5人で公平に遊べるサイコロを作るのに、なぜ15年かかったのか

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ボードゲームを始めるとき、誰が先手かをサイコロで決めることがあります。全員が振って、一番大きい目を出した人が先手。同じ目が出たら振り直し。この「振り直し」をなくすためだけに、数学者たちが15年かけて5個のサイコロを作った、という話です。

米オーバーン大学の数学者エリック・ハーシュバーガー(Eric Harshbarger)氏は、2010年に友人から投げかけられた問いを起点に、世界各地の数学者やプログラマーと一緒に「Go First Dice(ゴー・ファースト・ダイス)」と呼ばれるサイコロの研究を続けてきました。到達点は、60面のサイコロ5個に1から300までの数を重複なく振り分けたセットです。5人までなら、誰がどのサイコロを取っても勝つ確率は等しく、しかも引き分けは絶対に起きません。同大学が2026年8月に発表し、9月にはLive Scienceが取り上げました。

ゲームコンベンションの夕食から始まった問い

きっかけは2010年の夏、ゲームコンベンションでの夕食でした。同席していたボードゲーム作家のジェームズ・アーネスト(James Ernest)氏が、「数学をやっているなら、こういうサイコロのセットは作れないか」と切り出したそうです。

注文はこうでした。袋にサイコロが何個か入っていて、遊ぶ人はそれぞれ好きなものを1個取って振る。一番大きい目の人が先手。ただし、同じ目は出ないこと。そして、8人で振っても、そのうち5人だけで振っても、3人だけでも、誰もが同じ確率で先手になれること。この「何人で遊んでも、どのサイコロを選んでも公平」という条件が、ただの余興を15年の研究に変えました。

引き分けをなくすだけなら簡単です。全部の面に違う数を書けばいい。8個の6面サイコロなら1から48を割り振れば、同じ目は絶対に出ません。難しいのは、その数をどう配るかです。8人全員が8分の1、5人なら5分の1、2人なら2分の1。どの組み合わせで取っても釣り合うように配置しなければなりません。ハーシュバーガー氏が最初に思いついた「1、16、17、32、33、48」のように蛇行して番号を振る方法は、すぐに崩れることが分かりました。

6面サイコロでは原理的に届かない5人目

崩れることを指摘したのが、幼なじみでオーバーン大学で博士号を取った数学者、ロバート・フォード(Robert Ford)氏です。フォード氏はもうひとつ、もっと根本的な壁も示しました。6面サイコロだけを使うかぎり、5人で公平になることはありえない、という証明です。

理屈は短く済みます。6面サイコロをn個振ると、出目の組み合わせは6のn乗通りあります。5人それぞれの勝つ確率がぴったり等しいなら、この総数は5で割り切れなければなりません。ところが6のn乗は2と3だけを掛け合わせた数で、どれだけ掛けても5では割れません。つまり、5人用のセットを作るなら、サイコロの面の数そのものを変えるしかなかったのです。

そこで二人は、テーブルトークRPGでなじみのある多面体サイコロに目を向けました。まず2010年8月、フォード氏が3人用として6面サイコロ3個の解を見つけます。

サイコロ11510111317
サイコロ2347121516
サイコロ326891418

3個から好きな2個を選んで振っても、3個全部で振っても、勝つ確率はきれいに揃います。ただし4人になると、6面では無理でした。ハーシュバーガー氏がプログラムで全部の配置を調べ尽くし、1週間ほどで「存在しない」と結論が出ています。その翌週、フォード氏が今度は手計算で、12面サイコロ4個に1から48を配る解を見つけました。2012年に英ガーディアン紙が取り上げると問い合わせが殺到し、ハーシュバーガー氏は市販の無地の12面サイコロにレーザーで数を刻み、手作業でインクを入れて、自宅から世界中に発送するようになります。のちに専門店が製造を引き受けるまで、何百セットも送ったといいます。

頼まれた以上の公平さ

4人用の解を調べているうちに、二人はこのサイコロが注文以上の性質を持っていることに気づきました。

最初に頼まれたのは「誰が一番大きい目を出すかが公平」であることだけです。ところが4個の12面サイコロは、2位、3位、4位の決まり方まで公平でした。それだけではありません。A、B、C、Dの4人が振ったとき、「A、B、C、D」の順に並ぶ確率と「C、B、D、A」の順に並ぶ確率が、24通りの順番すべてで等しかったのです。研究チームはこれを「順列公平(permutation-fair)」と呼び、以後はこの一番強い公平さをすべてのセットの基準にしました。

「先手を決めるサイコロ」という名前は、実際の性能からすると控えめすぎる、というのがハーシュバーガー氏の言い方です。一度振れば、先手だけでなく、全員の手番の順がそのまま決まります。

宇宙の原子より多い候補

4人用が数週間で見つかったのに対し、5人用には年単位の時間がかかりました。

ある配置が公平かどうかを確かめるのは、コンピュータなら一瞬です。問題は、確かめるべき配置の数のほうでした。ハーシュバーガー氏はLive Scienceに対して、5人用の候補の数を「10の128乗ほど」、宇宙にある原子の数より多いと説明しています。10億年を10億回繰り返しても、あらゆるコンピュータとAIを注ぎ込んでも、総当たりでは終わらない規模です。ある夏、インディアナ州の研究者がスーパーコンピュータを3か月回した結果を、ハーシュバーガー氏は「宇宙の原子の数を候補の数だとすると、この夏で原子1.7個分を消せた」と表現しています。

力押しが無理なら、対称性やパターンで候補を絞り込むしかありません。2010年代を通じて、ハーシュバーガー氏が管理するウェブサイトを入り口に、12人から20人ほどの数学者とプログラマーが出入りしながら、少しずつ前進していきました。途中で分かったことのひとつが、5個のサイコロの面の数が同じでなくてもよい、という事実です。2012年には24面・32面・48面・72面・90面という、大きさの違う組み合わせで5人用の順列公平が初めて示されました。ただ、90面のサイコロは実用的な形にできません。ハーシュバーガー氏自身も2018年に、一番大きなサイコロが54面で済む組み合わせを見つけていますが、5個の形がばらばらでした。

そして2022年12月、マイケル・パーセル(Michael Purcell)氏が120面サイコロ5個の解を見つけます。120面には幾何学的に公平な形が存在するので、実際にアルミ製で少数が作られました。これで「5人で遊べて、同じ形で、作れる」条件は一応満たされたのですが、120面のサイコロは面が多いぶん大きく重くなりがちで、転がり終わるまでに時間もかかります。ハーシュバーガー氏が以前に試作した120面体は、野球のボールほどの大きさがありました。ハーシュバーガー氏の目標は、手に収まって、ゲーマーが買って振れるものでした。グループはさらに小さい解を探し続けます。

4人用の数列に潜んでいた模様

答えは、スーパーコンピュータからではなく、一通のメールで届きました。

2023年、カナダのソフトウェア技術者ポール・マイヤー(Paul Meyer)氏がハーシュバーガー氏に連絡を取り、それまでに蓄積された4人用の解のデータを求めました。マイヤー氏はそのデータに繰り返し現れるパターンを読み取り、それを利用して候補を絞るプログラムを書いたのです。本人もすぐに結果が出るとは思っていなかったようですが、プログラムは動きました。2023年7月31日、60面サイコロ5個に1から300を配った、順列公平なセットが見つかりました。

ハーシュバーガー氏のもとには「解けた」というメールが以前からたびたび届いていて、そのつど検証するのが習慣になっていました。今回も同じように確かめて、本物だと分かったときの返信が「私たちがどれだけ長くこれを探していたか、分かっていますか」だったそうです。

この記事を書くにあたって、公開されている300面分の配置を筆者も手元で数え直してみました。5個全部を振ったときの出目の組み合わせは60の5乗、7億7760万通り。5人の並び順は120通りあり、どの並び順も、ちょうど648万通りずつの出目で実現します。2人だけで振れば1800通りずつ、3人なら3万6000通りずつ、4人なら54万通りずつ。どの組み合わせで取っても、割り算に余りは出ませんでした。ちなみに1が書かれたサイコロには300も書かれていて、10と291、19と282のように、向かい合う面の数を足すとどれも301になるよう配置されています。

つまり、宇宙の原子より多い候補の海から答えを引き上げたのは、計算機の速さではなく、すでにある小さな解の中に規則を見つけた一人の目でした。公平さという性質は、サイコロの物理的な作りではなく、数の並べ方だけで決まります。その並べ方に、人間が読める模様があったということです。

木で作った1メートルの記念碑

5人用の解が見つかったころ、オーバーン大学では理数系の新棟の建設が進んでいて、数学を目に見える形で建物に置くアイデアが募られていました。ハーシュバーガー氏は、この5個のサイコロを木で巨大化して展示することを提案します。

最初の1個は試作としてマツ材で作り、続いてポプラ、オーク、クルミ、マホガニーと、1個ずつ違う木で仕上げました。それぞれ差し渡しおよそ3.5フィート、1メートル余りで、1個に約1か月かかっています。5個の巨大な60面体は、2026年に開館した同大学のSTEM+農業科学複合施設に置かれています。「大きなサイコロでも小さなサイコロでも、人はまず形に引きつけられる。そこで足を止めてくれれば、これも数学なのだと気づいてもらえる」というのが、氏がこの形を選んだ理由です。

研究としては、まだ閉じていない問いも残っています。30面サイコロ5個で順列公平なセットが存在するかどうかは、依然として分かっていません。6人以上になると、いま知られている解はどれも数百面以上のサイコロを含み、手で振れる範囲には収まっていません。そもそも先手を決める方法なら、マッチ棒を引くでも指差しでも足りるわけで、ハーシュバーガー氏自身も「問題を探している解答」だと認めています。それでも15年、20人近い人が出入りしながら続いたのは、問いが誰にでも分かり、答えが誰にも出せなかったからでしょう。

出典

オーバーン大学のプレスリリース:COSAM lecturer’s dice design solves board gaming’s most surprisingly complex problem — who goes first?(2026年8月14日)

Live Scienceの記事:Mathematicians say these 60-sided dice are the fairest in the world. Designing them took 15 years.(2026年9月5日)

研究グループの一次資料(各セットの配置と発見日):Go First Dice Wiki – Significant Solutions、およびEric Harshbarger氏の解説ページ

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