核融合の「点火」へは、先に温めてから燃料を足すのが近道。ヘリウム灰・不純物・放射・熱の漏れを足した70年来の条件で、PPPL が計算した

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核融合炉の設計者が70年にわたって頼りにしてきた物差しがあります。1950年代に John Lawson が示した「ローソン条件」で、プラズマの密度・温度・エネルギーを閉じ込めておける時間の組み合わせが、ある水準を超えれば、外から熱を加え続けなくても核融合の熱だけで燃え続ける「点火」に至る、というものです。ただしこの条件は、ゴールの位置を教えてくれるだけで、そこへどう行くかは教えてくれません。プリンストン・プラズマ物理研究所(PPPL)の Luis F. Delgado-Aparicio さん、Masayuki Ono さん、Jonathan E. Menard さんは、ローソン条件に現実の炉で避けられない4つの要素を組み込んで書き直し、点火へ至る道筋そのものを計算した結果を Physical Review Letters に報告しました。結論は、「先に温めて、あとから燃料を足す」のが、いちばん少ないエネルギーで済むというものです。

ゴールだけでは足りない

ローソン条件は理想のプラズマを前提にしています。燃料の重水素と三重水素だけがあり、壁からの汚れも、燃え残りも、余計な放射もない状態です。実際の炉ではそうはいきません。研究チームは、これまで別々には調べられてきたものの、まとめて同じ式に入れられたことのなかった4つの効果を加えました。

  • ヘリウム灰。核融合反応の生成物で、たまるほど燃料を薄めて出力を下げる。
  • 不純物。炉の内壁からはがれて混じる、軽い粒子と重い粒子。
  • シンクロトロン放射。磁場の中を回る電子が、光としてエネルギーを捨てていく損失。
  • 熱輸送。プラズマから外へ逃げる熱で、温度が上がるほど増える。

Ono さんは、これらを外して計算すれば設計は「うまくいく」ように見え、入れると絵が変わってしまうと説明しています。核融合の実験装置は一基ごとに巨額の費用がかかるので、建てる前の計算で見落としを拾える共通の模型を作ることが、この研究の実務的な狙いでした。

山を越えずに、鞍部を抜ける

密度と温度を2つの軸にとった地図を思い浮かべると、外からの加熱が要る領域と、自分の熱だけで燃え続ける領域の間には、尾根のような境目があります。その尾根のいちばん低いところが「Cordey の鞍部(あんぶ)」で、ここを通るのが点火への最短距離です。理想の純粋な燃料のプラズマでは、この鞍部は Q(加えた加熱に対して得られる核融合出力の比)がおよそ5のところにあります。

多くの計画は、まずプラズマの密度を上げてから温める順番をとります。研究チームの地図では、それは尾根のいちばん高いところを正面から登る道にあたります。Delgado-Aparicio さんは「多くの企業が山を正面から登り、そこに着くために莫大なエネルギーを使おうとしている」と言い、先に温度を上げ、熱くなってから密度を足す道なら、同じ場所にずっと少ないエネルギーで着けると述べています。4つの効果を入れると、鞍部も点火の入口も、より高い密度と温度の側へずれて、必要な圧力は上がります。それでも、鞍部を回り込む道のほうが、正面の道より安く済むことは変わりません。

1万分の1のタングステンで、必要な圧力が2倍

計算が出した警告のひとつが、炉の壁の材料に関するものです。タングステンは融点が高く熱に強いので、ITER を含む十数基の次世代装置が内壁に選んでいます。ところが、プラズマの中に混じるタングステンが原子の数で1万分の1程度あるだけで、点火に必要な圧力が2次元の計算でおよそ2倍になりました。重い原子は電子をたくさん持っているので、放射で熱を奪う力が桁違いに大きいからです。炉の形を3次元で扱うと、必要な圧力はプラズマが安定でいられる上限を超えてしまうこともあります。壁を守るはずの金属が、少し混じるだけで点火をはるかに難しくする、という結果です。

対策として論文が挙げるのは、液体リチウムで壁を覆ってタングステンの混入を防ぎながら熱の保持も良くする方法と、燃料の原子核のスピンをそろえて反応率を上げる「スピン偏極燃料」です。どちらも、閉じた点火の窓を部分的に開き直す効果があります。

点火を難しくするものが、暴走も止める

もうひとつ意外な結果があります。核融合の設計で長く心配されてきたのが「熱暴走」です。核融合の熱でプラズマがさらに熱くなり、反応がさらに進む、という正のフィードバックが止まらなくなる筋書きです。研究チームの計算では、放射や熱輸送による損失、そして閉じ込めの性能が温度とともに悪くなる普遍的な傾向が、この暴走にブレーキをかけることが分かりました。点火を難しくしているまさにその損失が、いったん燃え始めたプラズマを安定した定常燃焼に落ち着かせる働きをするのです。なお核融合炉が抱えている燃料は数秒ぶんで、制御を失えばプラズマは冷えて燃焼が止まるだけだとも書かれています。

計算だけで、実験はまだ無い

この研究は実験ではなく、0次元の模型による計算です。Cordey の鞍部にあたる温度は太陽の中心より高く、現在のどの実験装置もそこに届いていないので、「先に温める」道の利点を実機で確かめた人はまだいません。研究チームは次の段階として、計算機の中でプラズマを時間とともに追う「デジタル実験」で、この道筋を試すとしています。Menard さんは、さらなる研究が要るとしつつ、今後の研究の進む方向がはっきり示されたと述べています。

核融合の達成時期は専門家の間でも見方が割れていますが、十数基の炉が設計段階にあるいま、「どの順番で温めるか」「壁から何がどれだけ混じるか」を建てる前に同じ式で評価できるようになったことは、小さな前進とは言えなさそうです。

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