いちばん静かな太陽の上空に、フレアを起こす「ねじれた磁力線の束」が潜んでいた。気球望遠鏡が大気の上から見た磁場の素顔

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太陽の磁場というと、黒点やフレアの話になりがちです。けれど太陽の表面の大部分は、黒点のない「静穏領域」が占めています。磁場が弱く、地上の望遠鏡では大気のゆらぎにかき消されて細かい構造が見えないので、そこで何が起きているかは長く手つかずでした。国立天文台を中心とする国際チームが、気球に吊るした望遠鏡で大気の上からこの領域を観測し、磁場の中に細い糸のような構造が無数に潜んでいることを見つけました。シミュレーションで再現すると、その正体はフレアの舞台になる「ねじれた磁力線の束」でした。成果は2026年8月の The Astrophysical Journal Letters に3本の論文として載り、国立天文台が9月30日に発表しました。

気球で大気を抜ける

観測を担ったのは、Sunrise III という気球望遠鏡です。口径1メートルの太陽望遠鏡をゴンドラに載せ、ヘリウム気球で高度約35キロメートルの成層圏まで上げます。空気の99%以上が下にある高さなので、地上望遠鏡を悩ませる大気のゆらぎがほとんどなく、しかも極域の夏は太陽が沈まないので、昼夜を問わず観測を続けられます。2009年と2013年に続く3回目の飛行が2024年7月に行われ、6.5日間の観測に成功しました。

ゴンドラには複数の観測装置があり、そのひとつが国立天文台の主導で開発された近赤外線偏光分光装置 SCIP です。波長850ナノメートルと770ナノメートルの帯にある複数の吸収線を同時に分光し、光の偏りを精密に測ります。磁場の中では吸収線の形が偏光に応じてわずかに変わるので、偏光から磁場の強さと向きを逆算できます。吸収線ごとに「見ている高さ」が違うため、太陽の表面(光球)からその上の薄い層(彩層)まで、磁場を切れ目なく追えるのがこの装置の持ち味です。

静かな場所を、107分かけて撮る

久保雅仁さん(国立天文台 SOLAR-C プロジェクト)らの論文は、太陽の中心近くにあった静穏領域を狙いました。視野は58秒角四方で、太陽の上では約4万2,000キロメートル四方、地球が3つ並ぶくらいの広さです。細長いスリットを少しずつずらしながら、1か所あたり10秒ずつ露光し、107分かけて途切れなく走査しました。得られた偏光の精度は、連続光の0.03〜0.04%。地上ではゆらぎで台無しになる精度で、気球ならではの数字です。

静穏領域の磁場は、表面では細かい網目(ネットワーク)に集まっています。そこから上の彩層に向かって磁力線が傘のように広がり、「キャノピー」と呼ばれる構造を作ると考えられてきました。ところが SCIP の彩層の磁場地図を見ると、キャノピーの内側に、幅1秒角(約700キロメートル)より細い糸のような構造が何本も走っていました。糸の磁場は周囲のキャノピーより10〜20ガウス弱く、はっきりした例では向き(極性)が周囲と逆になっています。真下の表面には対応する構造が見当たらず、彩層の中だけにある模様です。キャノピーは表面の磁場がただ広がったものではなく、内部に小さな構造をたくさん抱えた立体的なものだ、というのが結論です。

逆向きの磁場の正体は、ねじれた磁力線の束

周囲と逆向きの極性が入り込む「逆極性侵入」は、ネットワークの上空でもすでに見つかっていて、何がそれを作るのかが問題でした。Patrick A. Ondratschek さん(マックス・プランク太陽系研究所)らの論文は、彩層まで扱えるように拡張された数値シミュレーション MURaM-ChE で、ネットワークが少し強い領域を再現しました。すると、表面から約1,000キロメートル上の高さに、逆向きの磁場が細長く走る構造があちこちに現れました。長さは2,000〜7,000キロメートル、幅は約1,000キロメートルで、21分間の計算のあいだほとんど消えません。磁力線をたどると、その正体は表面の対流にねじられた磁力線の束、つまり「ねじれた磁束ロープ」でした。

ねじれた磁束ロープは、黒点のまわりで太陽フレアを起こす仕組みとして知られています。向きの違う磁力線が隣り合うと、つなぎ替わって磁気のエネルギーが熱や運動に変わる「磁気リコネクション」が起きるからです。それが、いちばん静かな場所の、一見単純な磁力線の筒の中にも埋め込まれていた。研究チームは、こうした小さなつなぎ替えが、彩層やその上のコロナが表面より熱い理由の一部を担っている可能性があると考えています。

横から見た噴流の磁場

3本目の論文は、視点を変えています。内藤由浩さん(総合研究大学院大学)らは、太陽の縁を狙って、表面から上空へ無数に伸びる噴流「スピキュール」を横から観測しました。スピキュールはコロナへ物質とエネルギーを運ぶ候補ですが、磁場の強さを直接測った例はほとんどありませんでした。SCIP はカルシウムの吸収線(波長854.2ナノメートル)で、縁の外側のスピキュールからはっきりした偏光の信号をとらえました。

結果は、縁から3秒角(約2,200キロメートル)までの高さでは磁場が最大20ガウス程度で高さによらず、3〜6秒角では分布が広がって40ガウスまで達する、というものでした。ただし、これは高いところほど磁場が強いという意味ではなさそうだ、と論文は注意しています。縁の近くはスピキュールが森のように重なり合っていて、光は手前の1本しか透過しません。高くなると森がまばらになり、背の高い複数のスピキュールの磁場が混ざって見えるため、値が散らばると解釈しています。吸収線の形が、低いところの二重の山から高いところの一つの山へ変わることが、その見方を支えています。

静かな太陽は、静かではなかった

3本の論文を重ねると、黒点のない「静かな」太陽の上空が、表面の磁場が素直に広がっただけの場所ではなく、ねじれた束や逆向きの糸をいくつも抱えた複雑な空間だと分かってきます。コロナがなぜ100万度もあるのかという太陽物理の古い問いに対して、静穏領域の小さな磁場のつなぎ替えがどれだけ寄与しているかを見積もるには、今回のような解像度と精度の観測が欠かせません。

Sunrise III の観測は6.5日間で終わりましたが、データの解析はまだ続いています。国立天文台は、彩層からコロナまでを宇宙から分光する次の太陽観測衛星 SOLAR-C の準備も進めており、気球で得た「静かな太陽の素顔」は、その観測計画を練るための下地になります。

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