球電を実験室で作った。先端100ナノメートルの針にレーザーを当てると、アルゴンの中に光の球が生まれ、ふつうのプラズマより長く形を保った

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雷といえば、空を裂いて一瞬で消える光の筋です。ところが何世紀も前から、雷雨のときに地面の近くを光る球がふわふわと漂い、しばらくして音を立てて消えた、という目撃談が何千件も記録されてきました。球電(ボール・ライトニング)と呼ばれる現象です。大きさも色も、動き方も、記録ごとにばらばらで、いつどこで出るかも分からないので、まともに測定された例はほとんどありません。大気科学に残る、いちばん奇妙な謎のひとつです。

野外で捕まえられないなら、実験室で似たものを作ってみればいい。中国科学院の超強レーザー科学技術国家重点実験室(上海)の Chuliang Zhou らの研究グループは、そう考えて実験を組みました。論文は2026年4月16日に Nature Photonics に載り、10月になって ScienceAlert が紹介しています。

針の先に光の球を作る

使ったのは、先端の太さが100ナノメートルしかないタングステンの針です。人の髪の毛の太さが8万〜10万ナノメートルなので、その1000分の1ほどの細さになります。この針に、ごく短いレーザーのパルスを当てます。すると針の表面に沿って強い電磁波が走り、先端に達したところでエネルギーが一点に集まって、とても強い電場になります。

針の先にはアルゴンのガスを用意してあります。強い電場はアルゴンの原子から電子をはぎ取り、電離したガス、つまりプラズマの小さな泡を作ります。これが光の球として現れました。生まれたときの直径は80マイクロメートルほどで、その後100ナノ秒のあいだに数百マイクロメートルまで広がりました。1ナノ秒は10億分の1秒ですから、人の感覚ではやはり一瞬です。それでも、球を生んだ電磁波のパルスの長さに比べれば、はるかに長く生き残ったことになります。

球電を実験室で作った。先端100ナノメートルの針にレーザーを当てると、アルゴンの中に光の球が生まれ、ふつうのプラズマより長く形を保った

ただ消える泡とは、広がり方が違った

ここまでなら、レーザーで熱いプラズマを作っただけ、と言えなくもありません。研究グループが注目したのは、球の広がり方です。ふつうの熱いプラズマなら、できた瞬間から四方に散って薄まり、形はすぐに崩れます。ところがこの球は、広がりながらも球の形を保ちました。

研究グループは球が広がる様子を時間を追って撮影し、冷えていく過程で出す光の波長も分析して、理論の模型やコンピューターの計算と比べました。その結果、広がり方は「電磁ソリトン」の理論が予測する形と一致しました。ソリトンとは、形を保ったまま進む孤立した波のことです。水面やプラズマ、光など、競い合う物理の効果がうまく釣り合う場所であれば、どんな媒質にもできます。球電をプラズマの殻に電磁エネルギーを閉じ込めたソリトンだと考える説は以前からありましたが、それを実験で作って広がり方まで追った例はありませんでした。

比較のために、ふつうのプラズマが熱で膨張する過程を計算すると、実験で見た球よりずっと速く、ぼんやりと広がりました。実験の球が形を保ったまま光り続けたのは、電磁エネルギーがプラズマの中に閉じ込められ、球を支え続けたからだと研究グループは見ています。光のスペクトルも紫外から赤外まで幅広く、電離した元素に由来する線が含まれていました。

マイクロ波なら、数メートルで数秒

とはいえ、実験室の針の先にできた数百マイクロメートルの光点と、雷雨の空に浮かぶ球電とでは、大きさも時間もかけ離れています。研究グループは理論の模型を使って、同じ現象をもっと低い周波数の電磁波で起こしたらどうなるかを計算しました。今回の実験ではテラヘルツ帯の電磁波が球を駆動しましたが、それをマイクロ波に置き換えると、理論上はソリトンが数メートルの大きさに育ち、数秒のあいだ存在しうる、という結果でした。これは目撃談で語られる球電の姿にかなり近づきます。

球電を実験室で作った。先端100ナノメートルの針にレーザーを当てると、アルゴンの中に光の球が生まれ、ふつうのプラズマより長く形を保った

上の画像は想像図です。研究グループ自身も、これで球電の正体が決まったとは言っていません。実験室で作ったのは「球電に似た性質を持つソリトン」であり、自然の雷雨の中で同じことが起きているかは、まだ別の話です。ただ、条件を変えながら何度でも作れて、大きさや光の変化を時間を追って測れる場所ができたことは大きい、というのが論文の主張です。

光の球を研究に使う

球電の謎を解くことだけが、この実験の狙いではありません。電磁エネルギーを安定した小さな構造の中に閉じ込められるなら、エネルギーを蓄える新しい方法につながるかもしれません。極端に強い電磁場の中で光と物質がどうふるまうかを調べる場としても使えます。論文の表題にある「相対論的」という言葉は、電子が光速に近い速さで動くほど強い電磁場を扱っていることを指しています。

何百年も目撃談でしか語られてこなかった現象に、ようやく実験の手が届きはじめた。今回の研究はそういう位置づけの一歩です。針の先の小さな光の球が、雷雨の空の謎にどこまでつながるのかは、これからの実験で確かめられていくことになります。

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