焼き物が本物かどうかは地磁気の残り香で分かる——1,000年の記憶が消える温度

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古代の焼き物と称して売られているものが、本当に何千年も前に焼かれたものなのか。それを、粘土に残る地球の磁場の「記憶」から見分ける方法が示されました。カリフォルニア大学サンディエゴ校のスクリップス海洋研究所を中心とするチームが、2026年8月31日付で学術誌『PNAS』に発表した研究です。筆頭著者は博士研究員のヨアヴ・ヴァクニン(Yoav Vaknin)氏で、地磁気の研究で知られるリサ・トー(Lisa Tauxe)氏らが加わっています。

骨董の世界では、粘土を焼いた品の真贋(しんがん)を科学的に言い切るのが難しいまま、長く問題になってきました。今回の方法は、焼き物を少しずつ温めながら磁気を測るだけで「古いか、新しいか」の答えを出します。しかも、その手がかりは、地磁気を研究する人たちが100年以上ものあいだ「ただの邪魔なノイズ」として捨ててきた信号でした。

科学が決め手を出せなかった真贋問題

偽の古代遺物は、遺跡が多い地域ならどこにでもあります。論文の共著者であるトー氏は、イスラエル、中国、メキシコなど、発掘現場のある地域ではほぼ例外なく偽物が出回っていると述べています。問題は、見た目や作風での鑑定では専門家どうしの意見が割れやすく、裁判になっても「偽物である」と証明しきれない点にあります。

論文が引いているのが、「ヤコブの骨箱」の一件です。イエスの兄弟ヤコブのものとされる石の骨箱をめぐってイスラエルで偽造の疑いがかけられ、7年に及ぶ刑事裁判が開かれましたが、結局「偽造は合理的な疑いを超えて証明されなかった」という判決で終わりました。決定的な物証がなければ、偽造の疑いは疑いのまま残る。研究チームはこの経緯を、新しい鑑定法が必要な理由として挙げています。

焼かれた粘土が覚える磁場の向き

粘土には、鉄を含む磁性鉱物の粒がわずかに混ざっています。焼き物を窯で焼くと、これらの粒の磁気はその瞬間の地球の磁場の向きにそろい、冷えるときに固定されます。地磁気の分野で「熱残留磁化(TRM)」と呼ばれる性質で、一つひとつの粒を、焼かれた瞬間の磁場の向きで止まった小さな方位磁針だと考えると分かりやすいです。

地球の磁極の位置は絶えず動いているので、古代に焼かれた焼き物と今日焼かれた焼き物では、この「止まった針」の向きがわずかに違います。ヴァクニン氏はもともと、この性質を使って古代の建物がいつ焼け落ちたかを推定する「考古地磁気年代測定」を専門にしてきた研究者です。

ただし、これをそのまま真贋鑑定には使えません。方向の記録は、焼き物が窯の中でどう置かれていたかで決まり、しかも手に持って傾ければ、針が指す方向は一緒に回ってしまいます。出土した位置や置かれた向きが分からない品、つまり真贋を問われているような品では、方向の情報はほぼ役に立ちません。ここが、焼き物の磁気鑑定が長く止まっていた壁でした。

ノイズとして捨てられてきた第二の記憶

研究チームが目を付けたのは、焼かれた瞬間の記憶ではなく、そのあとの記憶です。焼き物の中の磁性鉱物には、大きい粒と小さい粒があります。大きい粒の磁気は冷えたときに固定されて動きませんが、小さい粒の磁気は完全には落ち着かず、その後何百年、何千年と地球の磁場にさらされるうちに、少しずつ今の磁場の向きへ引きずられていきます。こうして時間をかけて上書きされる弱い磁気を「粘性残留磁化(VRM)」と呼びます。

VRMそのものは、100年以上前から知られていた現象です。しかし信号が弱く、しかも本来知りたい「焼かれた瞬間の記録」の上にかぶさって邪魔をするため、地磁気の研究ではもっぱら、測定の前に取り除くべきノイズとして扱われてきました。取り除く手段は加熱です。焼き物を温めていくとVRMは消えていき、あとには焼かれた瞬間の記録だけが残ります。

研究チームが見抜いたのは、この「消える温度」が年齢を語るということでした。VRMは、磁場にさらされた時間が長いほど、より安定した状態まで深く染み込んでいきます。だから古い焼き物ほど、消すのに高い温度が要る。逆に、ここ数年で焼かれた品のVRMは浅く、低い温度であっさり消えてしまいます。つまり、焼き物を段階的に温めてVRMが消える温度を調べれば、その品が磁場にさらされてきた年月の長さ、すなわち古さそのものを測れる。方向を見るのではなく、消しにくさを見る。この発想の転換で、置かれていた向きが分からない品でも判定できるようになりました。

45点の試料と112℃の境目

検証に使われた試料は計45点です。Smithsonian誌の報道によると、内訳は発掘された古代の陶片4点、発掘されたユダ王国時代の貯蔵壺15点、伝統的な窯で焼かれた現代の器6点、現代の窯で焼かれた粘土の封泥(ふうでい、印章を押した粘土の塊)16点、エルサレムで売られていた土産物の器4点です。古いと分かっている品と新しいと分かっている品を、同じ手順に通しました。

手順は、50℃から始めて10℃刻みで温度を上げながら、各段階で磁気を測るというものです。その結果、1,000年以上前の試料はいずれも、112℃を超えるまで温めなければVRMが消えなかったのに対し、現代の試料はそれより低い温度で消えました。112℃という境目は、実験だけで決めたものではありません。チームは磁性鉱物のふるまいを計算で再現する「微小磁気モデル」を組み、さまざまな年数だけ磁場にさらされた仮想の試料を温める過程をシミュレーションして、実験結果と突き合わせています。こうした計算に必要な性能のコンピュータが手に入るようになったことが、古くから知られていた現象を鑑定法に仕立てられた背景にあります。

ヴァクニン氏はイスラエルの新聞Haaretzの取材に、この方法に求めているのは高い分解能ではなく、古代か現代かの区別だけだと話しています。何年に焼かれたかを言い当てる技術ではなく、「少なくとも1,000年は経っているか、それとも最近のものか」を仕分ける技術だという位置づけです。

押収品3点が示した使い道

研究チームはすでに、この方法を実物に当てています。イスラエル考古学庁が押収した、真贋のはっきりしない粘土製品3点です。結果は、3点とも古代に焼かれたものと判定されました。偽物をあぶり出すための技術が、最初の実戦では本物の側を救った形になります。

これは偶然のようで、実は真贋鑑定のもう一つの顔です。偽物を退ける道具は、そのまま、盗掘されて出自を失った本物の価値を裏付ける道具にもなります。研究チームは、博物館の学芸員が本物だけを展示するために、考古学者や歴史家が本物の資料から社会を研究するために、そして司法当局が盗掘や偽造を含む違法な古物取引を取り締まるために使えるようにしたい、としています。世界の博物館で真贋が議論になっている品への適用も予定しているそうです。

限界もあります。今回示された境目は「1,000年以上か、現代か」の二択で、その間、たとえば数百年前の品がどう振る舞うかは、報道の範囲では示されていません。そしてヴァクニン氏自身がHaaretzに語っているように、鑑定側の科学者は論文を公開して手法を明かすのに対し、偽造する側は秘密裏に働き、公開された論文を読んで対策を考えられる。だからこの分野では、偽造側の先を行き続けるのが難しいといいます。1,000年分のVRMを人工的に作り込む手口が現れないか。次の攻防はそこになりそうです。

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出典

UC San Diego(スクリップス海洋研究所)のプレスリリース:Researchers Develop Method to Tell Authentic Artifacts from Fakes(2026年8月31日)

Smithsonian Magazineの記事:Researchers Have Figured Out How to Spot Fake Ancient Pottery Using the Earth’s Magnetic Field(2026年9月4日)

元論文(PNAS、2026年8月31日、DOI: 10.1073/pnas.2620397123):https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2620397123

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