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ベルリンの検索エンジン会社 Ecosia(エコジア)が、自社ブラウザの Linux 版を公開しました。Ubuntu の App Center と Snap ストアから入れられます。Ecosia は「検索するたびに木が植わる」ことで知られる会社で、広告収入の利益をすべて環境保護に回すと公言しています。ブラウザは 2024 年から Windows・Mac・iOS・Android 向けに出していて、今回そこに Linux が加わった形です。
ブラウザが一つ増えただけ、と言えばそうなのですが、Ecosia が発表で前面に出したのは環境の話ではなく「欧州のデジタル主権」でした。Linux ユーザーを、データのプライバシーと自前の技術基盤を長く求めてきた層だと位置づけ、その人たちに向けて出す、という言い方をしています。この記事では、その背景にある数字と、この発表のちょっと変わったところを追っていきます。
Ecosia と Linux 版ブラウザの公開
今回の Linux 版は、Chromium(Google が中心になって開発しているオープンソースのブラウザ基盤)をベースにしたもので、中身は他の OS 向けの Ecosia ブラウザと同じ系統です。Snap ストアの配布ページを見ると、安定版が 2026 年 8 月 31 日に公開されていて、バージョン番号は 152 系。Chromium の最新版に追従している数字です。ページには Ubuntu のほか、Debian・Fedora・Arch・Linux Mint などへの導入手順も並んでいます。
実は Linux で動く Ecosia ブラウザ自体は、これが初出ではありません。Flatpak 形式のパッケージが Flathub に数か月前から置かれていて、Ecosia のサポートページにも「Ubuntu 25.10 以降で動作確認済み」と書かれています。今回の発表は、Ubuntu 標準の App Center と Snap ストアに正式に載せ、会社として「Linux 版を出した」と打ち出したところに意味があります。静かに置いてあった状態から、旗を立てた、という違いです。

欧州デスクトップでの Linux の伸び
Ecosia が「今」Linux 版を出す根拠として挙げたのが、市場シェアの数字です。EU 域内のデスクトップで Linux の割合が、2024 年の 2.5% から 2025 年には 5.7% へと、1 年で倍以上になったといいます。同じ期間に Windows は 80.2% から 74.2% へ落ちました。
元記事の The Register が執筆時点の StatCounter を確認したところ、欧州全体のデスクトップ(ゲーム機を含む区分)で Linux は 6.4%、Windows は 68.62% まで来ています。EU と欧州全体で集計の範囲が少し違うので単純にはつなげられませんが、どちらの数字を見ても方向は同じで、Linux が伸び、Windows が削られています。
5.7% や 6.4% という数字は、絶対値としては小さいままです。ただ、デスクトップ OS のシェアは何年もほとんど動かないのが普通で、1 年で倍になるのはかなり珍しい動きです。およそ 20 人に 1 人が Linux、と言えば、身の回りに一人はいてもおかしくない割合でもあります。
「デジタル主権」という追い風
この伸びの背景として語られているのが、欧州で強まっている「デジタル主権」の流れです。ざっくり言うと、政府や企業の IT 基盤を米国の大手数社に握られたままでよいのか、という問題意識で、OS・クラウド・検索といった土台の部分を欧州の中で持てるようにしようという動きです。国や自治体レベルで Windows から Linux へ移行する事例が報じられるようになったのも、この文脈に乗っています。
Ecosia はこの流れにかなり積極的に乗ってきた会社です。フランスの検索エンジン Qwant と共同で「European Search Perspective(EUSP)」という合弁組織を作り、2025 年には欧州製の検索インデックス(検索エンジンの中身にあたる、ウェブページを集めて整理したデータベース)を稼働させました。Ecosia の検索結果はこれまで Bing や Google のデータに大きく頼っていたのですが、それを自前に置き換えていく計画です。フランス向けの結果から始まり、Ecosia のブログによるとドイツのユーザーにも EUSP の結果を出し始めています。
さらに 2026 年には欧州委員会が、Google に対して匿名化した検索データを競合の検索エンジンと共有するよう求める決定を出しました。Ecosia はこれを歓迎する声明を出しています。土台を自前で持ちたい欧州と、それをビジネスにしたい Ecosia の利害が、ここでぴたりと重なっています。
Chromium 製で非公開のソースコード
ここで、少し引っかかる点があります。「Google の支配から自由になる欧州製ブラウザ」として出された Linux 版ですが、その中身は Google が主導する Chromium です。そして Register が指摘しているとおり、Ecosia のブラウザは Chromium の上に作られているものの、ブラウザそのもののソースコードは公開されていません。Snap ストアと Flathub のライセンス欄も、どちらも「Proprietary(プロプライエタリ=非公開)」になっています。
Linux の世界では、使うソフトのソースコードが読めることを重く見る人が多いので、これはちょっと居心地の悪い組み合わせです。Register は Linux 版だけ方針が違うのか Ecosia に問い合わせていますが、記事の時点で返事はなかったとしています。
ただ、これを「言っていることとやっていることが違う」と切って捨てると、この発表の狙いを読み違えると思います。創業者の Christian Kroll 氏のコメントをよく見ると、Linux 版を出すことで彼らの価値観に合う「検索エンジン」をようやく届けられる、と言っているのです。ブラウザを届けられる、ではなく検索エンジンを、です。
本命は検索の入口
つまり Ecosia にとって、ブラウザは検索エンジンを使ってもらうための入口です。検索エンジン会社がブラウザを持つ理由はたいていこれで、Google が Chrome を出したときも同じ理屈がよく語られました。ブラウザのアドレスバーに何かを打ち込んだときに、どの検索エンジンに飛ぶか。それを自社に固定できるのが、ブラウザを持つ最大の意味です。
そう考えると、ブラウザの土台が Chromium であることは、Ecosia の側からすれば大きな問題ではありません。主要なブラウザエンジンを維持し続けているのは実質的に Google・Apple・Mozilla の三者だけで、そこで戦う気は最初からないはずです。彼らが「自前」にしたいのは、ブラウザではなく、その先にある検索インデックスのほうです。EUSP がそれにあたります。
そして Linux ユーザーは、そのインデックスを試してくれる可能性が高い層です。既定の検索エンジンを Google から別のものに切り替えることに慣れていて、プライバシーを理由に選ぶことも多く、欧州では人数が 1 年で倍になった。Ecosia の発表文にある「Microsoft や Google のような商業的巨大企業に懐疑的な層」という表現は、そのままこの人たちの説明になっています。ブラウザは Chromium でよい、検索の入口だけ押さえたい、それを一番受け取ってくれそうな相手が Linux ユーザーだった。今回の発表は、そういう組み立てで読むと筋が通ります。
数字の読み方と残る疑問
「欧州が米国のテックから離れつつある」という物語に、市場シェアの数字はよく合っているように見えます。ただ、同じ StatCounter の数字には、その物語に収まらない部分もあります。Register が添えているのは、欧州における macOS のシェアが 2025 年 8 月以降ほぼ倍になっている、という点です。Windows から離れた人の受け皿は Linux だけではなく、同じ米国企業の Apple にも流れています。Windows のシェア低下を「欧州の自立」の証拠として読むのは、少し話を盛りすぎになります。
EUSP の側にも、まだ見えていないことが多いです。欧州委員会の決定で Google の検索データが競合に渡るようになるはずですが、その恩恵が EUSP のインデックスにすでに届いているのかは、Register も確認できていません。Ecosia と Qwant は他の EU 言語への展開を進めていると言っていますが、対応がどこまで進んだのかも発表文からは読み取れないとしています。
Linux 版ブラウザの公開は、それ自体は小さなニュースです。ただ、その裏で動いているのは、検索という土台を欧州の中で持ち直そうとする、もう少し時間のかかる話です。ブラウザの Linux 対応は、その計画の中で「使ってもらう人を増やす」役割を担っている、と見ておくのがちょうどいい距離感だと思います。
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出典
The Register:The search company that plants trees just launched a Linux browser to help Europe battle big tech(2026 年 9 月 4 日、Brandon Vigliarolo)
Snap ストア:Install Ecosia Browser on Linux | Snap Store
Flathub:Install Ecosia Browser on Linux | Flathub
Ecosia ブログ(EUSP の立ち上げ):Launching our European search index


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