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アメリカのテックメディア404 Mediaが2026年8月26日、Amazonの倉庫で働く従業員へのインタビュー記事を公開しました。その倉庫で行われているのは、届いた本の背を機械で切り落とし、ページをバラして高速スキャナで読み取り、あとに残った紙をまとめて容器に放り込む、という作業です。スキャンが終わった本はもう元に戻せません。従業員の言葉を借りれば、「ただのバラバラの紙」です。
AI企業が学習データのために紙の本を大量に買い集め、裁断してスキャンしている——そういう話は、この夏ずっと報じられてきました。今回の記事が新しいのは、その現場の中で働く人が、毎日の作業を自分の言葉で語ったところにあります。証言したのは匿名の従業員1人。取材したのは404 Mediaの共同創業者エマニュエル・マイバーグ記者です。
追跡装置が突き止めた施設
このインタビューには前段があります。404 Mediaは前の週、ある調査報道を公開していました。AI企業に買われていると疑われる希少本の大口注文に、書店の協力を得てAirTag(Appleの忘れ物トラッカー)を仕込み、荷物の行き先を追いかけたのです。
荷物はアメリカ国内を転々とした末、ネバダ州ラスベガスにあるAmazonの施設に到着しました。その建物の中に「VGT3」と呼ばれるチームがあり、届いた本の背を切り落としてスキャンする作業を専門に行っている——ここまでが前週の報道です。VGT3のロゴマークは、本を手にして歯をむき出しにした恐竜だそうです。
404 Mediaの取材に対して、Amazonの広報担当者は「Amazonは商業チャネルを通じて本を購入し、お客様が利用する製品やサービスの開発・改善に役立てています」という一文のコメントを出しています。この一文は報道の内容を否定していませんが、認めてもいません。AIという言葉も、本を裁断していることも、コメントには出てきません。Amazonが本の用途を公式に説明したことは、現時点でないのです。今回のインタビューは、その施設で実際に働いていた人の証言、という位置づけになります。従業員は取材を受ける権限がないため、匿名を条件に語っています。
本がバラバラの紙になるまで
証言によると、工程はこう流れます。本はトラックで届き、搬入口からいったん待機場所に置かれます。従業員たちは箱を開けて本を取り出し、トートと呼ばれる小さなプラスチックのかごに移します。トートがパレット1枚ぶんまで積み上がると、パレットジャッキを持った担当者が受入エリアへ運んでいきます。
受入エリアでは、本のバーコードを読み取って、必要な本かどうか、すでにスキャン済みの重複でないかを判定するそうです。不要と判定された本の行き先は「シャトル」——Amazon社内で使われる呼び名で、実体は高さ2メートル近い大型の段ボール容器です。従業員は、不要本がそこに投げ込まれる様子を「放り込まれる」と表現しています。会社側の説明では不要本は業者に返すことになっているそうですが、従業員は、山積みの容器から業者が本当に本を回収するのか疑問を口にしています。
必要と判定された本は、裁断の工程に進みます。裁断機は1台ごとに作業者が1人つく小さなワークステーションで、カバーの付いた投入口に本を差し込み、手を離してボタンを押すと、刃が降りて背を切り落とす仕組みです。背を失った本は、ただの紙の束になります。
そしてスキャンです。従業員の見立てでは、施設には少なくとも20台、おそらく25台ほどのスキャナが並んでいます。その見た目を、従業員は「札束を数える機械みたい」と表現しました。紙幣カウンターがお札をパラパラとめくって数えるように、スキャナがページを高速でめくり、画面には読み取られた誌面が次々と流れていくそうです。

スキャンを終えたページの行き先も、シャトルです。従業員が中をのぞくと、切り離されたバラバラの紙がそのまま投げ込まれていたといいます。もう一度本の形に戻す方法は、ありません。
パレットに積まれた日本語の本
では、どんな本が裁断されているのでしょうか。従業員によれば「思いつく限りのあらゆる種類の本」です。新品もあれば、図書館の放出品らしき使い込まれた本もある。ロンドンからの箱もあれば、ロンドン大学の蔵書とみられるものもある。中には、英国議会に提出されたことを示す記載のある政府文書までまじっていたそうです。言語もさまざまで、ドイツ語やロシア語の本が多く見られたといいます。
そして従業員は、こう証言しています。日本語の本を、パレットまるごと受け取っていた、と。しかもその多くは、まだシュリンク包装も解かれていない新品だったそうです。
つまりこういうことです。AIの学習データづくりというと、どこかのサーバーにあるテキストの話、それも英語の話だと思いがちですが、実際に起きているのは、日本で刷られた本が誰にも開かれないまま太平洋を渡り、ラスベガスの倉庫で背を切り落とされる、という物理的な出来事でした。何冊なのか、どの出版社の本なのかは分かりません。分かっているのは、日本語の本のパレットがそこにあった、という1人の証言だけです。それでも、この話が日本と無関係でないことを示すには十分でしょう。
従業員自身は、この仕事をどう受け止めているのでしょうか。当初、職場では「Kindle(Amazonの電子書籍)のためだ」と説明されていたそうですが、本人は著作権の問題を考えると電子書籍の作り方としておかしいと感じ、最初から信じていなかったといいます。のちにAI学習のためだと知った、というのが本人の弁です。そして、こう締めくくっています。本には膨大な知識が詰まっていて、中には希少なものもありそうなのに、そのあと二度と使えなくなるというのが、どうにも好きになれない。ほかの人が手にできる本を、減らしているのだから、と。
「稀少書の破壊」への異論
ここまで読むと、貴重な本が失われていく話として受け止めたくなります。ただ、この報道の翌週、技術系メディアHackadayに、少し違う角度からの論説が載りました。書いたのは出版業界での勤務経験が長いジェニー・リスト氏で、趣旨は「報道で使われている『稀少書(rare books)』という言葉は誤解を招く」というものです。
論拠は具体的です。報道によれば、AI企業は本をISBN(本の裏表紙にあるバーコードの国際規格番号)で発注しています。ISBNの制度が導入されたのは1970年。つまり買われているのは基本的にここ50年ほどの出版物であり、修道士が手で書き写した中世の写本のような、失われたら二度と戻らない文化財ではない、という指摘です。リスト氏はさらに、出版業界では売れ残った新刊が毎年大量に溶かされて再生紙になっている現実を挙げ、破壊される本への憤りと、AI企業への反感が結びついて、本の価値が実態以上に膨らんで語られているのではないか、と論じています。
一方で、ISBNが付いていれば希少でない、と言い切れるわけでもありません。数百部しか刷られなかった郷土史や専門書にもISBNは付きますし、現存部数が少なければ、1冊の裁断が世の中に残る部数を確実に減らします。今回の追跡調査の出発点になった大口注文も、希少本を扱う書店から出たものでした。「中世の写本ではない」ことと「失っても惜しくない」ことは、別の話です。
もうひとつ添えておくと、本を裁断してスキャンする手法そのものは、AI企業の発明ではありません。日本でも、手持ちの本を裁断して自分でスキャンする「自炊」は以前からよく知られています。今回の話で新しいのは手法ではなく、その規模と、スキャンした中身が一企業のAIの中に取り込まれて、外からは見えなくなるという点です。
残された疑問
整理すると、確かな事実と、まだ分からないことの間には、はっきりした線があります。ラスベガスの施設で本が裁断・スキャンされていること、そこに日本語の本も含まれていたことは、追跡調査と従業員の証言が示しています。一方で、スキャンされたデータが具体的に何に使われているのかを、Amazonは明らかにしていません。何冊が処理されたのか、スキャン済みのデータがいつか公開される可能性はあるのかも、分かりません。
従業員の証言で印象に残るのは、憤りよりも、もったいなさの感覚です。目の前を流れていく本を、できることなら持ち帰りたかった。その素朴な感想が、20台のスキャナが高速でページをめくる光景と並んだとき、この出来事の輪郭がいちばんよく見える気がします。
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出典
404 Media(2026年8月26日、Emanuel Maiberg記者):Inside the Warehouse Where Amazon Scans and Destroys Books for AI Training
404 Media(2026年8月17日、同記者による追跡調査の記事):We Tracked a Shipment of Rare Books. It Ended at an Amazon AI Training Facility
Hackaday(2026年8月25日、Jenny List氏の論説):AI Book Scanning: Just What Is A Rare Book?


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