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超伝導体の中では、電子が2個ずつ組になって、抵抗を受けずに流れます。この組は「クーパー対」と呼ばれ、ふつうは物質の中に一様に広がっています。ところが2007年に理論で予言された「ペア密度波」という状態では、クーパー対が一様ではなく、砂浜のさざ波のように周期的な濃淡を作って並びます。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の Zhen Zhu さんたちは、ウランとテルルの化合物 UTe₂(二テルル化ウラン)の表面でこのペア密度波の証拠をつかみ、しかもその名残が、超伝導そのものが消える温度より上でも残っていることを確かめました。論文は2026年7月15日に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に出ています。
二テルル化ウランという「珍しい超伝導体」
UTe₂ は、約2.1ケルビン(マイナス271度ほど)より低い温度で超伝導になる物質です。超伝導体としての特徴は、クーパー対を作る2つの電子のスピン(小さな磁石のような性質)が、ふつうの超伝導体のように打ち消し合わず、同じ向きにそろっている「スピン三重項」だと考えられている点にあります。そのため磁場に強く、超伝導を壊すのに必要な磁場の大きさは結晶の向きによって大きく違います。
この物質の表面には以前から、電子の密度が周期的に濃くなったり薄くなったりする「電荷密度波」の模様が3種類(q₁・q₂・q₃)見つかっていました。この模様は磁場をかけると弱まり、超伝導を壊す磁場の近くで消えます。そこから、模様の正体はペア密度波ではないかと考えられてきましたが、話はそう単純ではありませんでした。ペア密度波と一様な超伝導の組み合わせが模様を作るなら、超伝導が消えれば模様も消えるはずです。ところが、磁場に敏感なこの模様は、超伝導の転移温度よりずっと高い5ケルビン近くまで残るのです。別のグループからは、半分の周期を持つ新しい模様(p₁・p₂・p₃・h₁・h₂)も報告され、解釈は分かれていました。

磁場の向きを自在に変えられる顕微鏡
研究チームは、溶融塩フラックス法という新しい作り方で育てた高品質な UTe₂ の結晶を、走査トンネル顕微鏡(STM)で調べました。STM は、鋭い金属の針を試料の表面にごく近く寄せ、針と表面の間を流れるわずかな電流から、原子1個ぶんの細かさで表面の電子の状態を読み取る装置です。今回の装置には「ベクトル磁石」が組み込まれていて、磁場の強さだけでなく向きを3方向に独立に変えられます。筆頭著者の Zhu さんは、複数の方向に異例に広い磁場の範囲を取れるこの装置が実験の鍵だったと話しています。磁場の強さと向き、温度を系統的に変えながら模様の変化を追うことで、見えている振る舞いが物質そのものの性質だと確信できた、というわけです。
測定は0.3ケルビンから4.2ケルビンまでの温度で行われました。分かったことを整理すると、こうなります。半分の周期の模様のうち p₃ は磁場がなくても見え、p₁ と p₂ は磁場をかけると現れます。これらの模様はいずれも超伝導の転移温度に近づくと消えます。一方、もとからあった3種類の模様 q₁・q₂・q₃ は転移温度より上でも残り、磁場をかけると、結晶の向きによって違う強さで消えていきます。
決め手になったのは、超伝導がすでに消えている4.2ケルビンでの測定です。この温度で3方向に磁場をかけると、q の模様はどの方向でも消えましたが、消えるのに必要な磁場の大きさには結晶の向きによる序列がありました。その序列が、超伝導を壊す磁場の向きごとの序列とぴったり同じだったのです。超伝導が無い温度で、超伝導の性質を映した模様が磁場に反応している。これは、バルクの転移温度より上で、クーパー対が密度波の形で存在していることを示しています。
「超伝導のチェシャ猫の笑い」
研究チームは、これらの観測を一つの理論の枠組みで説明しました。まず、波数 p を持つスピン三重項のペア密度波が、バルクの転移温度より高い温度で形成される。この密度波だけで、周期が半分の q の電荷の模様が生じる。転移温度を下回って一様な超伝導が現れると、ペア密度波と一様な超伝導が組み合わさって p の模様が新たに現れる。h₁・h₂ はそれらの高次の組み合わせとして説明できる。この筋書きなら、p の模様が転移温度の下でしか見えないことも、q の模様が転移温度の上で磁場に序列を持って消えることも、磁場で p₁・p₂ が誘起されることも、まとめて説明がつきます。
共著者の Eduardo Fradkin さんは、ペア密度波を「超伝導のチェシャ猫の笑い」と呼んでいます。相そのものが消えたあとに残る名残だ、という意味です。ふつうの超伝導体ではクーパー対は相転移が起きるときに作られますが、この物質では転移の前から別の状態として対が作られている、と Fradkin さんは説明しています。共著者の Vidya Madhavan さんも、模様が超伝導の消える温度より上まで残ることは、理論が予言していながらこれまで説得力のある形では観測されていなかった印だ、と話しています。

表面だけの話かもしれない
この解釈には、著者たち自身が挙げる大きな前提があります。転移温度より上でペア密度波ができているとすると、物質の内部(バルク)にはそのような状態の証拠がないので、ペア密度波は試料の表面に限って存在していることになります。表面のエネルギーの事情は内部と大きく違いうるので、原理的にはありうる話ですが、本当に表面でそうなるのかは、ミクロな理論で確かめる必要があると論文は述べています。転移温度より上で UTe₂ 全体が超伝導になっているわけではない、という点は、記事を読むうえでも押さえておきたいところです。
それでも、ペア密度波そのものと、そこから派生する電荷の模様の両方を一つの物質で直接とらえられた例は珍しく、著者たちは UTe₂ を、ペア密度波の基礎と、そこから現れる現象の両方を調べられる場だと位置づけています。共著者のスタンフォード大学 Julian May-Mann さんは、ペア密度波はある実験ではふつうの超伝導体のように、別の実験では電荷密度波のように振る舞うので実際の物質で解析するのが難しく、存在を確かめるには質の高いデータと慎重な理論解析の両方が要る、と話しています。クーパー対が超伝導の外でどう存在しうるかが分かれば、より高い温度で働く超伝導体の物理を理解する手がかりにもなります。
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出典
- Zhu, Z., Huang, Y., May-Mann, J. et al. (2026) “Evidence of intertwined pair density and charge density wave orders in UTe₂” PNAS 123: e2602117123(2026年7月15日・英語。全文無料)
- 同論文の arXiv 版 arXiv:2603.08688(英語。全文無料)
- ScienceAlert「New Form of Superconductor Behavior Discovered That We’ve Never Seen Before」(2026年10月19日・英語)


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