逆に水を吸うスプリンクラーはどっちに回る?——「ファインマンのスプリンクラー問題」に実験で決着

スポンサーリンク

この記事には広告(Amazon アソシエイトのリンク)を含みます。

芝生に水をまくスプリンクラーを、逆回しにしたらどうなるか。つまり、水を噴き出すかわりに吸い込ませたら、本体はどちら向きに回るのか——。物理学者リチャード・ファインマンの名前とともに語り継がれてきたこのパズルに、ニューヨーク大学(NYU)などの数学者チームが実験で答えを出しました。決め手になったのは、くるくるとねじれた管から水をまき散らす、おもちゃの「おふざけスプリンクラー(silly sprinkler)」です。

「逆向きスプリンクラー」という難問

ふつうのスプリンクラーが回る理由は、直感どおりです。曲がった腕の先から水が噴き出すと、その反動で本体が反対向きに押される。水を噴くロケットの回転版、と考えれば分かりやすいと思います。

では、これを水中に沈めて、ポンプで水を「吸い込ませた」らどうなるか。噴き出すときと逆向きに回るのか、同じ向きなのか、それとも回らないのか。理屈をこねると、どの答えにもそれらしい説明が付いてしまいます。

この問いの記録は古く、1880年代に物理学者エルンスト・マッハが取り上げたのが最初とされています。その後、1940年代にプリンストン大学の大学院生だったファインマンが自作の装置で実験を試み、1980年代に出た回想録でそのエピソードを紹介したことで、「ファインマンのスプリンクラー問題」として広く知られるようになりました。ちなみにファインマン自身の実験は、装置のガラス容器が破裂して研究室を水浸しにするという結末で、答えは出ずじまいでした。

それから数十年、実験も理論もいくつも出ましたが、条件によって結果がばらつき、決定打がないまま議論が続いてきました。

実験が出した答え

NYUのレイフ・リストロフ准教授らのチームは、2024年にまずひとつの答えを出しています。摩擦を極限まで減らした装置で逆向きスプリンクラーを水中で動かしたところ、本体は噴き出すときとは逆向きに、ただし約50分の1というごくゆっくりした速さで回りました。原因は本体内部にありました。左右の腕から吸い込まれた水は、腕が合流する中央の部屋でジェットとなってぶつかり合うのですが、その衝突が真正面からわずかにずれている。このずれが小さな回転力(トルク)を生んでいたのです。チームはこの考え方を、水の流れが運ぶ回転の勢いに注目することから「運動量フラックス理論」と呼んでいます。

ただ、2024年の実験で使ったのは、腕がS字型をした標準的なスプリンクラーだけでした。もっと複雑な形なら別の答えになるかもしれませんし、昔からあるライバル理論を否定しきることもできていませんでした。今回の研究は、その残った宿題を片付けるものです。

結果ははっきりしていました。どんなにひねくれた形のスプリンクラーでも、噴き出すモードでも吸い込むモードでも、回転の向きと強さを決めていたのは水の流れが運ぶ運動量で、運動量フラックス理論の予測とよく一致しました。つまり、順方向も逆方向も、根っこは同じ仕組みで説明できる——それが今回の答えです。

一方で、対抗馬だった2つの理論は実験で否定されました。マッハに由来する「水が一方向に渦を巻き、本体がその逆に回る」という説は、実際に観測された逆回転やトルクを説明できませんでした。また、ファインマンの検討以来の流れをくむ「腕のいちばん外側の水の流れが効く」という説も、外側部分の形や流れを変えても回転にまったく影響がなかったことから、退けられています。

「おふざけスプリンクラー」という手法

今回の実験のカギは、装置の形そのものでした。チームは、夏の芝生でよく見かける、ループやらせん状の管から水をまき散らすおもちゃのスプリンクラーをまねて、輪郭の異なる特製スプリンクラーをいくつも自作しました。一見ふざけた形ですが、これが理論のふるい分けに効きました。腕の形をさまざまに変えながら、順方向と逆方向の両モードで回転の様子、装置の内外の水の流れ、固定したときにかかるトルクを測ることで、「形を変えても効かない要素」と「本当に回転を決めている要素」を切り分けられたのです。標準的なS字型の腕だけでは、ここまでの絞り込みはできませんでした。

工学への応用

共著者のブレナン・スプリンクル助教(コロラド鉱山大学)は、この成果について、部品が水や空気の流れからどんな力を受けるかの理解を固めるものであり、タービンのように流れをエネルギーに変える装置の設計に役立つ知識になると説明しています。実際、今回の研究では腕の形によってジェットの流れをコントロールできることも示されており、形の設計で流体機械の効きを調整するという方向につながりそうです。

それにしても、100年以上くすぶってきた問題の決着が、理論の大発見でもスパコンのシミュレーションでもなく、おもちゃを模した手作りの装置と地道な計測によってもたらされた、というのは味わい深い話です。

解釈上の留意点

今回の結論は、複数の形状のスプリンクラーを順・逆両モードで試した実験にもとづく「実験的な答え」です。試した範囲では運動量フラックス理論が一貫して成り立ちましたが、あらゆる形状・条件について数学的に証明されたわけではありません。また、実験は摩擦を抑えた水中の装置という管理された条件で行われており、庭のスプリンクラーそのままの状況とは異なります。論文は査読を経てPNAS(米国科学アカデミー紀要)に掲載済みです。

関連する商品

この記事に関連する本や商品は、Amazon で探せます。

上のリンクから購入されると、このブログに紹介料が入ることがあります。

出典

Jesse Smith, Mingxuan Zuo, Will Kuhlke, Brennan Sprinkle, Leif Ristroph, “Geometry controls momentum flux in the sprinkler problem”, Proceedings of the National Academy of Sciences (2026)
DOI: 10.1073/pnas.2537479123

プレスリリース:Researchers put “silly sprinklers” in reverse to further unravel decades-old physics puzzle(EurekAlert! / New York University)

2024年の先行研究:Kaizhe Wang, Brennan Sprinkle, Mingxuan Zuo, Leif Ristroph, “Centrifugal Flows Drive Reverse Rotation of Feynman’s Sprinkler”, Physical Review Letters 132, 044003 (2024)
DOI: 10.1103/PhysRevLett.132.044003

コメント

タイトルとURLをコピーしました