ワームホール同士がぶつかると、ブラックホールの地平面が「縮む」。初めての3次元シミュレーションが描いた、合体の奇妙な結末

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重力波の検出は、2015年の最初の1件から10年あまりで数百件に積み上がりました。そのほとんどは、2つのブラックホールが互いのまわりを回りながら近づき、合体するときの波です。ブラックホールの合体が出す波の形はよく分かっていて、観測された信号は理論の予想とよく合います。では、ブラックホール以外のものがぶつかったら、どんな波が出るのでしょうか。

その「ほかのもの」の一つとして、ワームホールの連星を初めて3次元の数値計算で追いかけた研究が、ロシアのモスクワ物理工科大学の Nikita M. Shirokov さんと高等経済学院の Ilya Nachevsky さんから出ました。2026年10月9日に arXiv に投稿された論文で、査読はまだ受けていません。25ページの本文と12本の動画が付いていて、計算に使ったコードとデータも公開されています。

負のエネルギーで開いたままの「喉」

ワームホールは、空間の離れた2つの場所をトンネルのようにつなぐ構造で、アインシュタインの一般相対性理論の方程式が許す解の一つです。SF でおなじみですが、宇宙に実在するかどうかは分かっていません。よく知られる「アインシュタイン–ローゼンの橋」は通り抜けられない型ですが、この研究が扱うのはエリス–ブロンニコフ型と呼ばれる、通り抜けられる型のワームホールです。

通り抜けられるトンネルを開いたままにしておくには、普通の物質では足りません。この型では「ファントム場」と呼ばれる、エネルギーが負になる仮想的な場がトンネルのいちばん細い部分、「喉(のど)」を押し広げています。この場は現実に見つかっているものではなく、理論の上の仮定です。

しかもこの喉は、安定ではありません。少しでも揺らぐと、つぶれてブラックホールになるか、際限なく膨らんでいくかのどちらかに転がります。研究者たちはまず、1つの喉がどれくらいの速さで崩れるかを計算し、以前に別のチームが線形の近似で予想していた崩壊の速さと1.9%以内で一致することを確かめました。計算の方法が正しく働いているかを見るための準備です。

同じ符号なら反発、逆なら引き合う

本題は、こうした喉が2つあるときに何が起きるかです。研究者たちは2つのワームホールの間隔や進む向き、ファントム場の性質を変えながら、3次元の数値相対論でその後の時間変化を計算しました。数値相対論とは、一般相対性理論の方程式を近似に頼らずコンピューターで解く手法で、ブラックホール合体の重力波の予想にも使われているものです。

最初に分かったのは、電気の正負に似た決まりでした。ファントム場には「スカラー電荷」と呼べる量があり、2つの喉の電荷が同じ符号なら互いに反発し、逆の符号なら引き合います。引き合う強さと反発する強さの比は計算で1.462、理論の予想は1.5で、よく合っています。つまり合体するのは、逆の符号の組だけです。

すれ違うだけの組では、新しい地平面はできません。その代わり両方の喉が膨らみ、相手に捕まりかけたほうの喉が、計算の中でいちばん多くの重力波のエネルギーを放ちました。合体しなくても、近づくだけで強い波が出るということです。

合体した地平面が、28%縮んだ

正面からぶつかる組では、様子が変わります。2つの喉がまだ開いたまま、その両方をまとめて囲む「見かけの地平面」が現れました。ブラックホールの事象の地平面に似た、光が外へ出られなくなる境目です。生まれた瞬間の面積は、2つの喉を合わせた面積とほぼ同じでした。

ここから先が、この研究のいちばん奇妙なところです。地平面はその後、中へ落ちていくファントム場を飲み込みながら、面積を28%失いました。計算の終わり(時刻100)には、2つ分の質量を持つブラックホールの半径の1.4%以内まで縮み、まだ縮み続けていました。

ブラックホールの地平面の面積は、増えるか変わらないかのどちらかで、減ることはない。これはスティーヴン・ホーキングが1971年に示した「面積定理」として知られています。今回の結果は、一見するとこれに反しています。ただし面積定理は、エネルギーが正であるという条件を前提にしていて、負のエネルギーを持つファントム場はその前提を満たしません。計算で追っているのも事象の地平面そのものではなく見かけの地平面です。ですから定理が破れたのではなく、定理の前提の外で起きたことだと言えます。それでも、ブラックホールの地平面が縮んでいく計算結果が目に見える形で出たのは、印象の強い結果です。

「さえずり」ではなく「破裂音」

重力波の形も、ブラックホールの連星とは違っていました。2つのブラックホールが互いのまわりを回りながら近づくときは、波の振動が速くなりつつ強くなっていく「チャープ」、鳥のさえずりのような信号が出ます。ところがワームホールの喉は、どんなに小さな揺らぎを与えても、相手のまわりを数周するまでしか持ちこたえられません。そのうえ、ファントム場が作る負のエネルギーの偏りは、軌道からエネルギーを奪うのではなく逆に注ぎ込む向きに働くので、2つは近づいていきません。研究者たちはここから、ワームホールの連星には、ブラックホールのような「らせんを描いて落ち込む」段階がそもそも無いと結論しています。

その代わりに出るのは、ぶつかる瞬間やすれ違う瞬間の、短く鋭い重力波のバーストです。1つの喉が単独で崩れるときも、できあがったブラックホールの固有の振動数で鳴る短いバーストを出していました。どの場合も、重力波と同じくらいのエネルギーが、負の符号を持つスカラー場の波としても放たれています。

見つかるかどうかは別の話

チャープを伴わない短いバーストは、ワームホールでなくてもブラックホールが出すことがあります。2019年に検出された GW190521 という風変わりな信号は、通常の合体とは違う物理の候補として調べられてきましたが、この論文はそれとの結びつきを主張していません。研究者たちはむしろ、検出の見込みに慎重です。宇宙の初期にできたワームホールの信号は、宇宙の膨張で引き伸ばされて、LIGO や計画中の LISA が聞ける周波数よりずっと低くなってしまうからです。見える信号になるには、宇宙のもっと後の時代にワームホールが生まれる必要があり、そのしくみは分かっていません。

それでも、ありえるかもしれない天体がどんな信号を出すかを先に計算しておくことには意味があります。何かが見つかったときに「これは何ではないか」を言うためには、候補ごとの波の形を知っておく必要があるからです。査読を通っていない段階の結果ではありますが、ワームホール同士の衝突を3次元で追った計算は、今回が最初です。

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