歌うキツネザルは、高い音ほど口を大きく開けていた。オペラ歌手と同じ声の響かせ方

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マダガスカルの東部の森に、歌うキツネザルがいます。インドリという、キツネザルの仲間でいちばん大きな種で、朝の森に群れで長い歌を響かせます。霊長類で「歌う」と言える声を出すのは、テナガザルやティティモンキーなど数えるほどしかなく、キツネザルの中ではインドリだけです。

そのインドリが、高い音を出すときほど口を大きく開けていることを、イタリアのトリノ大学などのチームが野生の個体の動画から数値で示しました。人間のオペラ歌手が高音で口を開くのと同じ仕組みで、声を遠くまで届かせているらしいというのです。2026年9月21日の PLOS Computational Biology に報告されています。

声の高さと、口の形は別もの

声の高さ(基本周波数)は、のどの声帯がどれくらい速く震えるかで決まります。一方、口やのどの空間は、その声のうち特定の高さの成分だけを響かせる筒のような働きをします。管楽器の管と同じで、筒の形が変わると、よく響く高さ(共鳴周波数、フォルマント)が変わります。口を大きく開けると、筒の出口が広がって、いちばん低い共鳴の位置が上にずれます。

人間の声楽では、このずれを意図的に使います。高い音を出すとき、口を開けて共鳴の位置を声の高さやその倍音にぴったり重ねると、声帯に無理をさせずに声が大きく響きます。これをフォルマント・チューニング(声道の調律)と呼び、ソプラノ歌手が高音で口を大きく開けるのはこのためです。同じことをする動物がいるかどうかは、オオカミの遠吠えやマカクの声など、少数の例しか調べられていませんでした。

野生のインドリ19頭、83本の動画

インドリの歌を調べるのは簡単ではありません。歌うのは高い樹冠の上で、顔はあちこちを向き、枝や葉に隠れます。チームは2008年から2024年にかけてマダガスカル東部のマロミザハの森とミツィンジョ保護区で撮りためた動画の中から、顔が見えている歌の場面を83本選びました。11の群れの19頭(メス11頭、オス8頭)が写っています。

口の開き具合を測るのに使ったのは、DeepLabCut という、動物の体の部位を動画から自動で追う深層学習のソフトです。インドリの顔に目・鼻・口のまわりの13点を置くモデルを作り、歌っている場面の630コマを手で教え込んで精度を上げました。テストでの誤差は4.55ピクセルで、実際の口の開き(平均50ピクセル程度)より十分小さい値です。コマごとに上唇と下唇の距離を測り、両目のあいだの距離で割ってカメラまでの距離の違いをならしました。

これを同じ瞬間の音声から取った基本周波数と突き合わせます。歌の声の高さは573ヘルツから1,238ヘルツのあいだでした。

高い音ほど、口は大きく開く

統計モデルで解析すると、口の開きと声の高さのあいだには、はっきりした正の関係がありました。口の開きがいちばん小さかった場面の声は628ヘルツ、いちばん大きく開いた場面は1,154ヘルツです。性別の違いを考慮しても関係は変わりません。インドリは声の高さに合わせて、あごの開きを変えているわけです。

インドリの場合、声の高さは、いちばん低い共鳴(第1フォルマント)とちょうど重なる範囲にあります。口を開けて共鳴の位置を上げれば、高い声を出すときにその声そのものが筒に乗って響く。つまり人間の歌手と同じ、フォルマント・チューニングをしていると考えるのが自然だ、とチームは述べています。密林の中で群れどうしが縄張りを知らせ合うには、声が遠くまで届くことが大事です。あごの開きは、そのための工夫のひとつになっているようです。

人間とインドリの系統は、Smithsonian 誌の記事によれば7,400万年ほど前に分かれています。そのあいだに歌の技術が受け継がれたとは考えにくく、別々に同じ答えにたどり着いた(収斂した)とみるのが妥当でしょう。

示せたのは「連動している」ところまで

チームは結果の読み方に慎重です。分かったのは、口の開きと声の高さが連動していることであって、インドリが共鳴を「狙って」合わせているかどうかは、この方法では直接には示せません。舌の位置や咽頭の形など、口の開き以外の要素が共鳴に効いている可能性も残ります。動画は2次元なので、顔の向きによって測った距離が縮んで見える問題もあり、横を向いた場面は除いたものの、完全には消せていません。

それでも、野生動物の歌を、音声と顔の動きの両方からコマ単位で突き合わせる手法ができたことは大きい、と著者らは書いています。これまで動物の発声の研究は音だけを扱うことが多く、口の動きは手作業で数えるしかありませんでした。深層学習で顔を追えるなら、ほかの歌う動物にも同じ問いを立てられます。

インドリは絶滅の危機にある種で、森の減少とともに個体数が減っています。その歌の仕組みがようやく細かく分かりはじめたところです。

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