コンゴ盆地の100年の気温は、電気の無い町の棚に積まれた手書きの観測簿にあった。9,885枚を読んで分かった0.5℃の上昇

スポンサーリンク

この記事には広告(Amazon アソシエイトのリンク)を含みます。

アフリカ中央部のコンゴ盆地には、アマゾンに次いで世界で2番目に大きな熱帯雨林と、やはり世界2位の流量を持つコンゴ川があります。ところが、ここがどれだけ暖かくなってきたのかを示す観測の記録は、国際的な気候研究の中でほとんど使われてきませんでした。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書でも、コンゴ盆地の猛暑日や大雨の変化は、1950年代以降の観測にもとづく評価が抜けたままです。記録が無かったわけではありません。紙に手で書かれたまま、研究者の手が届かない場所に積まれていたのです。

その紙の山を掘り起こし、1908年から2023年までの連続した気候の記録に組み直した研究が、ベルギーのブリュッセル自由大学(VUB)の Derrick Muheki さんたち20人のチームから出ました。コンゴ民主共和国とベルギーの研究者が加わり、論文は2026年10月12日に Earth System Dynamics に掲載されています。誰でも読めるオープンアクセスの論文です。

記録は植民地時代の終わりで途切れていた

コンゴ民主共和国は1908年から1960年までベルギーの植民地でした。その時代の気象観測の記録はベルギー側にも保管されていて、金属の箱と中性紙に入れられ、温度と湿度を管理した部屋に収められています。Muheki さんはウガンダ南西部の出身で、博士課程のためにベルギーへ渡り、こうした文書を手にすることができました。ただし、それは1950年代で終わっています。独立後の60年あまりの記録は、コンゴ国内に残されたままでした。

残されていた場所は、国の中央部にある Yangambi(ヤンガンビ)という町です。植民地時代、この町はプランテーション経営を支える農業と林業の研究の拠点で、コンゴ川のほとりに研究センターが建てられました。独立後は国立農学研究所(INERA)となって、いまも活動を続けています。その気候部門の書庫に、全国37か所の観測所から集められた日々の気象観測簿が、手書きのまま保管されていました。

この町へ行くのは簡単ではありません。隣の町とを結ぶ道は舗装されておらず、雨が降ると使えなくなります。Muheki さんはバイクの後ろに乗り、カメラと照明と大量のバッテリーを積んだもう1台のバイクと一緒に向かいました。町には電力網がなく、書庫にも電気は来ていません。使える電気はバッテリーと発電機だけでした。

9,885枚の紙を、機械学習で数字に戻す

2023年3月にまず書庫の中身を調べ、同じ年の8月から9月にかけて撮影を進めました。記録は観測所ごと・月ごとに1枚の表にまとめられていて、その数は9,885枚にのぼります。文書は開いた棚に積まれ、湿気と虫にさらされていました。到着の数か月前には建物の別の棟で火事があったばかりで、紙の記録がいかにもろいか、そして急いで救い出す必要があることを、Muheki さんはそこで実感したと話しています。

撮った写真を数字のデータに戻す作業には、チームが開発した MeteoSaver(メテオセーバー)という機械学習のツールを使いました。写真から表の枡(ます)を切り出し、手書きの数字を文字認識で読み取り、前後の値と矛盾していないかを自動で点検する仕組みです。手で描かれた表の225枚は自動の読み取りから外し、37観測所のうち36か所をこのツールで転記しました。残る1か所は以前に転記が済んでいたものです。読み取った観測値は、気温と降水量を合わせて100万件を超えます。

機械が手書きの数字をどれだけ正しく読めたかは、INERA の職員が手で転記していた5か所の観測所の記録と突き合わせて確かめました。一致した割合は81.2%から92.3%、気温の読み取りの誤差は平均で0.18〜0.51℃です。完璧ではありませんが、気候の傾向を調べるには使える精度だとチームは判断しています。

1961〜1990年に、最高気温は0.7℃上がっていた

こうしてつながった記録は1908年から2023年まで届きますが、独立後の記録の多くは1960年代から1990年代半ばまでで、2000年代まで続くものはわずかです。そのため傾向の分析は、観測所がもっとも多く残る1961〜1990年を中心に、21か所の観測所で行われました。

結果は、世界のほかの地域で見られている変化と同じ向きでした。日々の最高気温は10年あたり0.22℃の上昇で、30年で約0.7℃。日平均気温は10年あたり0.15℃で約0.5℃、最低気温は10年あたり0.10℃で約0.3℃上がっています。暑い側の変化のほうが大きく、最高気温が33.3℃を超える暑い日は、この30年の最初の10年には年に3日ほどだったのが、最後の10年には5日ほどに増えました。日平均気温が26.9℃を超える日も3日から6日へ増えています。反対に、最高気温が低い側に外れる寒い日は年7日から5日へ、寒い夜は5日から4日へ減りました。

降水量のほうは、長く途切れずに記録が残る観測所が3か所しかなく、はっきりしたことは言いにくい状況です。それでも2か所では大雨の頻度が増えていて、東部の Mulungu では、1日63mm の雨がかつては2年に1度ほどだったのが、1年に1度ほどへ縮まっていました。

この結果の意味は、数字そのものより「観測にもとづく数字が初めて出た」ことにあります。これまでこの地域の気候の変化を語るときは、観測の無いところを計算で埋めた「再解析」と呼ばれるデータに頼るしかありませんでした。今回、その再解析データと観測を比べると、傾向の向きや大きさに大きな食い違いはありませんでした。ただ、再解析データは1950年代の初めに気温が4.5〜5℃も跳ね上がる期間があり、観測にはそれが見られません。観測が少ない時代の再解析がどれだけ当てにならないかを、紙の記録が逆に教えた形です。

紙が消える前に

論文は、自分たちの結果の限界もはっきり書いています。読み取りの精度を確かめた観測所は5か所だけで、手で転記した記録のほうが正しいという前提に立っています。降水量の結果は3か所の話で、地域全体を代表するとは言えません。観測機器の交換や観測所の移転、周囲の土地利用の変化が傾向に混ざっている可能性も残ります。

それでも、できあがったデータは欧州のコペルニクス気候変動サービスのデータベースに登録され、研究者が使える形で公開されます。MeteoSaver の設定もあわせて公開されており、ほかの国の紙の記録にも同じ手順が使えます。Muheki さんは、こうした記録にもっと手が届くようになれば、この地域の過去の気候の復元も、将来の予測も精度が上がると話しています。コンゴ盆地では気候の変化への備えがすでに日々の課題になっていて、その土台になる数字が、湿気と虫と火事の脅威の中で紙のまま残されていたということです。

関連する商品

この記事に関連する本や商品は、Amazon で探せます。

上のリンクから購入されると、このブログに紹介料が入ることがあります。

出典

コメント

タイトルとURLをコピーしました