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2025年3月28日、ミャンマー中部のサガイン断層が約480キロメートルにわたって一度に動き、マグニチュード7.8の地震が起きました。横ずれ断層の破壊としては記録に残る最長級で、首都ネピドーとマンダレーは震度階級で最も強い部類の揺れに見舞われ、論文の集計で3,000人以上が亡くなっています。地震を予知することはできない、というのが地震学の立場です。ただ、この地震について、スクリップス海洋研究所の Alice-Agnes Gabriel と Yuri Fialko、ミュンヘン大学の Thomas Ulrich らが10月14日に Nature Communications に出した論文は、少し違うことを言っています。断層が地下でどんな形をしているか、少なくともどれだけすべるか、どんな条件で破壊が異常に速く走るか。この3つは、地震が起きる前に集まっていたデータから読めていた、というのです。
186年のあいだ動かなかった区間
サガイン断層はミャンマーを南北に貫く断層で、インド・プレートとスンダ・プレートの相対運動のうち年16〜24ミリメートルを引き受けています。累積のずれは100キロメートルを超え、過去200年に M7 を超える地震を何度も起こしてきました。1839年には M8 と推定される地震があり、そのとき動いた区間のうち約200キロメートル(メイッティーラの地震空白域)は、それから186年間、大きな地震を起こしていませんでした。地震の直前まで、断層がどこで固着してひずみをためているかは衛星の測位データで分かっていました。
著者らはまず、地震の前後に撮られた Sentinel-1A と ALOS-2 の合成開口レーダー画像、Sentinel-2 の光学画像から、地面がどれだけ動いたかを測りました。震源の近くで地表のずれは5メートルを超え、南へ50〜80キロメートル行くと3メートルを下回り、1839年以来動いていなかった区間に入るとまた4メートルを超えていました。断層面の上でいちばん大きくすべった場所は震源の近くで、約5.5メートルです。すべりは深さ5キロメートルまでほぼ一定で、中規模の横ずれ地震でよく見られる「浅いところがすべり残す」現象はほとんどありませんでした。
地下でねじれた断層面
地表の変位には、ひとつ目につく偏りがありました。北の端では断層の東側のほうが大きく動き、南へ行くにつれてそれが逆転していたのです。まっすぐ垂直に立った断層なら、両側はほぼ対称に動きます。著者らは岩石の硬さの違いや断層の走向の変化では説明がつかないことを確かめたうえで、断層面が垂直ではなく、場所によって違う向きに傾いているせいだと結論しました。計算で傾きを求めると、北緯20.5〜22.5度の北側の区間では断層面が東に70〜80度の角度で傾き、南へ行くと垂直になり、南端では西に約80度傾いていました。つなげると、地下の断層面は一本のねじれた帯、らせんの形になります。

この形は、地震のあとで初めて分かったものではありません。地震の前に測られていた断層周辺のゆっくりした変形にも同じ偏りがあり、地震の前のデータから地下の形は推定できていた、と論文は書いています。垂直な断層を仮定して計算すると、断層から15キロメートル以内で約0.5メートルの説明できない残差が出ることも、傾いた形を支持しています。
ためたぶんだけ、あるいはそれ以上にすべる
地震のあいだに断層がすべった量と、前の地震からためてきたひずみの量を、区間ごとに比べたのがこの論文の中心です。ためたひずみは、断層のすべり速度に前の地震からの年数を掛けたものです。1839年以来動いていなかった南側の区間では、今回のすべりがためた量とほぼ一致しました。一方、1946年と1956年に動いたばかりの北側の区間では、ためた量より多くすべっていました。つまり、長く待った区間は「ためたぶんだけ」、待ちが短かった区間は「ためた以上に」動いたことになります。
著者らはこれを「最小限のすべり予測可能性」と呼んでいます。2023年のトルコの M7.8 と M7.7 の地震でも同じ傾向が見つかっており、規模の上限に近い地震では、ためたひずみが「少なくともこれだけはすべる」という下限を与えるようだ、という考え方です。いつ起きるかは言えないけれど、起きたときにどれだけ動くかの下限は言える。それが、論文の言う「予測可能性」の中身にあたります。
防犯カメラの映像で模型をふるいにかける
断層の形とすべりの分布を出発点に、著者らは断層の破壊が時間とともにどう進んだかを再現する3次元の動的破壊シミュレーションを180通り走らせました。変えたのは、断層にかかっていた応力のむらの強さ、破壊を進めるのに要るエネルギー、応力の落ち方という3つのパラメーターだけです。180通りの中から正解に近いものを選ぶのに使ったのが、地震のときに記録された独立のデータでした。遠くの地震計が捉えた波、断層から2.6キロメートルの地点にあった強震計の記録、そして震源の南120キロメートルにあった防犯カメラの映像です。

このカメラは、断層をはさんだ両側の地面が互いにすれ違っていく様子を偶然写していました。断層の破壊そのものが映像に残ったのは世界で初めてで、別の研究チームがこの映像から地面の動く速さと曲がった軌跡を測っていました。衛星データには合うのにカメラの場所で速すぎたり遅すぎたりする模型は落とす、という使い方です。カメラの記録と強震計の記録の両方に合った模型はごくわずかで、それらはすべて、破壊が始まってすぐに「スーパーシア」になるという特徴を共有していました。
深いところは横波より速く、浅いところは遅れて追いつく
スーパーシアというのは、断層の破壊が地中を伝わる横波より速く進む現象です。選ばれた模型では、破壊は震源から南北両方向に始まり、25秒後からは南向きが主になって約90秒で止まります。南向きの破壊は深いところでほぼ最初から横波より速く走り、場所によっては縦波の速さに迫っていました。ところが浅いところでは、震源の南150キロメートルにわたって破壊は横波より遅いままでした。深いところの速い破壊に引きずられるように、浅いところが遅れて追いついていく形です。
この「深さで速さが違う」模型は、食い違って見えた3つの観測を一度に説明します。防犯カメラが地表で見たのは遅い破壊でした。強震計には、破壊の始まりから約50秒で大きな揺れのパルスが届き、平均で秒速4.9キロメートルという速さを意味していました。遠くの地震計の波を逆算すると、北向きは秒速約2.5キロメートル、南向きは秒速4〜6キロメートルでした。深いところが速く、浅いところが遅いなら、全部つじつまが合います。
破壊がこれほど速く走れた理由として、論文はサガイン断層が「成熟した」断層であることを挙げています。断層沿いには粘土質の断層ガウジや蛇紋岩が見つかっており、こうした弱い物質と地下水の高い圧力が、破壊を進めるのに要るエネルギーを小さくしたとみられます。断層の東西で岩石の性質が違うことも、南向きだけが速くなった理由の一部かもしれませんが、それだけでは強震計の記録に13秒遅れてしまうため、主因ではないと著者らは判断しています。
同じ形の断層が、ほかにもある
論文は最後に、同じ考え方が当てはまりそうな断層を2つ挙げています。北アナトリア断層のイスタンブール・マルマラ海の区間と、サンアンドレアス断層の南部です。どちらも地震の前の変形に、サガイン断層と同じような偏りが見られます。サンアンドレアス断層については、北側の区間が西に、南側の区間が東に傾くらせん状の形を示す別の証拠があり、傾いた断層では上盤(断層面の上に乗っている側)のほうが強く揺れると予想されています。Fialko は Scripps の発表で、南部サンアンドレアスには300年間大きな地震がなく、ひずみの蓄積は正確に測られているので、この地震で見つかった関係が成り立つなら次の地震は前より大きくなりうる、と話しています。
ただし、論文自身がいくつも留保を付けています。180通りの模型の多くは衛星データや地震波にほぼ同じ程度で合い、破壊の速さまで絞り込めたのは断層近くの時間変化のデータがあったからです。破壊を進めるエネルギーが小さいという推定も、震源の位置や発震時刻、地下構造の仮定に依存します。ひずみをためた時間が長いほど最大級の地震が起きやすくなるかどうかも、まだ分かっていません。それでも、地震の前に測れる変形から断層の地下の形とすべりの下限を読む、という手順そのものは、観測網の薄い地域にも持ち込める。著者らはそこに、この研究の使い道を見ています。
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出典
- Thomas Ulrich et al., “On predictability of slip, rupture geometry, and speed of the 2025 M7.8 Mandalay, Myanmar, earthquake”, Nature Communications 17, 10173(2026年10月14日):https://www.nature.com/articles/s41467-026-77203-x
- Scripps Institution of Oceanography “Progress Toward Prediction of Earthquake Intensity and Direction”(2026年10月12日):https://scripps.ucsd.edu/news/progress-toward-prediction-earthquake-intensity-and-direction
- Live Science “Devastating 2025 Myanmar earthquake sheds light on how the ‘Big One’ could play out in California”(2026年10月20日、Stephanie Pappas):https://www.livescience.com/planet-earth/earthquakes/devastating-2025-myanmar-earthquake-sheds-light-on-how-the-big-one-could-play-out-in-california


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