【カンブリア紀の生物】オパビニア – 学会で笑われた復元図が、そのまま定説になった

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名前オパビニア(Opabinia regalis)。属名はカナダの山道「オパビン峠」に由来し、種小名は「王の」の意味
分類汎節足動物。節足動物の祖先系統(ステムグループ)に置かれる
時代カンブリア紀中期(約5億800万年前)
発見地カナダ・ブリティッシュコロンビア州、バージェス頁岩
全長4.3〜7cm(体のみ)。吻を含めた最大標本で約10cm
標本数42点(全コレクション合計)

オパビニアは、節足動物が生まれる少し手前の系統に属する、カンブリア紀の小さな遊泳動物です。頭の上に5つの目を持ち、頭の前からは先端にハサミのついた長い吻が伸びています。この姿はバージェス頁岩の化石を1975年に描き直したもので、発表に先立って学会で見せられたとき、会場は笑いに包まれました。

姿と暮らし

体は細長く、頭・15節の胴・尾びれの3つに分かれます。頭の上面には目が5つ並びます。柄のついた大きな目が2対と、頭の中央に柄のない目が1つという配置です。目の形からは複眼だったと考えられていますが、レンズの構造そのものは化石に残っていません。

頭の前面からは、体長の4分の1ほどの長さの吻が伸びています。多数の環でできた柔軟な管で、先端には向かい合う2本の爪がついています。爪にはそれぞれ5〜6本の棘が並びます。口は頭の下側にあり、後ろを向いて開いています。化石には吻を体の下に折り曲げた姿勢のものがあり、吻の先端でつかんだものを口まで運ぶ動作ができたことを示します。爪の棘、大きな目、消化管の両脇に並ぶ消化腺という特徴から、海底の小動物を捕らえて食べる捕食者だったと考えられています。

胴の各節には、左右に1対ずつ幅の広いひれ状の葉(ローブ)がつき、ローブに沿ってえらの葉状構造が重なります。アノマロカリスと同じく、このローブを波打たせて泳ぎ、尾の3対のひれで舵をとっていたと推定されています。胴の下側に脚があったかどうかは、いまも研究者のあいだで意見が分かれています。化石の中央部に見える三角形の構造を、1996年にグレアム・バッドが脚(葉足)と解釈しましたが、ほかの研究者は消化管や体液の空間がローブに入り込んだ跡と見ており、決着していません。

オパビニアが暮らした約5億800万年前のバージェス頁岩の海底には、アノマロカリス、マルレラ、ハルキゲニア、三葉虫といった顔ぶれがそろっていました。その中でオパビニアはきわめてまれな生物で、知られている標本は全コレクションを合わせて42点です。ウォルコット採石場の群集に占める割合は0.006%に届きません。

笑われた復元図が、そのまま定説になった

オパビニアの化石を最初に記載したのは、バージェス頁岩の発見者チャールズ・ウォルコットです。1912年、ウォルコットはこの生物を、現生のホウネンエビに近い甲殻類として発表しました。1930年には、ホウネンエビと同じように背中を下にして泳ぐ姿の復元図も描かれています。ひれ状のローブを脚、吻を触角のようなものと読めば、甲殻類の輪郭に収まるように見えたためです。

この見方を根本から改めたのが、ケンブリッジ大学のハリー・ウィッティントンです。ウィッティントンは1960年代後半からバージェス頁岩の化石を1点ずつ洗い直す作業を続けており、その一環としてオパビニアの標本10点を詳しく調べました。化石の表と裏(母岩の割れ目の両面)を照らし合わせ、光を当てる角度を変えて浮かび上がる構造を分け、針で母岩を削って埋もれていた部分を露出させる。その結果として描き上げたのが、頭の上に5つの目を持ち、先端に爪のついた吻を前に突き出す、現在の姿です。甲殻類の特徴とされていた脚は見つからず、体のつくりは当時知られていたどの動物群にも当てはまりませんでした。

ウィッティントンは1972年、この復元の初期版を古生物学者の会合で披露しました。会場は笑い声に包まれました。ウォルコット以来60年間「甲殻類」として扱われてきた化石が、実は5つの目と、先端に爪のついた長い吻を持つ、見たこともない動物だったためです。この場面はのちにスティーヴン・ジェイ・グールドが著書『ワンダフル・ライフ』で紹介し、バージェス頁岩の「奇妙な驚異」を象徴する逸話として広く知られるようになりました。

笑いは、復元図が間違っていたことを意味しませんでした。ウィッティントンの復元は1975年に論文として発表され、それから半世紀近くを経た現在も、体の基本的な構成についてはほぼそのまま受け継がれています。5つの目、環のある吻と先端の爪、15節の胴、ローブとえら、3対の尾びれという骨格は、その後の研究で細部が修正されただけで、姿そのものが描き直されることはありませんでした。

変わったのは、この動物をどこに位置づけるかという解釈のほうです。ウィッティントンは既存のどの動物群にも入らないとして所属を保留しましたが、1986年にヤン・ベルイストレームが、直前に全身像の明らかになったアノマロカリスとの共通点を指摘しました。1996年にはグレアム・バッドが、オパビニアを現生の節足動物へ至る系統の根元近くに置く見方を示しました。この解釈は現在も主流で、オパビニアはアノマロカリスの仲間(ラディオドンタ類)よりさらに古い段階で枝分かれした系統と考えられています。吻の先端にある向かい合った爪は、節足動物の前部付属肢が1対、根元で融合したものと解釈されています。後ろ向きに開いた口や、胴の節ごとの区切りは、のちに節足動物へ受け継がれていく特徴の初期の形とされます。

ウィッティントンの復元から半世紀近く、オパビニアは1属1種で、仲間のいない孤立した存在でした。2022年、アメリカ・ユタ州のホイーラー層から出た化石が、オパビニアに次ぐ2番目のオパビニア類として記載されました。ウタウロラと名づけられたこの生物は、2008年にアノマロカリスの一種として報告されていた1点の標本を、ステファン・パテスらが系統解析で見直したものです。胴の背面に節の区切りが走り、尾に多数のひれが並ぶ点でオパビニアと共通します。目と吻の部分は保存が悪く、5つの目があったかどうかは確かめられていません。

さらに、オパビニアの5つの目は、オパビニアだけの特徴ではなくなっています。2020年に中国・澄江から記載されたキリンシアは、頭の上に5つの目がまとまって並ぶ点でオパビニアによく似ており、そのうえで二叉型の脚や頭の甲羅といった真の節足動物の特徴も備えていました。バージェス頁岩のアノマロカリス類スタンレイカリスにも、2対の目に加えて大きな中央の目があることが2022年に報告されています。学会で笑われた5つの目は、カンブリア紀の海ではむしろありふれた眼の配置だった可能性が出てきています。

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出典

Whittington, H. B. (1975). The enigmatic animal Opabinia regalis, middle Cambrian, Burgess Shale, British Columbia. Philosophical Transactions of the Royal Society B, 271, 1–43.

Briggs, D. E. G. (2015). Extraordinary fossils reveal the nature of Cambrian life: a commentary on Whittington (1975). Philosophical Transactions of the Royal Society B, 370, 20140313.

Pates, S. et al. (2022). New opabiniid diversifies the weirdest wonders of the euarthropod stem group. Proceedings of the Royal Society B, 289, 20212093.

Zhang, X. & Briggs, D. E. G. (2007). The nature and significance of the appendages of Opabinia from the Middle Cambrian Burgess Shale. Lethaia, 40, 161–173.

Royal Ontario Museum: The Burgess Shale — Opabinia regalis

Harvard University OEB: A century later, international team of researchers describe second opabiniid ever discovered (2022)

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