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兵士の服とイチゴ畑に、共通点はほとんど思いつきません。ところが米ノースカロライナ州立大学には、その両方に使われている布があります。「Plant Armor(プラント・アーマー)」と呼ばれる、厚みのある3次元の編み地です。もとは軍の制服を蚊に刺されにくく、しかも着心地よくするために繊維工学のチームが開発したもので、それを昆虫学の研究室が作物の覆いに転用しました。今回、この布でイチゴの株を覆ったところ、収穫できる実の数が3.56倍になったという論文が、2026年9月25日に Agriculture という誌に載りました。誰でも読めるオープンアクセスの論文で、筆頭著者は大学院生の Gabriel Olawuyi さん、まとめ役は R. Michael Roe さんです。
虫は通さず、光と雨と風は通す
作物を虫から守る覆いは、昔からあります。細かい網をトマトやキュウリやキャベツにかければ虫は入れません。問題は、虫を止めるほど目を細かくすると、光と風も通りにくくなることです。閉じ込めれば蒸れ、暗くなれば育ちが落ちます。ビニールのトンネルは温かくなりますが、中は外と切り離された環境になります。
Plant Armor は、糸を立体的に編んで層のあいだに空間を持たせた「スペーサー編み地」です。見た目はぎっしり詰まった不透明な布なのに、層の構造のおかげで日光も空気も雨水も通り、虫は通れません。研究室はこの布を2022年にキャベツにかけて試し、葉や茎の生育量が2.93倍になることを報告していました。ただし、キャベツは葉を食べる作物です。実をつける作物で、実そのものが増えるかどうかは、まだ試されていませんでした。

秋から春まで、布の下で育てた
イチゴを選んだのには理由があります。イチゴは秋に植えて冬を越し、春に収穫する、3つの季節にまたがる作物です。しかも花と実を霜から守るために、もともと一重の布をかけて育てる習慣があります。布をかけること自体が農家にとって新しい手間ではないわけです。
試験は大学のあるノースカロライナ州ローリーのトンネル圃場で行われました。塩ビ管で組んだ高さ1メートルほどの弓形の骨に布を張り、イチゴの株を覆います。覆った株と覆わない株を同じように育て、冬を越させて、春に熟した実を摘み取りました。
実は3.56倍、葉と茎は変わらず
収穫できた実の数は、覆った株のほうが3.56倍でした。実の数だけでなく重さも、覆わない株より有意に多くなっています。ところが、株そのものを掘り上げて重さを比べると、葉や茎の量に差はありませんでした。実だけが増えて、株は大きくなっていなかったのです。
研究者たちは、これと反対の結果を予想していました。見た目が不透明な布で覆えば光が減り、植物は「日陰回避」と呼ばれる反応で茎や葉を伸ばすほうへ力を回し、実をつける力が落ちるだろう、と。Olawuyi さんは、布は光の取り込みをまったく妨げず、実の生産がはっきり増えたと話しています。覆った株には茎が間延びする兆候もありませんでした。
実が増えた理由として論文が挙げるのは、温度です。布の下の気温は生育期を通じて一貫して高く、報道によれば平均で約1.9℃の差がありました。一方で湿度は覆いの内外で変わっていません。植物は花を咲かせ実をつけるまでに一定の暖かさを積み重ねる必要があり、これを積算温度(生育度日)と呼びます。布の下では暖かさが早く貯まるので、覆った株はおよそ1週間早く収穫できるようになりました。ビニールのように閉じ込めず、風も雨も通しながら温かさだけを足している、という点がこの布の持ち味です。

アブラムシは、実験室では1匹も通れなかった
虫に対する効き目は、実験室の試験ではっきりしています。イチゴに付く代表的な害虫のアブラムシを布で隔てると、通り抜けた個体はゼロでした。アブラムシは汁を吸って株を弱らせるだけでなく、植物のウイルスを運ぶので、これを防げる意味は大きいといえます。
ただし畑では、話はそう単純ではありませんでした。春先に、覆った株にも覆わない株にもアブラムシが現れたのです。研究者たちは、苗に卵が付いたまま持ち込まれたか、測定のために布をめくったときに入り込んだのだろうと考えています。両方の区に一度だけ殺虫性の石けんをまいて対処しました。布そのものは虫を通さなくても、株を布の下に入れる前と、布を開ける瞬間が抜け道になる、という教訓です。根のまわりの土の細菌の数は、予備的な調べでは覆いの有無で差がありませんでした。
1か所の試験で言えること
結果は目を引きますが、これは大学の1か所の圃場で行った小さな試験です。論文自身が、いろいろな作物と地域の農場で試す必要があると結んでいます。花がどう受粉したのか、水の使い方に差が出るのかといった点も、まだ答えが出ていません。
もう一つ書いておくべきことがあります。この布は大学が特許を取り、商業化のためにライセンスしています。Roe さんは関連する特許の発明者の一人です。研究の内容が揺らぐわけではありませんが、効果を語る側が布の権利に関わっている、という点は読むときに頭に置いておく必要があります。
蚊に刺されない軍服のために編まれた布が、イチゴの畝の上で霜と虫を防ぎ、実の数を3倍以上にした。農場での試験が同じ結果を出せば、農薬と水を減らしながら早く多く収穫する道が一つ増えることになります。それが本当にそうなるかは、これからの試験が決めます。
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