【デボン紀の生物】ブロントスコルピオ – 史上最大のサソリの本当の名前は、ワラジムシとして付けられていた

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名前ブロントスコルピオ(Brontoscorpio)。ブロンテオスコルピオとも表記される。ギリシャ語の「雷」と「サソリ」を合わせた名前。2026年の再研究で、より古い学名プラエアルクトゥルス・ギガス(Praearcturus gigas、「アルクトゥルスの前の巨人」の意。アルクトゥルスはワラジムシに近い甲殻類の属名)と同じ動物とされた
分類節足動物 鋏角類 サソリ類。現生のサソリをすべて含むグループより前に枝分かれした系統とされる
時代デボン紀前期(ロホコフ期、約4億1500万年前)。かつてはシルル紀後期とされていた
発見地イングランドとウェールズの境界地域。ヘレフォードシャーのロウルストン、ウスターシャーのトリンプリー、ウェールズのタルガース近くの採石場など(セント・モーガンズ層)
全長約1m(推定)。ブロントスコルピオとして記載されたときは77〜94cmと推定された
ハサミの長さ最大約16cm

ブロントスコルピオは、デボン紀前期のイギリスの川辺にいた巨大なサソリです。全長は約1mと推定され、現生で最大のサソリの4〜5倍にあたり、知られているなかで史上最大のサソリとされています。ただし全身の化石はなく、手がかりは体の断片だけです。2026年には、この動物の化石が150年以上前に「巨大なワラジムシ」として名前を付けられていたものと同じだったと結論づけられ、学名が入れ替わりました。

姿と暮らし

見つかっている化石は、胴体の背中側の板、腹側の板、触肢(サソリのハサミにあたる脚)の一部などの断片です。尾にあたる部分は見つかっていません。全身の姿は、これらの断片を現生や化石のサソリの体に当てはめて復元されています。

サソリと判断された根拠はいくつかあります。触肢のハサミの動く指が、固定した指の外側に付いていること。これは現生のサソリと同じで、ロブスターなどの甲殻類のハサミとは向きが逆です。触肢の表面に細い畝が並んでいること。現生のサソリには、この畝をこすり合わせてシューという音を出す種がいます。そして腹側にある胸板(腹板)が、細長いほぼ三角形で、中央に溝が走っていること。現生のサソリの胸板は小さく、ふつうは五角形なので、この形は長いあいだサソリらしくない特徴に見えていました。2015年にカナダ・オンタリオ州の約4億3000万年前の地層から、保存のよい古いサソリのエラモスコルピウスが報告され、これと同じ形の胸板を持っていたことで、比べられるようになりました。

暮らしていたのは、網の目のように分かれて流れる川と、その氾濫原です。この時代の陸にはまだ木がなく、地面を覆っていたのは高さ数センチから数十センチの、葉のない小さな植物でした。陸の動物も、ヤスデや、クモに近い小さな節足動物がほとんどでした。一方、川には装甲に覆われた顎のない魚や、プテリゴトゥスのようなウミサソリがいました。

一部の標本では、腹部の両脇に、ロブスターの泳ぐための付属肢に似たひれ状の張り出しが見られます。化石が川の堆積物から出ることとあわせて、2026年の研究は、水中か水辺で暮らし、水と陸を行き来していた可能性を示しています。陸の小さな獲物だけでこの体を養えたかには疑問があり、川で魚やウミサソリを襲っていたとする見方もあります。ただ、ひれ状の部分の働きを確かめるには、さらに化石が要るとされています。

石炭紀の巨大なトンボやヤスデの大きさは、大気中の酸素の多さで説明されることがあります。このサソリはそれより少なくとも5000万年早く、約1mに達していました。研究チームは、酸素よりも、大型の捕食者がほかにほとんどいなかったことが大きさの理由になったと考えています。

巨大サソリの名前は、ワラジムシとして付けられていた

1870年代のはじめ、大英博物館の地質学者ヘンリー・ウッドワードは、ヘレフォードシャーのロウルストンの採石場から出た大型の節足動物の体節の化石を記載しました。ウッドワードはこれを巨大な等脚類、つまりワラジムシやダンゴムシのなかまの甲殻類と考え、プラエアルクトゥルス・ギガスと名付けました。現生の等脚類の属アルクトゥルスにちなみ、「アルクトゥルスの前の巨人」を意味する名前です。

この化石は断片的で、その後の解釈は大きく揺れました。1885年にはドイツのツィッテルが石炭紀の巨大な多足類アースロプレウラの仲間に入れ、1934年にはウミサソリの一覧に加えられています。1969年には、分類を決めるには断片的すぎるとされました。1980年に英国のロルフが初めてサソリと解釈し、1986年には米国の古生物学者キェレスビグ=ウェアリングがサソリとして独自の科を立てています。

その間の1972年、キェレスビグ=ウェアリングは、ウスターシャーのトリンプリーで見つかった長さ約10cmの化石を、巨大なサソリの触肢のハサミの動く指として記載し、ブロントスコルピオ・アングリクスと名付けていました。手がかりはこの指1本だけで、現生のサソリ2属の体の比率を当てはめて、全長を77〜94cmと見積もっています。当時、この化石の年代はシルル紀後期と考えられていました。「雷のサソリ」という名前と1m近い推定は図鑑や記録集に広く載り、ブロントスコルピオは巨大サソリの代表として知られるようになりました。2010年には、ウェールズの化石にも別の学名が付けられています。

どれも断片で、サソリかどうかの判断は研究者によって分かれていました。2024年には、ドイツと英国の研究者がサソリとする根拠に疑問を示し、別の研究者はプラエアルクトゥルスは甲殻類の可能性が高く、ブロントスコルピオの指も甲殻類の脚の先端かもしれないと論じています。

2026年6月、ロンドン自然史博物館の化石節足動物の学芸員リチャード・ハワードと、英マンチェスター大学のラッセル・ガーウッドらは、複数の博物館に分かれて保管されていた標本を集め、写真とCTスキャンで調べ直した結果を『Palaeontology』誌に発表しました。報道によると、取り組みは18年に及びました。ハサミの指の向き、触肢の畝、エラモスコルピウスと同じ形の胸板から、この動物はサソリであると結論づけています。そのうえで、ブロントスコルピオとウェールズの化石は、プラエアルクトゥルス・ギガスと同じ動物だと判断しました。また、年代はシルル紀後期ではなく、デボン紀前期のロホコフ期とされています。

学名は、同じ動物に複数の名前がある場合、先に付けられたものが有効になります。そのため、巨大サソリの名前として半世紀にわたって使われてきたブロントスコルピオは、1870年代に甲殻類として付けられたプラエアルクトゥルスに統合されました。史上最大のサソリの正式な名前は、ワラジムシの仲間にちなんだものになっています。

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出典

Howard, R. J., Garwood, R. J., Edgecombe, G. D. & Legg, D. A. (2026). A revision of Praearcturus gigas: a giant scorpion from the Lower Devonian (Lochkovian) of Britain. Palaeontology 69, e70064. https://doi.org/10.1111/pala.70064

The University of Manchester (2026年6月3日). World’s largest scorpion revealed from 415-million-year-old fossils. https://www.manchester.ac.uk/about/news/worlds-largest-scorpion-revealed-from-415-million-year-old-fossils/

Science News (2026年6月24日). The world’s largest scorpion lived 415 million years ago. https://www.sciencenews.org/article/largest-scorpion-lived-415-million-years-ago

Kjellesvig-Waering, E. N. (1972). Brontoscorpio anglicus: a gigantic Lower Paleozoic scorpion from central England. Journal of Paleontology 46, 39–42.

Dunlop, J. A. & Garwood, R. J. (2024). A review of fossil scorpion higher systematics. PeerJ 12, e18557. https://doi.org/10.7717/peerj.18557

Braddy, S. J. (2024). Carcinosomatoid eurypterid palaeoecology and phylogeny: ichnology and palaeocommunities. Neues Jahrbuch für Geologie und Paläontologie – Abhandlungen 312, 167–181. https://doi.org/10.1127/njgpa/2024/1206

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