地球の核から水が漏れている。マグマの海が固まっても「軽い水素」の偏りはできないと計算で示し、火山の溶岩に混ざる水素の出どころを核に絞った

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地球の中心にある核は、鉄とニッケルを主体にした金属の球で、いちばん外側の層は今も融けています。その核が、地球が生まれたときに閉じ込めた水素を、少しずつマントルへ漏らしているらしい。中国科学技術大学(合肥)の Yu Zhang さんたちは、計算でその可能性を詰めた論文を2026年10月9日に Science Advances に発表しました。地球の表面に出てくる溶岩の中に、ふつうより「軽い水素」が混ざっている理由を、核以外の説明では作れないことを示した研究です。著者は4人で、論文は誰でも読めます。

溶岩に混ざる「軽い水素」の謎

水素には、ふつうの水素と、中性子が1つ多くて重い重水素があります。地球の岩石や海水では、重水素の割合(D/H と書きます)はおおむね決まった範囲に収まるのですが、アイスランドやカナダのバフィン島などの火山から出てきた溶岩の中には、重水素の割合がとても低い、つまり「軽い水素」を抱えたものがあります。こうした場所の溶岩は、核とマントルの境界に近い深いところから湧き上がってきたマントルの柱(プルーム)に由来すると考えられています。

この軽い水素の出どころには、2つの説がありました。1つは、地球が生まれた直後、表面全体がマグマの海だったころに、固まっていく過程で重水素の多い部分と少ない部分に分かれ、その「少ない部分」が深いマントルに取り残されたという説です。もう1つは、地球を作った材料の中にあった原始の軽い水素が核に取り込まれ、それが今も核からマントルへ漏れ出しているという説です。どちらも筋は通るのですが、どちらが本当かを決める手だてがありませんでした。

マグマの海が固まるときに、水素は分かれるのか

Zhang さんたちが取り組んだのは、1つめの説を数字で検証することでした。マグマの海が冷えて固まるとき、融けた岩(融体)と、固まってできる鉱物の間で、重水素とふつうの水素はどれくらい分かれるのか。これが分かれば、固まったあとのマントルにどれだけ D/H の偏りができるかを計算できます。

ここで問題になるのが、水素という元素の性質です。水素は原子の中でいちばん軽いので、量子力学的なふらつきが大きく、ふつうの計算ではその挙動を正しく扱えません。チームは、原子の量子的な振る舞いを取り込める「経路積分」という計算手法を、機械学習で高速化して使いました。対象にしたのは、深いマントルを作る代表的な鉱物であるブリッジマナイト、リングウッダイト、ワズレアイトの3つで、マグマの海と同じ高い圧力と温度のもとで、融体と鉱物の間の水素同位体の分かれ方を求めています。

偏りは、ほとんどできなかった

結果は、はっきりしたものでした。融体と鉱物の間での水素同位体の分かれ方は、どの鉱物でも、どの圧力や温度でも弱く、マグマの海が固まったあとの原始マントルの D/H はほぼ均一になります。つまり、固まる過程で「軽い水素のたまり場」を深いマントルに作ることはできない、という計算です。

チームは、計算の前提をいろいろ変えても結果が動かないことも確かめています。いちばん効いたのはマグマの海が最初に持っていた水素同位体の組成で、最初の水の量を今の海の2倍ぶんまで振っても、答えはほとんど変わりませんでした。マグマの海の環境は、同位体を整然と仕分けるには激しすぎた、と言い換えてもよいでしょう。

そうなると、火山の溶岩に残っている極端に軽い水素は、マグマの海の名残では説明がつきません。残る候補が、核です。地球を作った材料には、太陽系を生んだガスと塵の雲に由来する軽い水素が含まれていて、核ができるときにその一部が核に取り込まれたと考えられています。核からその水素がマントルへ移れば、マントルの D/H は下がります。同じ溶岩には、ヘリウム3の割合がとても高いという特徴もあって、ヘリウム3も原始の揮発性物質が核から漏れている証拠として議論されてきました。Zhang さんたちは、水素とヘリウムの両方の特徴を合わせて、核からマントルへ揮発性物質が選択的に移っていて、しかもそのやりとりは今も続いていると結論しています。

深いマントルは、原始の記録をそのまま残していない

この結論には、もう一段の含みがあります。深いマントルのどこかに、地球誕生のころの物質がそのまま残っている「原始の貯蔵庫」があるのではないか、という考えは長く議論されてきました。今回の計算は、たとえそういう場所がかつてあったとしても、今の深いマントルの水素同位体の特徴は、初期の分かれ方の単純な名残ではなく、核とのやりとりで書き換えられ続けてきたものだと言っています。地球の内部は、生まれたときの記録を凍結して保管しているのではなく、今も中身を入れ替えながら動いている、ということです。

この研究は計算によるもので、核から実際にどれだけの水素が、どんな速さで出てきているかを測ったわけではありません。核に取り込まれた水素の量そのものも、別の実験で議論が続いています。それでも、「マグマの海が固まる過程では軽い水素のたまり場を作れない」という一点を数字で押さえたことで、溶岩の中の軽い水素は核から来たという説が、消去法で強く残ることになりました。足元の地面の下で、地球が生まれたときの材料が今もゆっくりとにじみ出している。火山の溶岩は、そのにじみを運んでくる数少ない便りなのかもしれません。

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