塩性湿地306平方メートルを世界最大級の造波水路に運び、高さ2mの嵐の波を21時間ぶつけた。地面は7mmしか削れず、草は8割消えた

スポンサーリンク

この記事には広告(Amazon アソシエイトのリンク)を含みます。

オランダの堤防は、数千年に1度の嵐に耐えるように設計されています。その堤防の前に広がる塩性湿地(えんせいしっち。満潮のたびに海水をかぶる、草の生えた平らな干潟)が、嵐の波をどれだけ弱めてくれるのかは、実はよく分かっていませんでした。数千年に1度の嵐を現場で待つわけにはいかないからです。ワーヘニンゲン大学の Pim Willemsen らは、それなら湿地のほうを嵐に連れていこうと考え、本物の塩性湿地306平方メートルを世界最大級の造波水路に運び込みました。論文は2026年10月21日に Nature に載っています。

湿地を掘り上げて250km運ぶ

材料にしたのは、オランダ北部のワッデン海沿岸の塩性湿地です。チームは湿地を草ごと塊のまま掘り上げ、風で崩れないよう密閉したトラックに積み、乾かないよう重さを確かめながら、デルフトまで約250km 運びました。行き先は、水の研究機関 Deltares が持つ Delta Flume という造波水路です。長さ300m 近い巨大な水槽の端で板を動かして、高さ数メートルの波を起こせます。

水路に据えた湿地に、チームは有義波高(波の高いほうから3分の1の平均の高さ)0.75m の波から始めて、段階的に2m まで波を高くし、合計21時間ぶつけ続けました。場所にもよりますが、オランダの湿地海岸では百年から数千年に1度しか起きない水位と波です。

塩性湿地306平方メートルを世界最大級の造波水路に運び、高さ2mの嵐の波を21時間ぶつけた。地面は7mmしか削れず、草は8割消えた

地面は7mm、草は8割

Willemsen は湿地が波の力をある程度吸収すると予想していましたが、地盤の強さは予想を超えていました。21時間の波のあとで湿地の地面が失った堆積物は、厚さにして7mm でした。波に削られて湿地そのものが崩れる、ということは起きませんでした。

草のほうは違いました。最初の波の試行で地上部の植物の量は33%減り、波が高くなるにつれて被害は増え、21時間後に残っていたのは元の2〜2.5割です。茎の長さは47%短くなりました。地面は持ちこたえ、草は持ちこたえない。この二つが同時に起きたのが、今回の実験の結果です。

草が減れば、草による波の減衰も減っていきます。論文は、植物が波を弱める効果が大きいのは波高1m 以下の穏やかな湿地海岸で、そこでは減衰が10%を超え、最大で50%に達したと書いています。波高が1m を超える荒い海岸では、減衰は10%に届きませんでした。世界の湿地海岸を穏やかな海岸と荒い海岸に分けて評価しても、この区分は成り立ちました。

塩性湿地306平方メートルを世界最大級の造波水路に運び、高さ2mの嵐の波を21時間ぶつけた。地面は7mmしか削れず、草は8割消えた

堤防と湿地の組み合わせ

結果だけ見ると、湿地は万能の防波堤ではありません。大きな嵐の波を草が半分に減らしてくれる、という期待には応えません。それでも、湿地の地盤が嵐のあとも残り、草は刈られても生え直す、という性質はコンクリートの堤防にはないものです。ScienceAlert の取材に Willemsen は、草は広い条件で波の減衰に寄与できるとし、堤防や護岸と沿岸の生態系を組み合わせた防災の仕組みに湿地を組み込む余地は世界的に大きい、と話しています。

オランダでは、湿地の保全と再生を堤防と並行して進めれば、堤防のかさ上げや造り直しの必要を減らして費用を抑えられる可能性があります。論文の結論は控えめで、湿地の地盤は極端な波のもとでも安定している一方、草による大きな減衰は穏やかな海岸に限られる、というところまでです。数千年に1度の嵐を人工的に起こして初めて、その線引きがはっきりしました。

関連する商品

この記事に関連する本や商品は、Amazon で探せます。

上のリンクから購入されると、このブログに紹介料が入ることがあります。

出典

コメント

タイトルとURLをコピーしました