双子の星の片方だけに、ベリリウムが1.6倍。星が自分では作れない元素が、惑星を飲み込んだ証拠になった

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同じガスの雲から、同じ時期に生まれた2つの星があります。地球から約180光年、うしかい座の方向にある HD 129171 と HD 129209 という連星です。表面温度の差はわずか24度、質量はどちらも太陽の1.1倍ほど、年齢もそろって約50億歳。ふつうなら、材料が同じなので中身の元素の割合も同じになるはずです。

ところがこの2つは、中身が違います。片方の HD 129171 のほうが、鉄が約1.3倍、リチウムにいたっては10倍も多い。この食い違いは2021年の研究で詳しく調べられ、「片方の星が自分の惑星を飲み込んだのではないか」という説が出ていました。

2026年6月、この連星をより高性能な分光器で測り直した論文が、天文学の専門誌 Astronomy & Astrophysics に載りました。筆頭著者はサンパウロ大学の大学院生 Anne Rathsam さん。決め手になったのは、鉄でもリチウムでもなく、星が自分では作れない元素、ベリリウムでした。

双子なのに中身が違う星たち

連星の2つの星は、同じ雲が縮んでできるので、生まれたときの元素の割合は同じと考えられてきました。実際、よく似た2つの星を精密に測ると、たいていは組成もほぼ一致します。

ところがここ10年ほどで、「よく似た双子なのに、中身が少しずつ違う」組が次々と見つかっています。違いが出るのは決まって、鉄・マグネシウム・ケイ素・カルシウムといった、高温でも固体になりやすい元素です。これらは岩石惑星の主な材料でもあります。

説明は2つ考えられます。一つは、星のもとになった雲がそもそも均一ではなく、場所によって元素の割合にムラがあったという説。もう一つは、生まれたあとに片方の星が岩石惑星を飲み込み、その材料が星の表面に溶け込んだという説です。

どちらが正しいかは、星の研究者にとって小さくない問題です。雲にムラがあるなら、「星の組成を見れば、どの雲から生まれたか分かる」という前提で銀河の歴史をたどる手法が揺らぎます。逆に飲み込みが原因なら、惑星が主星に落ちるほど荒れた道筋をたどる惑星系が、思ったより多いことになります。

岩石の材料ほど差が大きい

HD 129171 と HD 129209 は、こうした「中身の違う双子」の代表例の一つです。2021年の研究では、28種類の元素を測って、HD 129171 のほうが岩石の材料になる元素ほど多いことが示されていました。固体になりやすい元素ほど差が大きい、というきれいな傾向です。

Rathsam さんたちは、チリにあるヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡 VLT に取り付けられた分光器 UVES を使って、この連星を観測し直しました。星の光を虹のように細かく分け、元素ごとに決まった波長に出る暗い線の深さから、その元素の量を読み取る方法です。

工夫したのは、2つの星を「互いに比べる」測り方です。星の元素の量を絶対値で決めようとすると、星の表面温度や重力の見積もりに引きずられて誤差が大きくなります。けれど、ほとんど同じ2つの星を同じ線どうしで突き合わせれば、そうした誤差の多くは打ち消し合います。この方法で、鉄の差は約1.3倍、リチウムの差は10倍と、2021年の結果がより高い精度で裏づけられました。

そして今回新しく測ったのが、ベリリウムです。

星が自分では作れない元素

ベリリウムは、元素の周期表で4番目、リチウムの隣にある軽い元素です。宇宙にある元素の多くは星の内部の核融合で作られますが、ベリリウムは例外で、星の中では作られません。宇宙が生まれた直後にわずかにでき、あとは宇宙線が宇宙空間の原子を砕くときに少しずつ作られるだけです。

しかも太陽くらいの質量の星では、ベリリウムは壊れもしません。リチウムは約250万度で燃えてなくなるため、星の表面の物質が内部の熱い層まで運ばれると減っていきます。太陽の表面のリチウムが生まれたときの100分の1以下しか残っていないのは、このためです。一方、ベリリウムが壊れるには約350万度が必要で、太陽型の星の表面近くの物質はそこまで深くは運ばれません。太陽やそれより重い太陽型星で、年齢とともにベリリウムが減っていく様子は見つかっていません。

つまり、太陽型の星の表面にあるベリリウムの量は、生まれたときからほとんど変わらない。星が作ることも、壊すこともない。だから、同じ雲から生まれた双子の片方だけにベリリウムが多ければ、説明は「あとから外から入ってきた」しか残らないことになります。

これがリチウムとの大きな違いです。リチウムも星の中では作られないので、多ければ外から来たことの手がかりにはなります。ただ、リチウムは主系列の星として光っている何十億年のあいだに減り続けるので、「本来いくらあったはずか」が正確には分かりません。惑星を飲み込んだ証拠としてリチウムの多さを使った研究は、1,357光年先の TOI-5882 など、これまでにもあります。ただしその場合は、年齢や質量の近いたくさんの星と比べて「飛び抜けて多い」ことを示す必要がありました。

ベリリウムの線は、波長313ナノメートルという近紫外線の領域にあります。この領域は他の元素の線が密集していて、「線のない場所」の明るさの基準を決めるのが難しい。研究チームは、基準線の引き方を少しずつ変えた12通りの処理を星ごとに作り、理論的に計算した光の形といちばん合うものを選ぶという手間をかけています。

結果、HD 129171 のベリリウムは、相方の HD 129209 より約1.6倍多いことが分かりました。測定の誤差の5倍にあたる、はっきりした差です。鉄やマグネシウムが多いだけなら「雲のムラ」でも説明できたかもしれませんが、ベリリウムの差は雲のムラでは出ないと考えられています。これで、飲み込み説がかなり有力になりました。

地球11個ぶんの岩石

では、HD 129171 はどれだけの岩石を飲み込んだのでしょうか。研究チームは、星の表面の対流層に岩石が溶け込んだときに各元素がどれだけ増えるかを計算するプログラムで、観測された元素ごとの差を再現してみました。

いちばんよく合ったのは、地球の11.2倍の質量の岩石が溶け込んだ場合です。岩石の組成としては、地球そっくりの物質を0.1地球質量ぶんと、太陽系の始原的な隕石(炭素質コンドライトの一種)に似た物質を11.1地球質量ぶん混ぜたものが、ほとんどの元素で誤差の範囲内に収まりました。2021年の研究が出した約9.8地球質量という見積もりとも大きくは違いません。

ただし、この数字は下限です。計算は、飲み込みが星の表面付近の層だけに影響し、その後の混ざり合いを無視した場合のものです。実際には、重い元素が表面に濃く溜まると不安定になって内部との混ざり合いが起き、表面の濃さは時間とともに薄まっていきます。つまり、いま見えている差は飲み込んだ直後より小さくなっているはずで、本当はもっと多かった可能性があります。

もう一つ分からないのは、それが1個の大きな惑星だったのか、小さな天体がいくつも落ちた合計なのかです。太陽くらいの質量の星は対流層が深く、落ちてきた天体は大きくても小さくても、内部に届く前にばらばらに溶けて混ざってしまいます。そのため、残った元素の割合からは、落ちたものの個数や形は読み取れません。

リチウムの線には、もう一つ気になる兆候もありました。リチウムには質量の違う2種類(リチウム6とリチウム7)があり、壊れやすいリチウム6は、星が生まれて主系列に落ち着くまでに完全になくなるはずです。HD 129171 のリチウムの線の形はわずかに左右非対称で、リチウム6が残っている可能性と矛盾しません。ただ、この非対称は星の表面のガスの対流でも生じるため、今回の解析では結論を出していません。

太陽系のような穏やかな系は少ないのか

今回の論文のもう一つの主張は、「ベリリウムは、太陽型の星が惑星を飲み込んだかどうかを見分ける道具になる」ということです。双子の星で片方だけベリリウムが多ければ、それは飲み込みの痕跡である。リチウムのように「本来の量」を推定する必要がなく、時間がたっても消えにくい。そういう手がかりが一つ増えたことになります。

そのうえで、こうした双子の食い違いが本当に飲み込みによるものだとすると、惑星系の見方が少し変わります。2021年の別の研究では、よく似た連星107組を調べ、表面温度の高い星ほど組成の食い違う組の割合が高いことが示されています。温度の高い星は対流層が薄く、飲み込んだ物質が薄まりにくいので、この傾向は飲み込み説と合います。2025年の計算では、太陽型の星の半分ほどが一生のうちに惑星を飲み込むものの、化学的な痕跡として検出できるのはそのうち2割ほどとも見積もられています。

共著者のサンパウロ大学 Jorge Meléndez さんは、こうした証拠を合わせると、惑星が最初の軌道にとどまり続けた太陽系のような系は、思っていたほど多くないかもしれないと話しています。Rathsam さんは、生命が住める惑星であるためには、環境の条件だけでなく、他の天体に軌道をかき乱されても落ちずに生き残れる安定した軌道にいることも必要になる、と述べています。

もちろん、今回示されたのは1組の連星での結果です。ベリリウムが飲み込みの指標として使えるという主張も、太陽型の星に限った話で、質量が小さく対流層の深い星には当てはまりません。それでも、「星が作れず、壊しもしない元素」を物差しにするという考え方は、よく似た双子の星が見つかるたびに試せます。星の表面に残った食事の記録を読む方法は、こうして少しずつ精度を上げています。

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