2,357℃の氷ができた——理論だけが予測していた「hcp超イオン氷」を実験で捕まえた

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2,357℃の氷ができた、という話である。

フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)のアレクシス・フォレスティエ氏を中心とするチームが、水をダイヤモンドで挟んで押しつぶし、レーザーで真っ赤に加熱しながら、そのあいだに結晶がどう組み替わるかをX線で追いかけた。到達した条件は、最高2,630ケルビン(2,357℃)、圧力は229ギガパスカル。地球の中心が約360ギガパスカルなので、その6割強まで迫ったことになる。そこで見えたのは、理論計算では何度も「あるはずだ」と言われながら、実験ではっきり捕まえられていなかった種類の氷だった。論文は2026年9月9日付で Physical Review Letters に載り、同誌の注目論文(Editors’ Suggestion)にも選ばれている。

2,000℃を超えても氷でいられる理由

ふつうに考えれば、2,000℃を超えた水は蒸気になっている。もっと言えば、水素と酸素にばらけ始めていてもおかしくない。それでも氷でいられるのは、圧力のせいだ。

水が液体から気体に変わるとき、体積は大きくふくらむ。ところが数百万気圧という圧力の下では、ふくらむ余地そのものがない。逃げ場を失った水は、高温のまま、地上の氷とはまるで違う密度の高い結晶にまとまる。私たちが冷凍庫で見ている氷は、水がとりうる結晶の形のひとつにすぎず、圧力と温度を変えると別の並び方に切り替わる。そうした「氷の相(そう)」——原子の並び方で区別される氷の種類——は、これまでに20種類あまりが知られている。

そのなかで、とりわけ奇妙なのが「超イオン氷」だ。酸素原子は結晶の格子にきちんと固定されて動かない。固体そのものである。ところが水素のほうは、その格子のすきまを液体のように流れて回る。固体と液体が一つの結晶の中で同居している状態で、天王星と海王星の内部にはこの超イオン氷の層があると考えられている。両惑星の磁場は自転軸から大きく傾き、中心からもずれていて、ほかの惑星とは似ても似つかない。その原因として、超イオン氷の中を電気を帯びた水素が動き回ることが有力視されてきた。

予測だけが先行していた六方晶

超イオン氷にも、酸素の並び方の違いでいくつかの種類がある。これまで実験で確かめられていたのは、酸素が「面心立方(fcc)」と呼ばれる並びをとるものだった。

同じ大きさの球を、すきまなく敷き詰めていく場面を思い浮かべてほしい。一段目を並べ、そのくぼみに二段目を置くところまでは一通りしかない。ところが三段目の置き方は二通りある。一段目の真上に戻す置き方と、一段目とも二段目とも重ならない位置に置く置き方だ。前者を繰り返すと「六方最密充填(hcp)」、後者を繰り返すと「面心立方(fcc)」になる。金属の結晶ではおなじみの二つの並びで、詰まり具合はまったく同じ。違うのは層の積み方の順番だけである。

理論計算は、超イオン氷でもこのhcpの並びが存在し、条件によってはfccより安定になるはずだと繰り返し予測してきた。だが、実験で「これがhcpだ」と言い切れる証拠はなかった。層の積み方が少し違うだけの二つの結晶は、X線の回折パターンもよく似ている。しかも相手は、ダイヤモンドの先端で押しつぶされた直径12マイクロメートル——髪の毛の太さの6分の1ほど——の試料である。そこから決定的な信号を拾うのは簡単ではなかった。

条件を強めるほど優勢になるhcp

上の図のように、fccとhcpの差は層の重ね方だけにある。今回のチームは、この小さな差を、条件を段階的に強めていくことで浮かび上がらせた。

実験はフランス・グルノーブルの欧州シンクロトロン放射光施設(ESRF)で行われた。超純水を注射器でダイヤモンドアンビルセルに封じ込め、圧力80〜229ギガパスカル、温度300〜2,630ケルビンの範囲を行き来しながら、細く絞ったX線で回折パターンを記録していく。ESRFは近年、光源を大幅に強化しており、極端に小さい試料からでも鮮明なパターンがとれるようになった。それが今回の観測を支えた。

結果はきれいな階段になった。155ギガパスカル・2,000ケルビンでは、fccとhcpの信号が混ざって出る。197ギガパスカル・2,250ケルビンに上げると、hcpの信号がfccより強くなる。そして219ギガパスカル・2,630ケルビンまで持っていくと、fccの信号はほとんど消え、hcpが完全に優勢になった。論文の要約では、200ギガパスカル・1,800ケルビンを超えたあたりで、超イオン状態に入るのと同時にhcpが支配的になるとまとめられている。超イオン状態に入ったことは、加熱したときの結晶のふくらみ方がふつうの固体と違う(異常な熱膨張を示す)ことから確かめられた。

つまり、圧力と温度を上げていくと、超イオン氷は酸素の層の積み方をfccからhcpへ乗り換える。層がずれて積み方だけが変わる、いわゆるマルテンサイト変態に近いふるまいで、130〜200ギガパスカルの幅にわたってじわじわ進むというのがチームの解釈だ。

おもしろいのは、この氷が今回はじめて作られたわけではなさそうな点である。チームが過去の実験データを見直したところ、130ギガパスカルを超えたところに、正体不明のまま放置されていた回折ピークがあった。それがhcp氷の信号だった可能性が高いという。何年も前から手元にあったのに、見えていなかったことになる。もう一つ、冷やしていく途中でも別の経路でhcpが顔を出した。fccの酸素格子が体心立方(bcc)と呼ばれる並びに戻る途中で層の積み方が乱れ、その乱れの中からhcpが生まれてくる様子も観測されている。

天王星・海王星の内部モデルへの影響

原子の並びが層一枚分ずれるだけの話が、惑星の話につながる。

超イオン氷が天王星や海王星の磁場を作っている、という筋書きの要は、氷の中をどれだけ水素が動きやすいか、そして氷そのものがどれだけ変形しやすいかにある。この二つが、fccとhcpで同じである保証はない。もし違えば、両惑星の内部で物質と電荷がどう動くかの計算も変わり、あの傾いた磁場の説明にも手直しが要るかもしれない。しかも、今回hcpが優勢になった200ギガパスカル前後・2,000ケルビン前後という条件は、天王星・海王星の内部にそのまま当てはまる。

ただし、hcp氷がどんな性質を持つのかは、まだ何も分かっていない。電気の通りやすさも、力をかけたときの変形のしやすさも、これから理論と実験の両方で調べる段階である。fccとhcpのどちらが安定なのかを分ける境界が、圧力と温度の平面上でどこを走っているのかも、まだ大まかにしか押さえられていない。研究チーム自身、追加の理論計算と実験を呼びかけている。

「氷」と聞いて思い浮かべるあの冷たい塊は、水という物質がとりうる姿のほんの一つにすぎない。2,357℃の氷は、その一覧にもう一行を書き加えたところである。

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出典

Alexis Forestier ほか, “Observation of Hexagonal Close-Packed Water Ice at Conditions in Ice Giant Planetary Interiors,” Physical Review Letters 137, 114101(2026年9月9日)
https://doi.org/10.1103/sdrk-3m4t(要約のみ無料)

Charles Day, “Making Uranian and Neptunian Ice on Earth,” Physics 19, s111(2026年9月9日)
https://physics.aps.org/articles/v19/s111

Michelle Starr, “Scientists Create a New Form of Ice at More Than 2,000 °C,” ScienceAlert(2026年9月9日)
https://www.sciencealert.com/scientists-create-a-new-form-of-ice-at-more-than-2000-c

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