この記事には広告(Amazon アソシエイトのリンク)を含みます。
白色矮星には、超えられない重さの上限があります。1930年代にインド出身の物理学者スブラマニアン・チャンドラセカールが、相対性理論と量子論から導いた「太陽の1.44倍」という限界です。どんな生まれ方をしても、水素が多くても炭素が多くても、これより重い白色矮星は自分の重さを支えきれない。この限界は長く揺るぎないものとされ、白色矮星が起こす Ia 型超新星を宇宙の距離を測る「標準光源」として使えるのも、爆発する星の重さがいつも同じ上限で決まるからでした。インド科学大学院の Zenia Zuraiq さんとケンブリッジ大学の Christopher A. Tout さんらは、この限界を磁場の力で超える白色矮星が、ごくふつうの星からできる道筋を計算し、The Astrophysical Journal Letters に報告しました。
電子の圧力が支える星
白色矮星は、太陽くらいの質量の星が燃え尽きたあとの姿です。核融合の燃料が尽きた星は赤色巨星にふくらみ、外側のガスを吐き出したあと、中心核だけが残って縮んでいきます。核融合の圧力がなくなると、星を支えるのは電子どうしが同じ場所に押し込まれるのを嫌う量子的な圧力(縮退圧)だけになります。チャンドラセカールが示したのは、相対論的な速さで動く電子のこの圧力が重力に対抗できるのは1.44太陽質量までで、それを超えれば星はさらに潰れて中性子星になる、ということでした。
ところが2003年、超新星サーベイの観測で、この限界を超える重さの白色矮星が爆発したとしか思えない、異様に明るい Ia 型超新星(SN 2003fg)が見つかりました。似た例はその後も報告され、「超チャンドラセカール白色矮星」はどうすればできるのかが問われるようになりました。速い自転で支えているのか、完全に縮む前に爆発したのか、いくつもの説明が出されています。
磁場が電子を「落ち着かせない」
今回の研究が注目したのは磁場です。白色矮星が強く磁化していると、電子は磁場と相互作用して、いちばん低いエネルギーの状態にすんなり落ち着けなくなります。その分だけ電子は重力に対してよけいに押し返せるようになり、理論上は3太陽質量近くまで支えられる計算になります。中性子星にはマグネターと呼ばれる極端に強い磁場を持つものがありますが、あれはずっと重い星から生まれます。太陽のような星が、白色矮星になるまでにそれほど強い磁場を持てるのか。それが問題でした。

ふつうの星が、強磁場の白色矮星になる
研究チームは、恒星進化の計算に広く使われているケンブリッジの STARS というコードに磁場の効果と冷却を組み込み、磁場を持つ主系列星が赤色巨星を経て白色矮星になるまでを一連のモデルで追いました。すると、最初から強く磁化している必要はないことが分かりました。星は赤色巨星の段階で外層の大半を失いますが、磁場は星に残ります。中心核が白色矮星へと縮むとき、磁場もその小さな核に集中して濃縮されるため、出発点ではありふれた磁場の星から、強く磁化した白色矮星ができるのです。
計算では、磁場を持つ主系列星の進化そのものも、磁場のない場合とは目に見えて違っていました。論文は、磁場で支えられるこうした白色矮星を「B-WD」と呼び、限界質量より下でも上でも安定に存在しうることを確かめています。その上限の値は、磁場の形、伴星からのガスの降着、冷え方によって変わります。チャンドラセカール限界という考え方そのものは揺るがないが、その値は星の中の物理、ここでは磁場に大きく左右される。それが著者らのまとめです。
大きすぎる白色矮星の説明にも
この結果は、超チャンドラセカール白色矮星の生まれ方を示すだけではありません。観測される白色矮星の中には、質量から予想されるより半径が大きいものがあり、磁場はこれも説明できる可能性があります。磁場が星を内側から支えれば、同じ質量でも星はふくらむからです。論文は SDSS J123204.19+522548.2 という限界質量より軽い白色矮星の大きな半径を、磁場と温度の効果で説明できる例として挙げています。
限界を超える白色矮星が、特別な生まれではなく、磁場を持つふつうの星の行き先のひとつだとすれば、磁化した白色矮星はこれまで思われていたより多いのかもしれません。それは Ia 型超新星の明るさのばらつきにもつながる話で、標準光源としての使い方にも影響してきます。1つの限界を試してみたら、宇宙について別のことが分かりはじめた。そんな研究です。
関連する商品
この記事に関連する本や商品は、Amazon で探せます。
上のリンクから購入されると、このブログに紹介料が入ることがあります。
出典
- Zuraiq, Z. et al. (2026) “Super-Chandrasekhar White Dwarfs by the Evolution of Magnetized Main-sequence Stars: New Mass Limits from STARS Simulation.” The Astrophysical Journal Letters 1010, L8. https://doi.org/10.3847/2041-8213/aea97e
- 同論文のプレプリント(arXiv:2609.22437、2026年9月)https://arxiv.org/abs/2609.22437
- Universe Today “Chandrasekhar Placed A Limit On White Dwarfs, But A New Study Finds This Limit Is Not Absolute”(2026年10月14日)https://www.universetoday.com/articles/chandrasekhar-placed-a-limit-on-white-dwarfs-but-a-new-study-finds-this-limit-is-not-absolute


コメント