外からリズムを与えなくても、ばらばらの振動が勝手にそろって「時間結晶」になった。37個の六角形で見えた「波の粗大化」

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時間結晶は、ふつうの結晶が空間の中で原子を規則正しく並べるように、時間の中で同じ動きを規則正しく繰り返す物質の状態です。2012年に理論が提案され、いまでは原子の集まりや超伝導回路など、いくつもの系で作られています。ただ、これまでの時間結晶の多くは、外からレーザーやマイクロ波で周期的に叩いて作るものでした。アムステルダム大学の Jonas Veenstra、Corentin Coulais らは、外からリズムを与えずに、ばらばらの小さな振動が勝手にひとつのリズムにそろっていく過程を、手のひらサイズの装置で観察しました。論文は2026年10月14日に Nature に載っています。

隣に「一方的に」影響する六角形

装置は、3Dプリントした弾性の六角形を3個ずつ組にした単位を37個、蜂の巣のように並べたものです。それぞれの六角形にはセンサーと小さなモーター(アクチュエーター)、電子回路が付いていて、まわりの動きに応じて自分を押したり引いたりできます。こうした「部品の並べ方で性質が決まる材料」をメタマテリアルと呼びます。

仕掛けは、隣どうしの関係にあります。ふつうの材料では、A が B を押せば B も A を同じだけ押し返します。この装置では、ある六角形が縮むと、時計回りの隣は縮み、反時計回りの隣は逆に伸びるように回路が組んであります。影響が一方通行で、押した分だけ押し返されるという対称性がありません。論文はこれを非相反(ひそうはん)の相互作用と呼んでいます。

外からリズムを与えなくても、ばらばらの振動が勝手にそろって「時間結晶」になった。37個の六角形で見えた「波の粗大化」

小さな震えが、大きなうねりに飲み込まれる

チームはこの蜂の巣に、小さなランダムな揺れを与えて、あとは何もせずに観察しました。最初に起きたのは、それぞれの単位が毎秒30回ほどの速さで細かく震えることでした。ところが時間がたつと、装置の縁を回る長くて遅い波が現れて、細かい震えを飲み込んでいきます。波は進むにつれてさらに長く、遅く、大きくなり、最後には37個の単位がそろってひとつのリズムで動くようになりました。この最終状態が時間結晶です。

論文がこの過程に付けた名前が「波の粗大化(wave coarsening)」です。粗大化は、磁石の中の磁区や、分離しかけたエマルションの液滴が、時間とともに合体して大きくなっていく現象の総称で、小さな模様が大きな模様にまとまっていく、物理学ではおなじみの振る舞いです。ただし従来の粗大化は、系が平衡に向かってゆっくり落ち着く過程で起きます。今回見つかったのは、その振動版です。エネルギーを食いながら動き続ける系で、波の長さと周期と振幅が自発的に大きくなっていき、同期した状態に落ち着く。チームは1次元と2次元の装置でこれを観察し、波が大きくなっていく速さの法則も捉えました。

外からリズムを与えなくても、ばらばらの振動が勝手にそろって「時間結晶」になった。37個の六角形で見えた「波の粗大化」

止め方も分かった

チームは粗大化を途中で止める方法も試しています。装置の設定を変えて運動量の保存が成り立たないようにすると、波は大きくなるのをやめました。そのとき現れたのは、装置の縁を一方向にだけ回る波で、トポロジカル絶縁体(内部は電気を通さず縁だけに電流が流れる物質)の縁の流れに似た、非線形の遠い親戚だと論文は位置づけています。

この研究が面白いのは、秩序が外から与えられるのではなく、混沌から勝手に育つ点です。一方通行の相互作用を持つ系が時間とともにどう振る舞うかは、まだ理論がそろっていません。論文は、同じ原理が音響や光と機械の組み合わせ、生きた細胞の集団、柔らかいロボットの中の非線形な波にも当てはまるかもしれないと述べるにとどめています。37個の六角形が勝手にそろった、というところまでが、いま言えることです。

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