ベテランの科学者は「ひっくり返す」仕事が減るが、ひっくり返したものは残る。1,100万本の論文で測った「持続する破壊」

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科学者は年を取ると、常識をひっくり返すような仕事をしなくなる。そう聞くと、思い当たる例がいくつも浮かぶかもしれません。実際、論文の引用のつながりから「どれだけ先行研究を覆したか」を測る指標を使った研究では、科学者がキャリアを重ねるほど、そうした「破壊的」な論文を出す確率は下がっていくと報告されてきました。中国科学院国家科学図書館の Nan Deng さんたちは、この指標に「覆したあと、それが定着したか」というもう一つの軸を足して、1800年から2022年までの1,100万本を超える論文を調べ直しました。すると、逆向きの傾向が見えてきました。年を重ねた科学者は先行研究を覆すことは減るが、いったん覆したものは、後からさらに覆されずに残りやすい。論文は2026年10月19日に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に出ています。

「破壊」をどう数えるか

土台になっているのは「CD 指数」と呼ばれる尺度です。ある論文(注目する論文)が出たあと、後続の論文がそれをどう引用したかを見ます。注目する論文を引用するとき、その論文が引いていた参考文献も一緒に引用されているなら、注目する論文は先行研究の上に積み上げた「発展型」です。逆に、注目する論文だけが引用され、その参考文献がもう引かれなくなっているなら、注目する論文は先行研究を置き換えた「破壊型」とみなします。共著者の北京師範大学 An Zeng さんは、参考文献が引かれなくなるのは「それらがもう重要でなくなった」ことの目安だと説明しています。

ただし、この指標には抜けがあります。先行研究をどれだけ強く覆したかは測れても、その「覆し」が後に受け入れられたのか、それともすぐにまた覆されたのかは分からないのです。研究チームは「持続的破壊(PD)」という指標を加えました。まず CD 指数で破壊度の高い論文を選び、次にその論文自身が、後続の論文によってどれだけ覆されたかを見ます。後続の論文が、注目する論文と、それを引用した論文の両方を引き続けているなら、注目する論文の破壊は生きている。注目する論文が引かれなくなっていれば、その破壊は置き換えられた。覆したうえで置き換えられなかった論文が、持続的に破壊的な論文です。

対象は、研究歴が40年を超える科学者およそ20万6,000人が出した1,100万本超の論文です。1人の科学者について、キャリアの何年目にどんな論文を出したかを追い、破壊的な論文と、持続的に破壊的な論文を出す確率がキャリアとともにどう変わるかを調べました。

覆す回数は減り、残る覆しは増える

結果は、2つの指標で逆向きでした。破壊度の高い論文を出す確率は、これまでの報告どおり、キャリアが進むほど下がります。ところが、持続的に破壊的な論文を出す確率は、キャリアの初めの約1パーセントから、40年目には約2.2パーセントへと上がっていました。年を取るほど「覆す」ことは減るが、覆したときにはその仕事が残りやすくなる、というわけです。

著者たちは、この反転が経験によるものだとみています。持続的に破壊的な仕事をした科学者は、その前に比較的多くの論文を出している傾向がありました。また、同じ破壊度の論文どうしを比べると、書いた科学者の経験が長いほど、引用も、SNS での注目も、研究資金も多く集めていたといいます。ノーベル賞受賞者にも同じ遅れが見えました。受賞者はキャリアの早い時期から高い破壊力を示しているのに、受賞の対象になった仕事はその何年もあとに出ています。破壊する力を、その分野でもっとも評価される成果に変えるには経験が要る、というのが著者たちの読みです。

「シニアのほうが革新的」とは言っていない

この結果の読み方には、論文に関わっていない研究者から注意が出ています。シンガポール国立大学で技術経営を研究する Kenneth Huang さんは、シニアの科学者が一般に若手より革新的だとか、年を取ること自体が長持ちする成果を生むとかいう話ではない、と釘を刺しています。この研究が示しているのは、研究歴が長くなるほど、長く影響を残す論文に名を連ねる可能性が高まる、という相関です。

一方で、ルーヴェン・カトリック大学で科学技術のイノベーションを研究する Sam Arts さんは、科学者は年を取ると革新的でなくなるという見方に、この研究が異議を唱えていると評価しています。別のチームが今年、経験を積んだ科学者ほど破壊的な仕事を出しにくいと報告したばかりで、今回の論文はその「破壊」の中身を分けて見せた形です。引用のつながりで革新を測ること自体の妥当性には疑問の声もあり、どの指標で何を測っているのかは、読むたびに確かめておきたいところです。

若い科学者は先行研究をよく覆し、年を重ねた科学者の覆しは長く残る。どちらが上という話ではなく、科学の中で「壊す」仕事と「壊したものを定着させる」仕事が、キャリアの時期によって違う形で現れている、と読むのが近いのかもしれません。

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