとめて再検討し、鰓曳動物との近縁が固まりました。現在は現生の鰓曳動物の祖先にあたる幹群として位置づけられています。
2015年には、英ケンブリッジ大学のマーティン・スミスらが電子顕微鏡で吻の鉤や咽頭の歯を調べ直し、「オットイア・プロリフィカ」1種とされてきた標本の中に、三つ叉の歯をもつ別種オットイア・トリクスピダが混じっていることを突き止めました。同じ研究で、バージェス頁岩の外の泥岩から出る微小な炭質化石の一部がオットイア類の歯であることも分かり、体の化石は見つからないものの、この仲間が浅い海にも深い海にも広く暮らしていたことが明らかになっています。
腸の中身が明かした献立
オットイアの化石の特徴は、体の中央を走る腸に、食べたものの残骸がそのまま残っていることです。2012年にフランス・リヨン大学のジャン・ヴァニエがバージェス頁岩の標本をまとめて調べたところ、腸が空の個体が半数ほどあった一方で、数百点の標本から最後の食事の中身を読み取ることができました。
いちばん多かったのは、ヒオリテス類ハプロフレンティスの円錐形の殻です。殻が丸ごと、あるいはばらばらになって腸に詰まっている個体が多数あり、この小さな殻つきの動物がオットイアの主食だったことは1977年の時点で指摘されていました。ヴァニエの調査ではさらに、腕足動物ミクロミトラの殻、多毛類バージェソカエタ、小さな二枚貝状の甲をもつ節足動物リャンシャネラ、三葉虫エーマニエラや小型のアグノストゥス類の破片、ウィワクシアの鱗片まで腸から見つかっています。どれも海底の泥の表面か、その直下で暮らしていた小さな動物ばかりです。
生きた獲物だけを食べていたわけでもありません。バージェス頁岩には、大型の節足動物シドネイアの死骸に9匹のオットイアが群がったまま埋まった1枚の岩板があり、2001年に報告されています。ヴァニエはこれらをあわせて、オットイアは獲物を選ばず、生きているものも死んで間もないものも手当たり次第に食べる雑食性の動物だったと結論づけました。食べ方も単純で、吻でくわえたものを噛み砕くことなくそのまま腸に送り込み、貯めておく部屋もなく、殻を消化しないまま押し出していました。
この研究の意味は、オットイアという1種の献立が分かったことにとどまりません。カンブリア紀の海については、多様な動物が一気に現れたことは分かっていても、誰が誰を食べていたかを示す直接の証拠はほとんどありませんでした。腸の中身は、5億年以上前の動物の食性を種のレベルで復元できた最初のまとまった例であり、海底の小さな殻つき動物から泥の中の捕食者へとつながる食物連鎖の一段を、推測ではなく物証で描き出しました。海底で最も数の多い動物のひとつが、餌にこだわらない何でも屋だったという事実は、カンブリア紀の生態系がすでに、現在の海と同じような柔軟な食物網を備えていたことを示しています。




出典
Vannier, J. (2012). Gut Contents as Direct Indicators for Trophic Relationships in the Cambrian Marine Ecosystem. PLoS ONE 7(12): e52200. https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0052200
Smith, M. R., Harvey, T. H. P. & Butterfield, N. J. (2015). The macro- and microfossil record of the Cambrian priapulid Ottoia. Palaeontology 58(4): 705-721. https://palass.org/publications/palaeontology-journal/archive/58/4/article_pp705-721
Royal Ontario Museum, The Burgess Shale: Ottoia prolifica. https://burgess-shale.rom.on.ca/fossils/ottoia-prolifica/
University of Leicester (2015). Prehistoric ‘penis worms’ shed light on ocean ecology half a billion years ago. https://le.ac.uk/news/2015/may/prehistoric-2018penis-worms2019-shed-light-on-ocean-ecology-half-a-billion-years-ago


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