217年間誰も読めなかったナポレオンの暗号書簡を、AIが画像1枚から6時間で解いた

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1809年の春、ナポレオンの継子でイタリア副王だったウジェーヌ・ド・ボアルネの司令部から、アドリア海の東岸、いまのクロアチアにいたマルモン将軍に宛てて、一通の手紙が送られました。中身は暗号で、1行のふつうのフランス語のあとに、数字と文字と記号を混ぜた24行が続きます。ほかの部隊から遠く離れた将軍に、ヨーロッパ各地の味方の配置を知らせる手紙です。途中で奪われても読めないように、暗号にしてありました。

この手紙は、1969年にフランスの軍事史の雑誌に写真が載って以来、暗号史の愛好家のあいだで「未解読」として知られていました。それが2026年9月、セキュリティ企業 SentinelOne の AI エンジニア、カーター・チャーチが OpenAI のモデル GPT-6 Astra に画像1枚と指示を渡したところ、およそ6時間で解読が終わりました。217年ぶりに読めるようになった手紙の話です。

先に書いておくと、この記事は AI の Claude を使って書いています。別の会社のモデルの話ではありますが、AI がどこまでできるかを扱う記事ですので、その点はお含みおきください。

155種類の記号を、1,300個

この手紙の暗号は、同音換字式と呼ばれる型です。ふつうの換字式暗号は、A を別の記号に、B をまた別の記号に置き換えます。これだと記号の出てくる回数を数えれば、よく使う文字が割れてしまいます。同音換字式は、E のようによく使う文字に複数の記号を割り当てて、どれを使ってもよいことにし、回数の偏りを隠します。この手紙では、155種類の記号が全部で約1,300個並び、そのうち29種類は de や que のような単語まるごとを表す記号でした。

手がかりは2つありました。ひとつは、残っている唯一の画像が低解像度のスキャンだったにもかかわらず、14行目に平文の「CONSEQUENT」という語が紛れていたこと。もうひとつは、暗号史家のダニエル・タンが、同じ時期のウジェーヌと「グラモン将軍」のあいだの暗号表として、33文字ぶんの対応を公表していたことです。マルモンとグラモンの取り違えらしく、この手紙と結びつけて考えた人はいませんでした。

モデルがやったこと

チャーチが与えたのは、1,202×1,836ピクセルの画像1枚と、課題を述べた指示だけです。記号1個あたり約19ピクセルしかありません。モデルはまず画像を行ごとに切り分けて記号を書き起こし、筆記の揺れをまとめて175種類の仮の記号ラベルを作りました。次に、ウェブを調べる過程でタンの暗号表を自分で見つけ、名前の違いにかかわらず当てはめてみて、約3分の1の記号が埋まることを確かめます。

残りは探索です。焼きなまし法という最適化の手法で、記号に文字を割り当てては、できあがるフランス語らしさを3〜5文字のつながりの統計で採点し、少しずつ組み合わせを改善していきます。採点に使ったフランス語の資料は、ユゴー、デュマ、そしてマルモン自身の回想録です。文字を1個ずつ割り当ててもフランス語にならない記号は、単語まるごとの記号として扱い直しました。最後に、提案した記号の値を画像上のすべての出現箇所と照らし合わせています。

チャーチはさらに、ナポレオン時代の文献を採点用の資料から外して解き直す試験もしています。結果は同じ読みでした。手紙の内容を資料から「覚えていた」のではなく、暗号として解いたことの確認です。

答え合わせができる手紙

この解読が信用できる理由は、答えが別のところに残っているからです。ナポレオンがウジェーヌに宛てた1809年3月16日付の指示は、公刊された『ナポレオン1世書簡集』に収められています。そこには、マルモンに伝えるべき内容として、バイエルン軍、ポーランド軍、ザクセン軍、各元帥の率いるフランス軍、ロシア軍の7つの部隊が、位置と兵力つきで列挙されています。解読された手紙は、同じ7つの部隊を同じ順番で、同じ数字で挙げていました。

キングス・カレッジ・ロンドンのマイケル・ロウは Live Science に、これを「ロゼッタストーンのようなもの」と表現しています。中身がほぼ分かっている手紙で道具を試し、期待どおりの文が出てくれば、中身の分からない文書に同じ道具を使うときの信頼につながる、という意味です。裏を返せば、この手紙そのものから新しい事実が出てきたわけではありません。ロウもその点ははっきり言っています。

暗号史の目録サイト Cryptiana を運営する東京の友清理士は、チャーチの解を検証したうえで、この手紙の項目を「解読済み」に改め、1807年とされていた日付を1809年に直しました。チャーチ自身は、1回しか出てこない記号の読みは根拠が薄いとして、5つの記号について別の読みがありうると注記しています。「陛下」か「皇帝」か、「フリウリで」か「フリウリ軍」か、単数か複数か、といった違いで、手紙の趣旨は変わりません。

中身は、戦争の直前の空気

手紙は、オーストリアとの戦争が始まる直前のものです。各軍の配置に続いて、オーストリア軍がどこから攻めてきそうかを述べ、フランス側の数の優位からオーストリアは破滅に向かっていると評し、進軍の命令を受けたら少数の敵や「寄せ集め」に臆するな、とマルモンを励ましています。ポーツマス大学のザック・ホワイトは、この手紙に書かれた兵力は実際に使えた数より6万人ほど多く、ナポレオンがオーストリアのイタリア侵攻の規模にこだわっていたようすが読み取れる、と Live Science に話しています。

チャーチは、書き起こし、暗号表、検証と再現のためのスクリプトを一式、自分のサイトで公開しています。誰でも手元で解を確かめ直せるようにしたわけです。彼が強調しているのは、暗号を解くことより、解が正しいかを確かめる仕組みを作ることのほうが難しいという点です。6時間で解いた、という見出しの裏で、いちばん手間がかかっているのはそこです。

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