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超伝導体は電気抵抗ゼロで電流を流せますが、流せる電流には上限があります。ふつうに直流で測ると、ある電流密度(臨界電流密度)を超えたところで抵抗が現れます。ところがこの値は、超伝導の本当の限界ではありません。本当の限界は、電流を運んでいる電子のペア(クーパー対)そのものが引き裂かれる「対破壊(ついはかい)限界」で、直流の測定ではそこに届く前に別の理由で超伝導が壊れてしまいます。ドイツ・ハンブルクのマックス・プランク物質構造動力学研究所(MPSD)の E. Wang さんと Andrea Cavalleri さんらは、ピコ秒(1兆分の1秒)という短い電流パルスを使ってこの限界に届かせ、結果を Nature Physics に報告しました。
渦が動くと、超伝導は壊れる
実用的な超伝導体の多くは「第二種」と呼ばれるタイプで、磁場の中でも超伝導を保てる代わりに、内部に磁束の細い渦(量子渦)を抱え込みます。電流を強くしていくと、この渦が電流に押されて動きはじめます。渦が動くと抵抗と熱が生まれ、超伝導が崩れます。直流で測る臨界電流は、クーパー対が壊れる電流ではなく、渦が動き出す電流を見ていることになります。
そこで研究チームが考えたのが、「渦が動く前に測り終える」ことでした。渦の動く速さは秒速数十km ほどで、物質のスケールで見れば速いものの、電流パルスをそれより何桁も短い時間に収めれば、渦はその場に留まったまま(慣性的に動けないまま)です。熱が溜まる時間もありません。その状態でなら、クーパー対が引き裂かれる本当の限界まで電流を押し上げられるはずです。
緑のレーザーで、ピコ秒の電流を作る
ピコ秒の電流パルスは、ふつうの電気回路では作れません。研究チームは、波長515nm の緑色レーザーを300フェムト秒(1,000兆分の0.3秒)だけ当てて光スイッチを導通させ、そこからわずか数ピコ秒の電流パルスを超伝導体に送り込む回路を組みました。MPSD の Cavalleri 研究室が10年近くかけて作ってきた、チップ上で超高速の電気伝導を測る手法です。
試料には、性質の違う2つの超伝導体を選びました。ひとつは窒化ニオブ(NbN)で、クーパー対のエネルギーギャップがどの方向にも同じ「s 波」の超伝導体です。もうひとつは銅酸化物の YBCO(イットリウム・バリウム・銅の酸化物)で、ギャップの大きさが方向によって変わり、ゼロになる向きもある「d 波」の超伝導体です。

NbN は崖、YBCO は坂
NbN では、直流で測った臨界電流密度のおよそ2.2倍まで超伝導が保たれ、そこで急に対破壊が始まりました。はっきりした閾値があり、その値は BCS 理論(クーパー対の微視的な理論)に基づく計算とよく合いました。一方の YBCO では、閾値で一気に壊れるのではなく、電流を増やすにつれて超伝導がなだらかに弱まっていきました。ギャップがゼロになる方向を持つ d 波の超伝導体では、電流が増えるとその方向から順に対が壊れていくためで、ギャップの対称性の違いが、電流に対する応答の形にそのまま出たことになります。
つまり、ピコ秒の電流輸送は、直流の測定では届かない超伝導体の微視的な性質を読み取る手段になります。ギャップの対称性のように、これまでは別の分光的な手法で調べるしかなかった情報が、電流を流すだけで見えてくるわけです。
本当の限界の近くで動かす
対破壊限界まで電流を流せることには、応用の面でも意味があります。超伝導のエレクトロニクスや強磁場装置は、いまは渦の動きで決まる臨界電流の内側で使われていますが、短いパルスで駆動するなら、本来の限界にもっと近いところまで使える可能性があります。今回の結果は、その上限がどこにあり、物質によってどう違うのかを、初めて直接測ったものです。測れなかった領域が測れるようになったので、ほかの超伝導体でも同じ手法で対破壊の形を調べる研究が続くことになりそうです。
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出典
- Wang, E. et al. (2026) “Probing picosecond depairing currents in type-II superconductors.” Nature Physics. https://doi.org/10.1038/s41567-026-03469-z
- 同論文のプレプリント(arXiv:2603.24711、2026年3月)https://arxiv.org/abs/2603.24711
- ScienceAlert “A Major Superconductor ‘Speed Limit’ Was Just Broken”(2026年10月14日)https://www.sciencealert.com/physicists-outran-quantum-tornadoes-to-push-a-superconductor-to-its-true-limit


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