ズワイガニが100億匹消えた海で、雑種が13.4倍に増えた。ベーリング海の熱波から7年後に現れた「枠の外のカニ」

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2025年の夏、ベーリング海の底を引く調査のトロール網に、それまでめったに入らなかったカニが次々と上がりました。ズワイガニとオオズワイガニのあいだに生まれた雑種です。数は過去の平均の13.4倍。漁獲できる大きさの雄にかぎると、ズワイガニとして水揚げされる雄の4割以上を雑種が占めていました。米国海洋大気庁(NOAA)アラスカ水産科学センターの Erin J. Fedewa らが2026年10月19日に PNAS に発表した論文は、この急増の原因を、2018〜2019年の海洋熱波のあとに起きたズワイガニの大量死に求めています。熱波から7年たって現れた、誰も予想していなかった結果でした。

1982年から続く底引き調査

東ベーリング海は、ズワイガニやオオズワイガニ、タラバガニ、スケトウダラなどを獲る北米有数の漁場です。NOAA はここで1982年から、2020年を除いて毎年、夏に底引き網の調査を続けてきました。決まった地点で網を引き、何がどれだけ獲れたかを数える地道な仕事で、資源量の推定と漁獲枠の計算はこのデータが土台になっています。

ズワイガニ(Chionoecetes opilio)とオオズワイガニ(C. bairdi)は近縁で、同じ海域に住んでいます。交配して雑種が生まれることは前から知られていましたが、数はごくわずかでした。論文によれば、漁獲サイズの雄に占める雑種の割合は、ずっと10%に満たない状態でした。雑種は両親の中間の姿をしていて、調査では口の形で見分けます。ズワイガニの口は平らに横に開き、オオズワイガニは M の字の形、雑種はそのあいだの曲線になります。目の色にも違いがあります。

ズワイガニが100億匹消えた海で、雑種が13.4倍に増えた。ベーリング海の熱波から7年後に現れた「枠の外のカニ」

熱波のあとに消えた100億匹

2018年から2019年にかけて、ベーリング海は記録的な海洋熱波に見舞われました。冬の海氷が大きく減り、海氷が融けるときにできる海底の冷たい水のかたまり(冷水塊)が縮んで、底の水温が上がりました。ズワイガニは冷たい水を好む種で、この冷水塊が住みかです。

結果は、2023年に同じセンターのチームが Science に報告しています。2018年以降に100億匹以上のズワイガニが東ベーリング海から消え、2021年には資源量が過去最低まで落ち込みました。水温が上がると代謝が上がって必要な餌が増える一方で、分布できる範囲が狭まり、多くのカニが餓死したとみられています。海洋熱波による動物の大量死としては、世界でも最大級の記録です。アラスカ州は2022年と2023年の漁期にズワイガニ漁を史上初めて中止しました。

ズワイガニが100億匹消えた海で、雑種が13.4倍に増えた。ベーリング海の熱波から7年後に現れた「枠の外のカニ」

13.4倍の雑種と、41.7%

ズワイガニが減っていくのと入れ替わるように、調査の網には雑種が増えていきました。2025年の調査で、雑種の資源量は過去の平均の13.4倍、漁獲サイズの雄に占める雑種の割合は13.1倍になりました。割合でいえば、10%未満だったものが41.7%です。Fedewa は NOAA の記事で「2025年の調査データを解析しながら、雑種の急増の大きさに衝撃を受けた」と話しています。2026年の調査では、漁獲サイズの雄の雑種はさらに多く、成熟した雌の雑種も採集されました。

オオズワイガニも同じ年に記録上最多になりました。こちらはもともと暖かめの水を好む亜寒帯の種なので、海が温まれば増えること自体は意外ではありません。意外だったのは雑種のほうです。歴史的にまれで、どんな条件で増えたり減ったりするのかほとんど分かっていなかったため、雑種まで温かい海の恩恵を受けるとは、研究者も漁業の管理者も考えていませんでした。

温かい水が直接増やしたのではなかった

原因の候補はいくつかあります。温かい水が雑種の生き残りを直接よくした。ズワイガニとオオズワイガニの分布が重なって、交配の機会が増えた。あるいは、ズワイガニが減ったことで、餌や場所をめぐる競争と、ズワイガニに食べられることが減った。チームは、これらの筋道を同時に扱える「動的構造方程式モデル」で、どれが効いていたかを調べました。相関を見るのではなく、因果の向きを仮定して確かめる手法で、生物学的にありそうな時間差(熱波の影響が何年後に出るか)も変えて試しています。

結果は、3つ目の筋道でした。春の海氷の減少がズワイガニの資源量を下げ、そのズワイガニの減少が雑種とオオズワイガニの増加を引き起こしていた。温かい水そのものや分布の重なりは、雑種の増加を説明しませんでした。熱波に端を発するこの間接的な経路が、雑種とオオズワイガニの増加の76%を説明したと論文は書いています。熱波が一つの種をほぼ消し、空いた場所に別の種と雑種が入ってきた、という連鎖です。

枠の外にいるカニ

この話がやっかいなのは、雑種が漁業の仕組みのどこにも書かれていない点です。漁獲サイズの雄の雑種は、冬の漁期にズワイガニとして合法的に獲って水揚げできます。ただ、ベーリング海のカニの漁獲枠を決める連邦の管理計画は、雑種があまりに少なかったため、雑種を数に入れていません。雑種だけの枠を設ける仕組みもありません。

2025年の漁期には、アラスカ州がズワイガニの漁獲枠を引き上げ、漁業者が雑種を狙って獲ることを期待しました。ただ Fedewa は ScienceAlert に対し、このやり方は一般には望ましくないと話しています。枠を増やせば、崩壊から立ち直りつつあるズワイガニまで多く獲られる危険があるからです。雑種が繁殖できるのか、親種にどんな影響を及ぼすのかも、まだ分かっていません。雑種の増加はここ数年のことで、生態的な結果が出るのはこれからです。

海洋熱波が生態系に「驚き」をもたらすことは、ここ数年で広く認められるようになりました。この研究は、その驚きが熱波の直接の効果ではなく、一つの種の崩壊を経由した間接の経路で、しかも7年後に現れうることを示しています。固定された漁獲の枠組みは、こうした予想外の変化に弱い、と論文は結んでいます。共著者の Emily Ryznar は、雑種の問題がこの先も管理者にとって差し迫った課題であり続けるだろうと述べています。

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