この記事には広告(Amazon アソシエイトのリンク)を含みます。
魚には首がありません。頭の後ろの骨は肩帯(けんたい。胸びれを支える肩の骨)と直接つながっていて、頭を動かせば胴も動きます。約3億7,000万年前、デボン紀の後半に魚から四肢動物(しし動物。手足を持つ陸上脊椎動物の仲間)が生まれる過程で、頭と肩帯が離れ、その間に「首」ができました。この変化は長いあいだ、「首ができたから頭が自由に動くようになり、陸での暮らしがしやすくなった」と説明されてきました。Nature に掲載された Dana E. Korneisel さん(カールトン大学、現ウプサラ大学)らの研究は、この定説を実験で試し、首ができても頭はほとんど動かなかった、という結論を出しました。
首はあるのに、関節がない
最初期の四肢動物の背骨は、いまの陸上動物のものとはかなり違います。現生の四肢動物では、脊索(せきさく。背骨の芯になる、ゼリー状の組織が詰まった管)は発生の途中で骨の椎体に置き換わり、椎骨どうしが関節でつながって、曲がる範囲は関節の形で決まります。ところが幹四肢動物(かんししどうぶつ。四肢動物の系統の初期の仲間)は、大人になっても脊索を保ち、その周りに軟骨や骨の弓が並ぶだけで、骨と骨をつなぐ関節を持ちません。首の可動域を関節の形から推定する、いつもの方法が使えないのです。首の可動性が上がった、という予測は、こうした事情で誰も機能的に検証してきませんでした。
研究チームが目をつけたのは、チョウザメでした。四肢動物とは遠い関係の魚ですが、チョウザメも大人になっても脊索を保ち、その周りに関節を持たない弓が並ぶ、よく似た作りの背骨をしています。体の大きさも初期の四肢動物に近い。本物の化石の背骨は曲げられませんが、同じ作りをした生きた魚の背骨なら、材料としての硬さを測れます。
背骨を曲げて、ねじる
使ったのはレイクスタージョン(Acipenser fulvescens)の1歳魚10匹です。背骨を頭の一部と尾びれごと取り出し、材料試験機にかけて、横に曲げる・上下に曲げる・ねじる、の3通りの力を加え、どれだけの力でどれだけたわむかを測りました。脊索だけを取り出して測ることもしました。
結果、背骨全体の硬さは、脊索だけの硬さより格段に大きいことが分かりました。脊索を曲げるのに要る力はごくわずかで、硬さを生んでいるのは、脊索を取り囲む弓とそれをつなぐ結合組織のほうです。これは、「関節で固められていない背骨は柔らかいはずだ」という直感とは逆です。骨どうしがぶつかって止まるような現象は観察されず、硬さは組織の材料そのものに由来していました。

横に6度、上に3度、ひねれない
こうして得た材料の硬さを、化石の背骨の寸法に当てはめます。対象は、背骨の寸法が測れる幹四肢動物5種と、初期の真の四肢動物1種です。魚に近い側からユーステノプテロン、ティクターリク、アカントステガ、ワッチェリア、グリーレルペトン、そしてトリメロラキス。それぞれの首(またはそれに相当する部分)の断面の形と長さから、頭を横に振る・上げる・回すのに要る力を計算し、頭の後ろに付けられる筋肉の最大の断面積で、出せる力の上限を抑えました。
出てきた数字は小さいものでした。まだ頭と肩が離れていないユーステノプテロンで横に8.5度、ティクターリクで5.5度。頭と肩が離れたあとのアカントステガやグリーレルペトン、トリメロラキスでは、横の曲がりが3度未満、上への曲がりは1.5度未満と、むしろ魚側の仲間より小さくなりました。ほとんどの幹四肢動物は、頭を横に6度・上に3度も動かせなかったことになります。頭を回す動きについては、わずか5度ひねるだけでも200〜746ニュートンメートルという大きなトルクが要り、首の短いてこでは出せません。首を横に振る、頭をかしげる、という動きは、どの種にもできなかったと著者らは見ています。
そして肝心なのは、頭と肩が離れた前後で、この数字が変わっていないことです。頭と肩の分離は、ユーステノプテロンと、ティクターリク以降の仲間の間で起きました。首の可動性が本当にこの分離の理由なら、分離のあとで可動性が上がっているはずです。上がっていません。むしろ下がっています。
例外のワッチェリアと、首の長さ
唯一の例外は、石炭紀前期のワッチェリアでした。横に最大32度、上に12度と、ほかの初期四肢動物の約10倍の可動域が出ています。理由は首の長さです。ワッチェリアの首は頭の長さの89%あり、アカントステガの34%やグリーレルペトンの38%よりずっと長い。脊索が芯の背骨では、曲げるのに要る力が長さの3乗に反比例して小さくなるので、首が長いほど楽に曲がります。逆に、首の長さが3cm 足らずのトリメロラキスは、横に1度・上に1度未満でした。
椎骨の断面の形も効いています。横幅に対して背が高い弓を持つ種ほど曲がりにくく、アカントステガの弓は幅の2.17倍の高さがあって、上への曲がりは0.6度にとどまりました。ティクターリクは弓が幅と高さでほぼ正方形で、2.25度と例外的に上げやすい部類です。
首は、何のためにできたのか
この数値はすべて背骨だけから出したもので、実際の動物には皮膚や筋肉、皮骨、肋骨が重なり、えらの装置も首の伸び縮みを嫌います。本当の可動域はこれよりさらに小さかったはずだと著者らは書いています。
では、頭と肩はなぜ離れたのか。研究チームは、首を動かすためではなく、前肢で体を押す移動のためだったと考えています。幹四肢動物の胸びれと肩帯は、系統を下るにつれて骨の並びが変わり、ひれの条(すじ)を失い、体重を支える構造へと変わっていきます。もっとも魚に近いユーステノプテロンの上腕骨にさえ、体重を受けるのに向いた骨の内部構造がすでにあります。肩の主な役目が「頭と胴をつなぐこと」から「前肢を支えること」へ移っていく中で、頭が肩から切り離されたのだろう、というのが著者らの読みです。首は、その副産物として生まれた。そして頭を自由に動かせる首は、もっとあとの時代に、長い首や椎骨どうしの可動関節とともに、別途進化したことになります。
硬い首は、陸に上がりかけの動物にとって不利とは限りません。水の中では、体の前半が硬いほうが泳ぎの効率は上がり、陸では重力に受け身で耐える助けにもなります。一方で、前肢を地面に着いたまま頭だけ横に振って獲物をくわえる、という初期四肢動物の採食の想像図は、ワッチェリアを除いて成り立たなくなります。ティクターリクの復元画で首を持ち上げた姿は、首を上に3度弱しか曲げられなかったという今回の数字と、少しずれて見えてくるかもしれません。
関連する商品
この記事に関連する本や商品は、Amazon で探せます。
上のリンクから購入されると、このブログに紹介料が入ることがあります。
出典
- Korneisel, D. E. et al. (2026) “Early tetrapod neck mobility modelled using an extant analogue.” Nature. https://doi.org/10.1038/s41586-026-11158-3(オープンアクセス)
- Hirasawa, T. (2026) “How early tetrapods got their neck.” Nature News & Views. https://www.nature.com/articles/d41586-026-03061-8
- Uppsala University(EurekAlert!)“Early tetrapods had surprisingly little ability to move their necks”(2026年10月14日)https://www.eurekalert.org/news-releases/1147352


コメント