
| 名前 | チャルニア(Charnia masoni。属名は発見地チャーンウッドの森、種小名は発見を報告した少年ロジャー・メイソンにちなむ) |
| 分類 | ランゲオモルフ類(エディアカラ生物群) |
| 時代 | エディアカラ紀(約5億7000万〜5億5000万年前。イングランドの化石は約5億6200万年前) |
| 発見地 | イギリス(チャーンウッドの森)のほか、カナダ、ロシア、オーストラリア、中国 |
| 全長 | 約1〜66センチ |
チャルニアは、エディアカラ紀の海底に固着して生きた、シダの葉のような形の生物です。先カンブリア時代の地層から出た化石として、初めて正式に認められました。それまで「化石が出るのはカンブリア紀以降」とされていた生命史の常識を塗り替えた、記念碑のような存在です。ただしその発見は、まさにその常識のせいで、危うく埋もれるところでした。
姿と暮らし
体は細長い葉状で、中央のジグザグ状の縫い目から、左右に枝が交互に伸びる構造をしています。それぞれの枝はさらに細かい枝に分かれ、その細かい枝がまた同じ形に分かれるという、フラクタル状の繰り返し構造が特徴です。この構造を持つ生物のグループはランゲオモルフ類と呼ばれ、チャルニアはその代表格にあたります。体の下端は円盤状の器官で海底に固定され、水中に立ち上がって暮らしていました。自分から動くことはなかったと考えられています。
見た目は完全に植物ですが、植物ではありません。チャルニアの化石を含む地層の多くは、光の届かない深海の海底に積もった堆積物です。光合成ができない場所に生えていた以上、藻や海藻の仲間ではありえません。かといって、口も消化管も見当たらないため、動物だとしてもどうやって栄養をとっていたのかがはっきりしません。海水中の有機物を体の表面から直接吸収していたとする説が有力です。かつては現生のウミエラ(サンゴの仲間)と比較されましたが、成長のしかたが異なることが分かり、この見方は否定されました。2021年にはイギリスとロシアの標本の成長パターンを解析した研究が発表され、チャルニアをクラゲから昆虫、ヒトまでを含む「真正後生動物」の初期の系統に位置づけています。この説に立つなら、チャルニアは現在では完全に失われた設計の体を持つ、れっきとした動物だったことになります。
「その時代に化石はない」
チャルニアの化石は、イングランド中部・チャーンウッドの森の岩肌に、誰の目にも見える状態で露出していました。最初にそれを化石だと見抜いたのは、1956年、当時15歳の少女ティナ・ネグスです。彼女は学校の地理の教師にこの発見を伝えましたが、まともに取り合ってもらえませんでした。この地域の岩石が先カンブリア時代のものであることは当時から知られており、「その時代の地層に化石はない」というのが、教科書レベルの常識だったからです。化石を見た者の側ではなく、常識の側が信じられました。
翌1957年の春、今度は地元の男子校の生徒3人が、ロッククライミングの最中に同じ岩壁の化石に行き当たります。最初に目を留めたのは友人のリチャード・ブラッチフォードでしたが、駆け寄った15歳のロジャー・メイソンが岩を拓本にとり、大学で教えていた父親を通じて、地質学者のトレヴァー・フォードに見せました。フォード自身も先カンブリア時代の化石には懐疑的でしたが、現地で実物を確かめて考えを変えます。化石は掘り出され、1958年、フォードはこれを新属新種チャルニア・マソニとして記載しました。種小名は報告者のメイソンにちなみます。先カンブリア時代の生物の存在が、ここで初めて正式に学術記録に載りました。
のちにこの地域を歩いた著名人がもう一人いたことも分かっています。自然番組で知られるデイビッド・アッテンボローは、少年時代にメイソンと同じ学校に通い、数年早く同じチャーンウッドの森で化石探しをしていました。しかし「あの岩は古すぎて化石は出ない」という当時の通説どおり、この一帯では探さなかったと後に語っています。化石はずっとそこにあり、何人もの目の前を通り過ぎていました。
50年後に並んだ二人の発見者
記載後のチャルニアは先カンブリア時代研究の象徴となり、オーストラリア、カナダ、ロシア、中国からも化石が見つかりました。エディアカラ紀という地質年代の区分が正式に設けられる流れも、この発見が先カンブリア時代の研究を活気づけたことの延長線上にあります。一方、最初の発見者ティナ・ネグスの名前は、長いあいだ記録に残りませんでした。彼女はその後生物学の道に進み、のちに陶芸や絵画、詩を手がけるようになりますが、自分が見つけた化石が有名になっていく様子を、テレビ番組の画面越しに眺めることになります。
転機は2004年、ドキュメンタリー番組に地質学者として出演していたメイソンの姿を見たことでした。ネグスはメイソンに連絡をとり、彼の発見の前年に同じ採石場で同じ化石を確認していたことを伝えます。メイソンはこれを認め、「ティナ・ネグスは私より先にこの化石を見ていたが、誰も彼女を真剣に受け止めなかった」と公に記しました。2007年、発見50周年の記念行事で、ネグスは最初の発見者として正式に顕彰されます。基準標本を収蔵するレスター博物館の展示にも、現在は二人の名前が並んでいます。


出典
Ford, T. D. (1958). Pre-Cambrian fossils from Charnwood Forest. Proceedings of the Yorkshire Geological Society.
https://doi.org/10.1144/pygs.31.3.211
Dunn, F. S. et al. (2019). Anatomy of the Ediacaran rangeomorph Charnia masoni. Papers in Palaeontology.
https://doi.org/10.1002/spp2.1234
Dunn, F. S. et al. (2021). The developmental biology of Charnia and the eumetazoan affinity of the Ediacaran rangeomorphs. Science Advances.
https://doi.org/10.1126/sciadv.abe0291
Charnwood Forest Geopark: Discovering Charnia
https://www.charnwoodforest.org/discovering-charnia/


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