白化したサンゴに健康なサンゴを1週間触れさせると、元に戻る。藻は「組織の橋」を渡っていた

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サンゴが白くなる「白化」は、サンゴが体の中に住まわせている褐虫藻(かっちゅうそう。光合成をしてサンゴに栄養を渡す藻)を、高い水温などのストレスで追い出してしまう現象です。白くなったサンゴはまだ生きていますが、栄養の大半を藻からもらっているので、藻が戻らなければやがて餓死します。野生の礁で藻が自然に戻るには数か月かかることが多く、その前に死んでしまうことが、白化が礁の衰退につながる理由のひとつです。スタンフォード大学ホプキンス臨海実験所の Daniel S. Collins さんらは、白化したサンゴに健康なサンゴを触れさせるだけで、藻が乗り移って白化が元に戻ることを Science Advances に報告しました。しかも、触れさせるのは1週間で足りました。

水槽の中で重なった2つの断片

きっかけは、共著者の Stephen R. Palumbi さんが研究室の水槽で見た光景でした。同じ群体から取ったハナヤサイサンゴ(Pocillopora damicornis)の断片が2つ、水槽の中で重なって落ちていて、片方は白化し、もう片方は健康でした。ところが、2つが触れ合っている場所から、白化した断片に色が戻りはじめていたのです。健康なサンゴが、隣の白化したサンゴに褐虫藻を渡しているように見えました。

Collins さんはもともと、サンゴの病気が接触で広がる仕組みを博士課程で調べていました。病気が接触でうつるなら、藻も接触でうつるのではないか。そう考えて、同じ個体から取った断片で白化したものと健康なものの組を10組つくり、5組は断片どうしを触れ合わせ、残りの5組は数ミリだけ離して並べました。

1週間の接触で、あとは自力で回復した

触れ合わせた5組では、白化した断片が8週間以内に完全に回復しました。藻の数は2週目の時点で4日ごとに倍になっていて、野生のサンゴが自然に回復するときと比べて最大で10倍ほど速い増え方です。一方、数ミリ離した5組では藻は移らず、白化した断片は20週で死にました。たった数ミリのすき間が、生死を分けていたことになります。

意外だったのは、接触を続ける必要がなかったことです。1週間だけ触れさせてから健康な断片を取り除いても、白化した断片はそのまま回復を続けました。回復の速さは、7週間触れさせ続けた場合と変わりません。最初に乗り移った藻が白化したサンゴの中で自力で増えるので、健康なサンゴの役目は「種をまく」ところまでで済むわけです。論文では、場合によっては3日の接触で足りた例もあったと書かれています。

藻は「組織の橋」を渡っていた

藻がどうやって移るのかを顕微鏡で調べると、触れ合った2つの断片は組織どうしが融合して、ひとつにつながっていました。この橋を通って、健康な側から白化した側へ藻と栄養が一方向に流れていたのです。融合が起きるのは、遺伝的に同じ個体から取った断片どうし(ジェネットと呼びます)に限られました。別の個体や別の種の断片を触れさせると、融合するどころか互いに攻撃し合ってしまいます。

ただし、別の個体の組み合わせでも、藻がまったく移らないわけではありませんでした。触れた直後からポリプが藻を取り込む、もうひとつの経路があります。こちらは橋を通る経路より遅く、それだけでは群体を回復させるには足りませんでした。

野生の礁で使えるかは、これから

今回の実験は研究室の水槽で、同じ個体から取った断片を使ったものです。野生の礁で、白化した群体に健康な群体を触れさせて同じことが起きるかはまだ分かっていません。白化が広い範囲で頻繁に起きるようになっている中で、群体ひとつずつに手当てをするやり方がどこまで通用するかという問題もあります。それでも、「白化したサンゴはまだ死んでいない」という出発点に立って、接触という単純な手段で回復が桁違いに速くなることを示した意味は小さくありません。著者らは、サンゴが自然に持っているこの回復の仕組みを、礁の再生に生かす研究の土台にしたいとしています。

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