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2026年の夏、アメリカ本土は観測史上いちばん暑い夏になりました。NOAA(米国海洋大気庁)の集計では、6〜8月の平均気温が132年の記録の中で最高。8月単月でも過去最高で、20世紀の平均より3.5°F(約1.9℃)高かったそうです。7月には西部に「ヒートドーム」が居座り、ユタやモンタナ、ワイオミングの観測点で過去最高気温を更新しています。
そんな夏の終わり、Live Scienceが気候変動と健康をテーマにした特集を組んでいて、その中にさらっと「アメリカでは105°Fを超える日が3倍になる」という一文がありました。摂氏に直すと40.6℃。この数字、どこから出てきて、何を指しているのか。気になったので出どころまでたどってみました。
3倍の出どころ
元をたどると、2019年に憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists、UCS)が出した論文と報告書に行き着きます。論文は学術誌 Environmental Research Communications に載った査読済みのもので、著者はクリスティーナ・ダール氏、レイチェル・リッカー氏(ともにUCS)、ジョン・アバツォグロウ氏(アイダホ大学)、フアン・デクレット=バレット氏(UCS)の4人。オープンアクセスなので誰でも全文を読めます。
この研究がやったのは、18種類の気候モデルを統計的に細かい地域スケールに落とし込んで、アメリカ本土48州の「暑い日」が今世紀中にどれくらい増えるかを数えることです。基準にしたのは1971〜2000年の30年間。それと比べて、今世紀半ば(2036〜2065年)と世紀末(2070〜2099年)にどうなるかを見ています。
結果を要約すると、こうです。
今世紀半ばには、100°F(37.8℃)を超える日が年あたり2倍に、105°F(40.6℃)を超える日が3倍になる。世紀末に温室効果ガスの排出が多いまま進んだ場合は、それぞれ4倍と8倍になる。
「3倍」はこの、今世紀半ばの105°F超の日のことでした。ここまでは素直な話です。ところが、この数字にはひとつ大事な前提があります。
気温ではなく「体感温度」

上の図で示したように、この研究が数えているのは気温ではありません。「ヒートインデックス」と呼ばれる、気温と湿度を組み合わせた体感温度の指標です。アメリカの国立気象局(NWS)が熱中症の注意報や警報を出すときの基準にしているもので、日本の天気予報で言えば「暑さ指数(WBGT)」に近い立ち位置の数字です。
ただし、暑さ指数と同じものではありません。日本の暑さ指数は気温・湿度に加えて日差しや地面からの照り返しも入れて計算しますが、ヒートインデックスは気温と湿度だけで、日陰にいる前提の数字です。だから「105°F=40.6℃」といっても、温度計が40℃を指す日が3倍になる、という意味ではありません。湿度が高ければ、気温が35℃前後でもヒートインデックスは40℃を超えます。
なぜ湿度を足すのかというと、人の体は汗が蒸発するときに熱を奪われて冷えるからです。湿度が高いと汗が乾かず、この冷却がうまく働かなくなります。同じ35℃でも、乾いた砂漠の35℃と蒸し暑い35℃では体にかかる負担がまるで違う。それを一本の数字にしたのがヒートインデックスです。
論文の基準では、ヒートインデックス90°F(32℃)を超えると屋外で働く人に熱中症のリスクが出はじめ、100°Fで注意報、105°Fで警報の目安になります。3倍になるのは、この「警報レベルの日」です。
排出量を減らしても、半ばまでは同じ
この研究でいちばん考えさせられたのは、今世紀半ばの数字が「排出シナリオによらず同じ」だと書かれている点でした。
研究では、排出が高いまま進むシナリオと、それより低く抑えるシナリオの2通りを計算しています。世紀末になると両者の差ははっきりして、高排出のほうが低排出のおよそ2倍の頻度になります。ところが、2036〜2065年の時点では、どちらのシナリオでも「100°F超が2倍、105°F超が3倍」という結果はほぼ変わりません。
理由は、大気中にすでに溜まっている二酸化炭素の効きが遅れて出てくるからです。今日から排出を減らしはじめても、気温はすぐには反応せず、2050年前後までの温暖化はかなりの部分がもう決まっている。逆に言えば、いま排出を減らすかどうかの効果が本当に見えてくるのは、世紀の後半になってからだということです。
研究チームは、この「半ばまでは避けられない分」と「後半で差がつく分」を分けて示すことで、対策の意味を二つに切り分けています。一つは、避けられない増加分に備える適応(冷房のある避難所、屋外労働の制限、警報の仕組みなど)。もう一つは、世紀末の4倍・8倍を防ぐための排出削減。どちらか一方では足りない、というのがこの論文の言いたいことのようです。
もう一つ、地味に重い点があります。研究が「今世紀半ば」と呼んでいる期間は2036年から始まります。2026年のいまから見ると、10年後です。この研究が発表された2019年には「数十年先」と受け取られた数字が、いつの間にか手の届く距離まで来ています。Live Scienceの特集が「早ければ10年後」と書いていたのはこのためでした。
35℃という別の数字
ヒートインデックスの話をすると、もう一つ、似た数字が混ざりやすいので触れておきます。「35℃」です。
2010年にパデュー大学とニューサウスウェールズ大学の研究者が、人が生きていられる暑さの上限を計算したことがあります。答えは、湿球温度(しっきゅうおんど)で35℃。湿球温度は、温度計の先を濡らした布で包んで測る温度で、湿度100%のときに気温と一致します。つまり「湿度100%で気温35℃」が、健康な大人が日陰で安静にしていても体温を下げられなくなる限界だという計算です。この状態が何時間も続くと、体は汗で熱を捨てられず、体温が上がり続けます。
この35℃は、ヒートインデックスとはまったく別の物差しです。湿球温度35℃をヒートインデックスに換算すると、アメリカ国立気象局の表からはみ出す、計算できない領域になります。UCSの論文はこうした「表の範囲外」の日を「アナログなし(no analog)」と呼んで別枠で数えていて、歴史的にはアメリカ本土の面積の1%未満でしか起きなかったのが、今世紀半ばには25%以上、世紀末(高排出)には63%の地域で年1回以上起きると見積もっています。
ちなみに、湿球温度35℃はあくまで理論上の絶対限界で、実際にはそれよりずっと低い暑さで人は倒れます。高齢の人、持病のある人、体を動かしている人は、もっと低い温度で危険域に入ります。Live Scienceの特集によると、アメリカで暑さが主な死因または大きな要因として死亡証明書に記載された人は、1999年の1,069人から2023年には2,325人に増えているそうです。しかもこれは記録に残った分だけで、暑さが持病を悪化させて亡くなったケースの多くは、暑さが死因として書かれないため、実態はもっと多いと考えられています。
数字の読み方
最後に、今回たどった数字を整理しておきます。
「3倍」は、ヒートインデックス(気温+湿度の体感温度)が105°F=40.6℃を超える日の年間日数が、1971〜2000年の平均と比べて、2036〜2065年に3倍になるという意味です。対象はアメリカ本土48州の平均で、地域差は大きく、南東部やテキサス、フロリダでは月単位で増える一方、山岳地帯ではあまり増えません。この倍率は排出シナリオによらず、世紀末に排出量の差が効いてきます。
35℃は、これとは別の「湿球温度」の生存限界で、まだアメリカのどこでも常態化してはいません。
2019年の論文なので、最新の気候モデルではもう少し違う数字が出る可能性はあります。ただ、2026年の夏が記録を塗り替えたいま、「今世紀半ば」は予測の話というより、準備の話になってきています。
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出典
論文:Kristina Dahl ほか、Increased frequency of and population exposure to extreme heat index days in the United States during the 21st century(Environmental Research Communications、2019年、オープンアクセス)
報告書:憂慮する科学者同盟、Killer Heat in the United States(2019年7月)
紹介記事:Live Science(2026年8月20日、Stephanie Pappas)
2026年夏の気温:NOAA NCEI 月次レポート(2026年8月)


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