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月は、いまも少しずつ縮んでいます。約45億年前に生まれたときの熱を内部にまだ抱えていて、それが冷めていくぶんだけ全体が小さくなるからです。縮んだ岩の殻は、表面に「崖」の形で跡を残します。スミソニアン国立航空宇宙博物館の Thomas R. Watters さんたちは、月の周りを17年回り続けている NASA の探査機ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)の画像から、そうした若い崖を1万本以上数え上げ、月の半径が過去4億〜8億年のあいだに42〜46メートル減ったと見積もりました。論文は2026年10月14日に学術誌 The Planetary Science Journal に出ています。
月面に走る、若い「崖」の正体
月の表面には、高さ数十メートル、長さ1キロメートルから数十キロメートルの、ゆるく曲がった崖が点々とあります。片側が急な斜面、反対側がなだらかな坂という非対称な形で、「ローブ状の崖(ロベート・スカープ)」と呼ばれます。地殻が横から押し縮められ、地下数百メートルから1キロメートルほどの浅い断層に沿って、片側の地面が反対側に乗り上げた跡です。地震で言えば逆断層にあたります。
この崖が若いことは、いくつかの手がかりから分かっています。直径50メートルに満たない小さなクレーターを崖が切っていること、崖の背後にできた浅い溝が砂に埋まり切っていないこと、そして崖の位置が、アポロ計画で置いた地震計がとらえた浅い月震の震源と重なることです。クレーターの数から出した年代は1億5,000万年より新しく、月の46億年の歴史から見れば最近の出来事です。
LRO に載ったカメラ(LROC)は、2009年の打ち上げ以来、月の表面を0.5〜2メートルの細かさで撮り続けてきました。地形の起伏が見やすい斜めの光で撮った画像が、赤道をはさむ南北45度の範囲の9割を覆うまでになったことで、今回の数え上げができました。研究チームが地図に落としたローブ状の崖は8,900本を超え、そのうち長さ1キロメートル以上のものが約5,470本。先行研究で使えたのは約3,200本でしたから、3倍近くに増えています。
崖は高地にも、暗い平原(海)にも、北極近くの永久影の底にもありました。永久影の中は太陽光が届かないので、韓国の月探査機に載った NASA のカメラ ShadowCam が、周りの地形からの照り返しだけで撮った画像を使っています。北極の近くにあるムーシェ L というクレーターの永久影には崖が集まっていて、いちばん長い崖の高さは約116メートルありました。

崖の長さを足し合わせると、半径の縮みが出る
崖の形から半径の変化を出す考え方は、こうです。断層に沿って地面がずれた量(変位)は、断層の長さにほぼ比例します。研究チームは代表的な42本の崖について、LROC の立体画像から作った地形モデルで最大の高さを測り、断層の傾きを25〜35度と置いて、長さと変位の比を決めました。高さは4メートルから164メートル、長さは0.3キロメートルから14キロメートルまで散らばっています。この比を使えば、地図に落とした全部の崖について、長さから変位を見積もれます。
地図上の崖の長さを全部足すと約1万9,133キロメートルになりました。これに変位の比を掛けて月の高地の面積で割ると、高地が面積にしてどれだけ縮んだかが出ます。海のほうは、別の研究で見つかっていた2,600本余りの「小さな海の尾根」が同じ押し縮めの跡なので、長さの合計約7,550キロメートルを同じやり方で足しました。両方を合わせた月全体の面積のひずみは0.0048〜0.0053パーセント。これを球の半径に直すと、42〜46メートルの縮みになります。海の尾根が足したぶんは6メートル以下で、縮みの大半は高地の崖が担っていました。
この量を、崖ができ始めた時期で割ると縮む速さが出ます。断層の活動が約4億年前に始まったとすれば100万年あたり約11センチメートル、月の地質年代でいちばん新しいコペルニクス代の始まり、約8億年前からだとすれば約6センチメートル。1年に直すと0.1マイクロメートルほどで、地球のプレートが年に数センチメートル動くのとは桁が違う遅さです。それでも、この縮みが月の岩の殻に生む圧縮の力は約4メガパスカルと見積もられ、アポロの地震計が記録した浅い月震で解放された力の大きさと合います。
なぜ月は「最近になって」縮み始めたのか
この論文でいちばん考えさせられるのは、縮みの量よりも、縮みの時期です。月の内部が冷え続けてきたのなら、崖は何十億年も前から作られ続けていたはずで、古い崖は成長して水星や火星にあるような高さ1キロメートル級の大きな崖になっていてもおかしくありません。ところが月の高地には、そうした古くて崩れかけた大きな崖が見当たりません。約36億年前に月の膨張期が終わってから、押し縮めの跡は海のしわ(リンクル・リッジ)を除いて、ここ3億〜4億年まで、ほとんど残っていないのです。
一方で、月の熱の歴史を計算する模型の多くは、今回の見積もりよりずっと大きな縮みを予想します。著者たちは、このずれを「地殻が縮みを吸収していた」という説で説明できるかも検討しましたが、月の砂(レゴリス)は深さ数百メートルで隙間がほぼ潰れて密度が上がるので、すき間を閉じて縮みを隠せる量は限られる、と退けています。
残る説明は2つです。1つは、月の表層が厚くて隙間だらけの砕けた岩の層(メガレゴリス)で覆われていて、それが断熱材のように内部の熱を閉じ込め、冷えて縮むのを最近まで遅らせていた、という考え。もう1つは、高地の硬い岩の殻が力をため込み、しきい値を超えたコペルニクス代になって初めて一斉に割れ始めた、という考えです。どちらにしても、月の内部は一本調子に冷えてきたのではなく、長いあいだ熱を保ったあとで、最近になって縮みが表面に現れた、という見方になります。地殻がいちばん厚い場所ほど崖が少ないことも、厚い殻が熱を閉じ込めていたという見方と合います。

月震は、どこでも起きる
地球では地震の9割がプレートの境目に集まりますが、月にはプレートがなく、殻は一枚の球面です。縮みによる力は殻全体に均等にかかるので、断層も月震も特定の帯には集まらず、表面じゅうに散らばります。研究チームは、LROC が時期をずらして撮った画像に写った新しい地滑りが若い崖の近くに集中していることから、これらの断層がいまも動いていて、ずれるたびに周りの斜面を揺らしていると見ています。アポロ17号が降りたタウルス・リトロー谷にも、リー・リンカーン断層という若い崖が走っています。
月の内部はこれからも冷え続けるので、既存の断層は伸び、新しい断層も生まれ続けるはずだと Watters さんは話しています。月面に長く滞在する基地を考えるなら、どこに若い崖があり、どのくらいの揺れが来うるかは、場所選びの材料の一つになりそうです。今回の崖の地図は、スミソニアンのデータ公開サイトで誰でも使える形で公開されています。
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出典
- Watters, T. R., Banks, M. E., Nypaver, C. A., Robinson, M. S. (2026) “Thrust Faulting and the Late-stage Contraction of the Moon” The Planetary Science Journal 7: 239(2026年10月14日・英語。全文無料)
- スミソニアン国立航空宇宙博物館「New Study Reveals How Much the Moon is Shrinking」(2026年10月・英語)
- Space.com「The moon is shrinking. 10,000 cracks on the lunar surface reveal by how much」(2026年10月19日・英語)


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