人は混ざり、ウシは混ざらなかった。デニソワ洞窟の骨片のDNAから出てきた未知の絶滅種「ヤク X」

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シベリア南部、アルタイ山脈のふもとにあるデニソワ洞窟は、2010年に小指の骨1本からデニソワ人という未知の人類が見つかった場所として知られています。この洞窟からは25万点を超える骨のかけらが出ていますが、その95%ほどは小さすぎて、形を見ただけでは何の動物か分かりません。ストックホルム大学の古遺伝学センターを中心とするチームがそうした骨片のDNAを調べたところ、今度は未知のウシの仲間が出てきました。現生のヤクに近いけれど別の種で、チームは「ヤク X」と呼んでいます。成果は2026年10月5日の Current Biology に載りました。

形の分からない骨から、20頭分のゲノム

デニソワ洞窟の堆積物からは、人類だけでなく、さまざまな哺乳類の骨が出ます。ただ、ほとんどが指先ほどの破片で、博物館の棚に並ぶような頭骨や角はありません。チームはウシ族(ウシ・バイソン・スイギュウ・ヤクなどを含むグループ)の骨とみられる破片を何十点も選び、古代DNAを読みました。その結果、少なくとも20頭分の核ゲノムが、既知のどのウシ族とも一致しない、ひとつのまとまった系統を作っていました。

20頭の年代は、合わせて約20万年の幅に散らばっています。古代DNAの研究で、同じ系統を20万年ぶん追えるデータはめったにありません。氷期と間氷期を丸ごと含む期間なので、気候の変動がひとつの動物の集団にどう影響したかを見られる、と筆頭著者の一人 Jonas Oppenheimer さん(古遺伝学センター 博士研究員)は述べています。

ヒグマとホッキョクグマと同じころに分かれた

ゲノムを現生のヤクや他のウシ族と比べると、ヤク X の系統は約40万年前に現生のヤクから分かれ始め、約25万年前までに完全に別の集団になっていました。もう一人の筆頭著者 Alexandre Gilardet さん(同センター 博士課程)は、これがヒグマとホッキョクグマが分かれたと推定される時期とほぼ重なると指摘しています。40万年前ごろは強い温暖期にあたり、暖かさが集団を分断して種の分かれ目を作ったのかもしれない、という見立てです。

見た目については、まだ何も言えません。責任著者の Love Dalén さん(ストックホルム大学)は、40万年前に共通祖先を持つ姉妹種なのだから似ていたと考えるのが自然だとしつつ、同じころに分かれたヒグマとホッキョクグマの見た目はまるで違う、と付け加えています。ヤク X のゲノムで、ヒマラヤのヤクと違うタンパク質をコードする遺伝子がどれかを調べる続きの研究が進んでいます。

人は混ざり、ウシは混ざらなかった

この研究でいちばん目を引くのは、ヤク X が「誰とも交わらなかった」ことです。デニソワ洞窟は、ネアンデルタール人とデニソワ人が同じ場所で暮らし、両者の血を半分ずつ引く少女の骨まで出た、人類の混血の現場です。ところがヤク X のゲノムには、同じ時代の同じ地域にいたステップバイソンや、家畜ウシの祖先オーロックスとの遺伝子の交流が、ほとんど見当たりませんでした。同じ洞窟に出入りしていた人類が複雑に混ざり合っていたのと、はっきり対照的です。

一方で、ヤク X の集団そのものには大きな出来事がありました。約13万〜11万5,000年前の最終間氷期をはさんで、それ以前の集団がそれ以後の集団に置き換わり、遺伝的な多様性が減っています。Oppenheimer さんは、約12万年前の温暖化が、寒さに適応した種にもたらした遺伝的な影響を映しているのかもしれません。

2万7,000年前の骨を最後に

いちばん新しいヤク X の骨は約2万7,000年前のものです。絶滅はその後ということになりますが、いつ、なぜ消えたのかは分かっていません。人類との関わりも、直接の証拠はありません。ただ、ヤク X の骨は人類がこの洞窟を使っていた時期に繰り返し現れるので、Oppenheimer さんはネアンデルタール人やデニソワ人がヤク X を狩っていた可能性は高いと考えています。

「ヤク X」はあくまで仮の呼び名です。遺伝子の証拠だけでは正式に種として命名できないので、チームはこの地域で以前に報告されているヤクに似た化石と照らし合わせ、同じ動物かどうかを確かめる計画です。もし一致すれば、すでに名前のある化石種が、ゲノムの裏づけを得ることになります。

デニソワ人が1本の骨のDNAから見つかったように、ヤク X も形の分からない骨片のDNAから見つかりました。Dalén さんはアルタイ地方を、氷期をまたいで多様な生き物を抱え続けた「避難所」だった可能性のある場所と呼んでいます。研究はスウェーデン研究会議、欧州研究会議、クヌート・アンド・アリス・ヴァレンベリ財団、ロシア科学財団の助成を受け、共著者の Beth Shapiro さんが絶滅種の復活を掲げる企業 Colossal Biosciences に勤め、Dalén さんが同社の科学諮問委員を務めていることが利益相反として明記されています。

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