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人は1分間におよそ14〜20回まばたきをします。そのたびに顔の筋肉がわずかに動き、エネルギーが使われて消えていきます。ノースウェスタン大学の Nivedita Arora さんの研究室は、この捨てられている動きを電気に変え、その電気そのもので「いま何をしたか」を記録する、電池のいらないメガネ「GlassTENG」を作りました。世界の人口のほぼ半分がすでにメガネをかけていることから、充電も着け外しも要らない健康の測定器として使えないか、という発想です。成果は、ウェアラブル計算の国際学会 ACM ISWC 2026(上海)で発表されました。
静電気で測る
使っているのは、摩擦帯電ナノ発電機(TENG)と呼ばれる薄いシートです。風船を髪にこすると張り付く、あの静電気の仕組みを利用しています。2種類の違う材料が触れて離れるとき、電子が片方からもう片方へ移って、ごく短い電気の流れが生まれます。GlassTENG のセンサーは、顔が動くと内部の層が押しつけられ、また離れるように作られていて、顔の動きがそのまま電気信号になります。外から電力を入れる必要はなく、センサーを動かすエネルギーは測っている動きそのものから来ています。
センサーは3枚で、メガネのフレームに取り付けられています。1枚は鼻あての部分で、眼角動脈という血管のそばにあり、脈とまばたき、眉の動きを拾います。2枚目はこめかみで、浅側頭動脈の上に置かれ、脈と顎の動きを拾います。3枚目は耳に近い位置で、噛む動きと歯の噛みしめを拾います。

動きごとに違う電気の指紋
顔の動きは、それぞれ違う大きさと形の電圧の波を作ります。もっとも弱い脈は50〜100ミリボルト。まばたきと眉上げは200〜500ミリボルト。顎を強く動かすと最大1.5ボルトに達します。この違いが、信号から動きを見分ける手がかりになります。3枚のセンサーが消費する電力は合わせて4.1マイクロワットで、これはボタン電池1個で何年も動く腕時計の消費電力より、さらに桁違いに小さい値です。
研究チームは20人の参加者に、まばたき・眉上げ・歯の噛みしめ・歯のタッピング・食事・会話の6種類の動作をしてもらい、その信号で機械学習の分類器を訓練しました。6種類の見分けの正解率は全体で93.8%。歯のタッピングは99%、噛みしめは96%でした。脈は別に、座って安静にした10人で胸に巻く基準の心拍計と比べ、平均で1分あたり1.82拍の誤差でした。
うまくいかなかったのは会話です。正しく「会話」と判定できたのは55%で、37%は「食事」と間違えました。どちらも顎を動かし、同じこめかみの筋肉(側頭筋)を使うので、信号が似てしまうのです。夕食の席で話していると、メガネは口が料理で忙しいと思い込むかもしれない、と New Atlas の記事は書いています。
何に使えるのか、まだ「可能性」
Arora さんが挙げる用途は、睡眠中や日中の歯ぎしり(ブラキシズム)の検出、まばたきの様子からの疲労の推定、そして脈からの心血管の状態の監視です。手首に着ける活動量計は、着け忘れることも充電のために外すこともあり、計測が途切れます。すでに顔の上に毎日かかっているメガネなら、習慣を変えなくても測り続けられる、というのが研究の出発点です。
ただし、今回示されたのは6種類の動作の判別と脈の計測までで、歯ぎしりや疲労や心血管の病気を実際に見つけたわけではありません。参加者は20人で、試した動作も決まった6種類に限られます。長時間かけ続けたときの耐久性や、動き回っているときの精度も、今回の発表では分かりません。現在のプロトタイプは、拾った信号を Bluetooth でスマートフォンやタブレットに送って処理しています。Arora さんの目標はメガネの中で計算まで済ませることで、たとえば顎の噛みしめを検出したら、その場で力を抜くよう知らせる、といった使い方を描いています。
共同筆頭は修士課程の3人
この論文の共同筆頭著者は、Raj Dave さん、Jovanis Prodanich さん、Yung-ching Lai さんの修士課程の3人で、Arora さんは研究室を率いる末尾著者です。査読のある学会の論文集に収められた研究で、学術誌の論文ではありません。顔を「健康データの金鉱」と呼ぶ Arora さんは、毎日かけているメガネが健康を見守るようになるのは時間の問題だと話していますが、そこへ至る道はまだ、研究室のベンチから鼻の上までの長い距離が残っています。
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出典
- Dave, R., Prodanich, J., Lai, Y. et al. (2026) “GlassTENG: Self-Powered Triboelectric Nanogenerator based Sensing of Pulse, Jaw, and Upper Facial Activity from Everyday Glasses.” Proceedings of the 2026 ACM International Symposium on Wearable Computers. https://doi.org/10.1145/3830727.3834817
- Northwestern Now “Blink-powered glasses could keep an eye on health”(2026年10月12日)https://news.northwestern.edu/stories/2026/10/blink-powered-glasses-could-keep-an-eye-on-health
- New Atlas “Battery-free smart glasses monitor your health using blink energy”(2026年10月15日)https://newatlas.com/wearables/smart-glasses-energy-blinks-health-monitor/


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