【カンブリア紀の生物】アユシェアイア – 姿は最初から正しく、素性だけが決まらない

スポンサーリンク
名前アユシェアイア(Aysheaia pedunculata)。属名は化石産地の近くにあるアイシャ峰(現アイーシャ峰)から。種小名はラテン語で「足」の意味
分類葉足動物(ロボポディア)。節足動物・カギムシ・クマムシの共通の祖先に近い系統
時代カンブリア紀中期(約5億800万年前)
発見地カナダ・ブリティッシュコロンビア州、バージェス頁岩(ウォルコット採石場)
全長1〜6cm
体幅約5mm
脚10対。先端に複数の爪

アユシェアイアは、カンブリア紀の海にいた葉足動物のなかまです。細長い筒状の体に、関節のない柔らかい脚が10対並び、それぞれの先端に爪をそなえていました。頭と呼べる区画はなく、体の先端がそのまま口になっています。バージェス頁岩でも数の少ない生物で、化石はしばしば海綿の破片といっしょに見つかります。1911年の記載以来、復元図の向きは一度も変わっていません。変わり続けてきたのは「何の仲間なのか」のほうです。

姿と暮らし

体は細長い筒形で、全体に細かいしわ状の環節(アニュレーション)が走っています。骨も甲羅も持たない、やわらかい生き物です。体の下側には10対の短い脚が並び、それぞれの脚にも環節があって、ところどころに小さな棘が生えていました。脚の先端には複数の爪がまとまってついています。最後の1対の脚は後ろではなく前を向いています。

体の前端には口が開き、そのまわりを小さな突起(乳頭)が輪になって囲んでいます。口のすぐ横からは、枝分かれした1対の付属肢が斜め前に突き出ています。ほかの脚とは形が違い、物をつかんだり、体を固定したりする役割があったと考えられています。化石には体の中心を走る細い線が残っており、腸の跡と解釈されています。

この姿の大部分は、1978年にハリー・ウィッティントンが15点の標本を洗い直して描き出したものです。ウィッティントンはこの研究で、アユシェアイアが泥を掘って食べる生物ではなかったこと、そして化石がほかのどの生物よりも海綿の破片と一緒に出やすいことを指摘しました。そこから、海綿の群体に爪でしがみつき、前の付属肢で体を支えながら口を海綿に押し当てて食べていた、という生活像が提案されています。海綿のなかに身を隠すことで、アノマロカリスのような捕食者からも守られていたとする見方です。海綿にくっついて水中のえさを濾しとる「濾過食」の可能性も検討されましたが、そのための体の特殊化が見られないため、海綿の表面を歩きながらかじる、あるいは小動物を捕るほうが有力とされています。

アユシェアイアが暮らした約5億800万年前のバージェス頁岩の海底には、アノマロカリス、オパビニア、マルレラ、三葉虫といったカンブリア紀の顔ぶれがそろっていました。同じ葉足動物のなかまでは、背中に棘の列を持つハルキゲニアが同じ地層から見つかっています。ただしアユシェアイア自体はとても少なく、ウォルコット採石場で数えられた標本のうち0.04%にも届きません。

属としては、現在バージェス頁岩の1種だけが知られています。1985年にアメリカ・ユタ州の地層から「アユシェアイア・プロラタ」という第2の種が記載されていましたが、2017年の再研究で、その標本は葉足動物ではなく、アノマロカリスのなかま(ラディオドンタ類)スタンレイカリスの前部付属肢が1本だけ落ちていたものだと結論づけられました。横向きに潰れたアユシェアイアの輪郭に似ていたことが、取り違えの原因でした。

姿は動かず、素性だけが動き続けた

アユシェアイアの化石を最初に記載したのは、バージェス頁岩の発見者チャールズ・ウォルコットです。1911年、ウォルコットはこの生物を「カンブリア紀中期の環形動物」と題した論文のなかで、ゴカイのなかまとして発表しました。同じ論文には、のちにハルキゲニアと呼ばれることになる化石も「カナディア・スパルサ」というゴカイの1種として載っています。アユシェアイアとハルキゲニアは、同じ年、同じ論文で、同じ「ゴカイ」として記載されたことになります。

その後の運命は正反対でした。ハルキゲニアは1977年にサイモン・コンウェイ・モリスが再記載した際、背中の棘を脚、脚を背中の触手と読んで上下逆さまに復元され、1991年に中国の化石をもとにひっくり返されました。さらに2015年には、それまで頭とされていた丸いふくらみが死後に漏れ出た体液の跡であり、頭は反対側だったことが電子顕微鏡の観察で確定しています。上下と前後の両方が、それぞれ何十年もあとになって入れ替わった化石です。

いっぽうアユシェアイアの復元は、ウォルコットが1911年に描いた向きのまま、今日まで裏返っていません。脚が下で、前の付属肢がある側が前。1978年のウィッティントンの再研究も、体の細部を大きく描き足しはしましたが、向きそのものは動かしていません。バージェス頁岩の生物の多くが復元のやり直しを経験するなかで、この点でアユシェアイアは例外的な存在です。

そのかわり、動き続けたのは系統上の居場所でした。ゴカイとして記載されてから12年後の1923年には、現生のカギムシ(有爪動物)に似ていることが指摘され、1931年にはウォルコット自身も「カギムシに近い」と考えを改めています。そこからアユシェアイアは長いあいだ「カンブリア紀のカギムシの祖先」として図鑑や教科書に載り続けました。ただし現生のカギムシが持つ顎や粘液を出す器官は見つかっておらず、1958年には独自の門を立てるべきだという意見も出ています。ウィッティントンは1978年の再記載で、カギムシともクマムシ(緩歩動物)とも似ている点があるとしながら、どちらにも入れずに独立の科として扱いました。

2010年代に入り、コンピュータを使った系統解析が葉足動物全体に適用されると、アユシェアイアは葉足動物の系統樹のいちばん根元近くに置かれるようになります。2014年と2015年の解析はいずれもこの位置を支持しました。ところが2017年、ロイヤル・オンタリオ博物館のジャン=ベルナール・カロンとセドリック・アリアは、バージェス頁岩から新しい葉足動物を記載するとともに、アユシェアイアが現生のクマムシに近い系統に属する可能性を指摘しました。根拠としたのは、前を向いた最後の脚と、脚の先端に複数の爪がまとまってつく特徴で、これらは現生のクマムシにも見られます。同じ研究者らは2020年の論文でもこの見方を支持しています。

現時点で、アユシェアイアの居場所に定説はありません。葉足動物全体の根元に置く解析と、クマムシの系統の最初期のメンバーとする解析が並び立っており、ロイヤル・オンタリオ博物館の公式解説もクマムシ説を「合意には至っていない」と注記しています。1911年に描かれた姿がそのまま通用している一方で、その姿が節足動物・カギムシ・クマムシのどの枝の付け根にあるのかは、記載から100年以上たった今も決まっていません。

出典

Whittington, H. B. (1978). The lobopod animal Aysheaia pedunculata Walcott, Middle Cambrian, Burgess Shale, British Columbia. Philosophical Transactions of the Royal Society B, 284, 165–197.
https://doi.org/10.1098/rstb.1978.0061

Royal Ontario Museum, The Burgess Shale: Aysheaia pedunculata(分類・記載史・生態の解説)
https://burgess-shale.rom.on.ca/fossils/aysheaia-pedunculata/

Caron, J.-B. & Aria, C. (2017). Cambrian suspension-feeding lobopodians and the early radiation of panarthropods. BMC Evolutionary Biology, 17, 29.
https://doi.org/10.1186/s12862-016-0858-y

Pates, S., Daley, A. C. & Ortega-Hernández, J. (2017). Aysheaia prolata from the Utah Wheeler Formation (Drumian, Cambrian) is a frontal appendage of the radiodontan Stanleycaris. Acta Palaeontologica Polonica, 62(3), 619–625.
https://doi.org/10.4202/app.00361.2017

Smith, M. R. & Caron, J.-B. (2015). Hallucigenia‘s head and the pharyngeal armature of early ecdysozoans. Nature, 523, 75–78.
https://doi.org/10.1038/nature14573

コメント

タイトルとURLをコピーしました