【オルドビス紀の生物】ヒトデ – 胴体を失い、頭だけで海底を這う動物

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名前ヒトデ(ヒトデ綱 Asteroidea、「星の形をしたもの」の意味)
分類棘皮動物門 ヒトデ綱
時代オルドビス紀前期(約4億8000万年前)〜現在
発見地最古級の化石はモロッコ・アンチアトラス山脈のフェゾアタ層。現在は世界中の海に分布
全長腕を広げた差し渡しで約1cm〜1m。多くの種は10〜30cm
体重最大級のヒマワリヒトデで約5kg。ふつうの種は数十〜数百g
種数現生約1900種

ヒトデは、ウニやナマコと同じ棘皮動物のなかまです。5本の腕を放射状に伸ばした星形の体で、口を下に向けて海底を這い、貝や小さな動物を食べます。祖先は左右対称の体をもつ動物で、今のヒトデも幼生のあいだは左右対称です。その体がなぜ五放射になったのかは150年以上にわたる問いでしたが、2023年の遺伝子の研究から、ヒトデの体はほぼ全体が「頭」に当たるという答えが出されています。

姿と暮らし

体の中心に円盤があり、そこから腕が伸びます。腕の数は5本が基本ですが、6本や7本の種、20本を超える種もいます。皮膚の下には炭酸カルシウムの小さな骨板が敷きつめられていて、骨板どうしは筋肉と結合組織でつながっています。この結合組織は硬さを自分で変えられるため、ヒトデは体をやわらかくして岩のすき間に入りこんだり、逆にかたく固めて波に耐えたりできます。

腕の下面には溝が1本ずつ走り、そこに管足と呼ばれる細い足がびっしり並んでいます。管足の中は海水で満たされていて、体の中の水路(水管系)とつながっています。水の圧力で管足を伸ばし、先端の吸盤で吸いつき、縮めて体を引き寄せる、という動きを何百本もの管足でくり返して移動します。ヒマワリヒトデのように管足が1万5000本を超える種もあり、この種は1分間に1mほど進むこともできます。

食べ方は独特です。二枚貝を食べるときは、管足で殻をつかんでわずかにすき間を開け、そこから自分の胃を口の外へ裏返して押しこみ、殻の中で消化します。腕の先端には赤い眼点があり、目のように像を結ぶことはできませんが、明るさの変化を感じ取ります。脳はなく、口のまわりを取り巻く神経の環と、各腕に伸びる神経が体を動かしています。腕をちぎられても再生し、種によっては切れた腕1本から体全体が再生します。

ヒトデが化石に残るのは、死んだあと骨板がばらばらになる前に埋まったときだけです。そのため全身の化石はまれで、保存のよい産地からまとまって見つかります。最古級の化石は、モロッコのフェゾアタ層から見つかったカンタブリギアステル・フェゾアタエンシスで、オルドビス紀最初期(トレマドキアン、約4億8000万年前)のものです。2021年にケンブリッジ大学のハンターらが記載したこの生物は、腕の骨格の組み方がウミユリとヒトデの中間にあり、現在のヒトデがもつ骨格の要素のうち、腕の中心を走る食物の溝に関わる部分しかそなえていませんでした。研究チームはこれを、ヒトデ類がウミユリに近い祖先から分かれてきた初期の段階の姿と解釈しています。

オルドビス紀は海の動物の種類が急に増えた時代で、当時の海底には三葉虫や腕足動物、まっすぐな殻の頭足類、床板サンゴがいました。ヒトデとクモヒトデの系統はこの時代に分かれ、以後、ペルム紀末や白亜紀末の大量絶滅もくぐり抜けて、体のつくりを大きく変えずに現在まで続いています。

岩場の生きものの数を決める捕食者

ヒトデは、生態学で「キーストーン種」という考え方が生まれるきっかけになった動物です。1963年から、ワシントン大学のロバート・ペインは、アメリカ・ワシントン州の岩場で、イガイを食べるオレンジ色のヒトデ(ピサスター)を一定の区画から取り除き続けました。ヒトデを取り除いた区画ではイガイが岩の面を占め、それまでそこにいた15種ほどの生きものが数年で半分ほどに減りました。数も重さも目立たない1種の捕食者が、その場の生きものの顔ぶれを決めていたことになります。この結果は1966年に発表され、1969年にペインはこうした種を「キーストーン種」と呼びました。

この関係は、ヒトデが減ったときにも確認されました。2013年から北アメリカ太平洋岸で、ヒトデの体に傷ができて腕が落ち、数日でとけるように崩れる「ヒトデ消耗性疾患」が広がり、メキシコからアラスカまでの20種以上が影響を受けました。最も被害が大きかったヒマワリヒトデは約60億個体が死んだとされ、現在は国際自然保護連合の絶滅危惧IA類に指定されています。ヒマワリヒトデが食べていたウニが増え、ウニがコンブの森を食い荒らし、コンブ林が広い範囲で失われました。原因は10年以上分からないままでしたが、2025年にブリティッシュコロンビア大学とハカイ研究所などのチームが、病気のヒトデの体液から細菌ビブリオ・ペクテニシダの一系統を分離し、健康なヒマワリヒトデに与えて同じ病気を再現することで、この細菌が原因のひとつであることを確かめました。

ヒトデの体は、ほぼ全部が「頭」

動物の体は、対称性でおおまかに二通りに分かれます。ヒトや魚や昆虫のように右半分と左半分が鏡写しになる左右対称と、クラゲやイソギンチャクのように中心のまわりに同じつくりが並ぶ放射対称です。ヒトデをはじめとする棘皮動物は五放射対称ですが、幼生の時期は左右対称で、頭と尾の方向がはっきりある体で海中を泳ぎます。ヒトデの幼生(ビピンナリア幼生)は数週間プランクトンとして漂ったあと海底に降り、体を組みかえて五放射の子ヒトデになります。左右対称だった祖先の体のどこが、大人のヒトデのどこに当たるのかは、19世紀から議論されてきました。

2023年、スタンフォード大学のローラン・フォルメリーとクリストファー・ロウらのチームは、この問いに遺伝子の側から答えを出しました。手がかりになったのは、動物の体の前後を決める遺伝子の並びです。ハエの頭を作る遺伝子とヒトの頭を作る遺伝子は同じものが使われていて、頭から尾にかけて、どの遺伝子がどの順で働くかが動物のあいだで広く共通しています。チームはこの遺伝子群30以上について、カリフォルニアの浅い海にすむヒトデ、パティリア・ミニアタの子ヒトデを薄く切って、どの場所でどの遺伝子が働いているかを立体的に地図にしました。

結果は、腕1本ごとに前後の並びが現れる、というものでした。腕の下面の中心を走る溝の線が、ほかの動物の「頭の先端」に当たる遺伝子を働かせ、そこから腕の縁に向かうにつれて、頭の後ろ側、さらに尾側に当たる遺伝子が順に並んでいました。つまり5本の腕は、それぞれが前後の軸を1本ずつもっていて、中心線が前、縁が後ろに当たります。そして、頭と尾のあいだにあるはずの「胴体」を作る遺伝子群は、ヒトデの体表のどこにも働いていませんでした。フォルメリーはこの結果を、ヒトデは胴体をまるごと失い、頭だけが海底を這っている動物だと表現しています。

この研究は、五放射の体が左右対称の祖先からどう生まれたかについて、新しい見方を示しました。従来の説明は、左右対称の体をどうねじって五放射に折りたたんだかを考えるものでしたが、この結果からは、体の前後の軸そのものは残っていて、胴体の部分が消え、頭の部分が5回くり返される形に組みかえられた、と読めます。同じ研究者たちは続けてクモヒトデでも同じ遺伝子の配置を確かめており、頭だけの体は棘皮動物に共通するつくりだと考えられています。一方で、これは体表の遺伝子から見た結果で、内臓や骨格の由来までを説明するものではありません。カンタブリギアステルを記載したハンターも、ヒトデがなぜ5本の腕をもつようになったかは化石からも未解決の問いだと述べています。

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出典

Formery, L. et al. (2023) Molecular evidence of anteroposterior patterning in adult echinoderms. Nature 623, 555–561. https://www.nature.com/articles/s41586-023-06669-2

ScienceDaily/スタンフォード大学(2023年11月1日)Where is a sea star’s head? Maybe just about everywhere. https://www.sciencedaily.com/releases/2023/11/231101134930.htm

Hunter, A. W. & Ortega-Hernández, J. (2021) A new somasteroid from the Fezouata Lagerstätte in Morocco and the Early Ordovician origin of Asterozoa. Biology Letters. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7876607

ケンブリッジ大学プレスリリース(2021年1月19日)New starfish-like fossil reveals evolution in action. https://www.cam.ac.uk/research/news/new-starfish-like-fossil-reveals-evolution-in-action

Paine, R. T. (1966) Food web complexity and species diversity. The American Naturalist 100, 65–75. http://dx.doi.org/10.1086/282400

Prentice, M. B. et al. (2025) Vibrio pectenicida strain FHCF-3 is a causative agent of sea star wasting disease. Nature Ecology & Evolution 9, 1739–1751. https://doi.org/10.1038/s41559-025-02797-2

ブリティッシュコロンビア大学プレスリリース(2025年8月4日)‘Disease detectives’ discover cause of sea star wasting disease. https://science.ubc.ca/news/2025-08/disease-detectives-discover-cause-sea-star-wasting-disease-wiped-out-billions-sea

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