塩の水和物をゲルに閉じ込めて、建物に熱をためる「サロゲル」。パラフィンの2倍以上の熱を同じ体積に蓄え、模型の家を涼しくも暖かくもした

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氷を入れた飲み物が冷たいままなのは、氷が融けるあいだ、温度を上げずに熱を吸い続けるからです。固体と液体のあいだを行き来するときに熱をためたり出したりする物質は「相変化材料」と呼ばれ、建物の壁や床に仕込めば、昼の熱を吸って夜に返す蓄熱材になります。この用途で長く基準になってきたのはパラフィンというろうですが、米テキサス A&M 大学の研究者たちは、それより2倍以上の熱を同じ体積にためられる「塩の水和物」を、高分子のゲルに閉じ込めて使う道筋をまとめました。「サロゲル」と呼ばれる材料の総説で、2026年6月1日に ACS Applied Materials & Interfaces に掲載されました。筆頭著者は Kartik Kumar Rajagopalan さんで、著者は4人です。新しい実験を報告した論文ではなく、これまでの研究を整理して課題と方向を示した論文です。

塩の水和物という蓄熱材

塩の水和物とは、塩の結晶の中に水の分子を抱え込んだ物質です。たとえば酢酸ナトリウム三水和物は、使い捨てでない「くり返し使えるカイロ」の中身として知られています。融けるときに吸う熱(融解熱)が大きく、同じ体積ならパラフィンの2倍以上の熱をためられます。燃えにくく、値段も安いものが多い。塩化カルシウム六水和物は、ソーダ灰(炭酸ナトリウム)を作るときの副産物です。

これだけ条件がそろっていながら建物に使われてこなかったのは、融けると液体になってしまうからです。液体は漏れ、場所によっては成分が層に分かれて、次に冷えても元の結晶に戻りません。閉じ込めようとして多孔質の支持体に染み込ませたり、カプセルに封じたりする工夫が重ねられてきましたが、そうすると材料のうち塩が占める割合は7割を下回り、肝心の蓄熱の量が減ります。カプセル化は製造も複雑にします。

少しの高分子で、塩を「その場に留める」

サロゲルの考え方は、塩の水和物に少量の高分子を加えて、全体をゲルにすることです。ゼリーが水を抱えて形を保つように、高分子の網が融けた塩を抱えて、漏れも層の分離も抑えます。高分子はごく少量なので、塩の割合は高いまま保てます。

とくに有望なのが、高分子の網のつなぎ目に「可逆な結合」を使ったものです。切れたりつながったりできる結合で網を組むと、温度に応じてゲルになったり溶けたりを行き来でき、成形や詰め替えがしやすくなります。この型のサロゲルは、純粋な塩が持つ蓄熱容量の80〜95%を保っていました。カプセル化で7割を切っていたことを思えば、大きな違いです。

模型の家で試したこと

試験はまだ小さな規模ですが、建物での使い方はすでに2通り示されています。1つは「受け身」の使い方で、屋根や壁や窓に材料を仕込み、昼と夜の温度差でひとりでに融けたり固まったりさせるものです。もう1つは「能動的」な使い方で、エアコンや給湯器のような装置の中に組み込み、熱の出し入れを制御するものです。

模型の家を使った実験では、床下に通した3本の管に酢酸ナトリウム三水和物のゲルを詰め、1本ずつ、2本、3本と、熱を放つ管を選んで切り替えられることを確かめました。別の実験では、3Dプリンターで作った家の壁にサロゲルを塗ったところ、同じ形で塗っていない家に比べて、ゲルが融けるあいだは室内が目立って涼しく、結晶に戻るあいだはずっと暖かく保たれました。窓に使う案もあります。昼に融けて透明になりながら熱を吸い、夜に結晶化して白く濁りながら熱を返す、という使い方です。

まだ解けていないこと

著者らは、残っている課題も並べています。ゲルを固くすると蓄熱の量が減り、蓄熱に優れたものはやわらかい。熱を「決まったときに」返してもらう必要があるのに、塩の中には固まる温度まで冷えても液体のまま留まるものがある(過冷却と呼ばれます)。高分子の網はこれを抑える助けになるのですが、なぜ効くのかは分かっていません。湿気からどう守るか、大量にどう作るか、何千回も融けて固まるのを繰り返したときにどれだけ持つか、そして実際の建物でどれだけエネルギーが節約できるのかは、どれもまだ数字がありません。

次の一手として著者らが挙げているのは、どの高分子がどの塩に溶けるかを計算や機械学習で予測すること、融ける温度を調整できる塩の混合物、高分子自身が熱をためる設計、3Dプリントやゲルの繊維といった新しい成形法です。目指しているのは、何年も建物の中で持ちこたえる、丈夫でリサイクルできる材料だと書いています。

塩の水和物が優れた蓄熱材であることは、ずっと前から分かっていました。足りなかったのは「融けても逃げない」ようにする方法で、サロゲルはその答えの候補です。総説が描いているのは、できあがった製品ではなく、ここまで分かって、ここから先が要る、という地図です。

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