【オルドビス紀の生物】シャミセンガイ – 5億年変わらなかったのは殻の形だけ

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名前シャミセンガイ(学名 Lingula=ラテン語で「小さな舌」)
分類腕足動物門 舌殻綱 シャミセンガイ科
時代シャミセンガイ型の腕足動物はカンブリア紀から現在まで。シャミセンガイ属そのものは白亜紀末〜古第三紀以降
発見地世界各地。現生種は日本(有明海・瀬戸内海・奄美大島など)、朝鮮半島、中国、東南アジア、インド洋沿岸
殻の長さ3〜5cm(現生のミドリシャミセンガイ)
全長肉茎を含めて10cm前後

シャミセンガイは、腕足動物のなかまです。二枚の殻を持つので貝に見えますが、アサリやハマグリとは体のつくりが根本から違う別の動物群に属します。5億年以上前から今と同じ形の殻が地層に残ることから「生きている化石」の代表として図鑑や教科書に載ってきましたが、2003年に、その呼び方そのものを退ける論文が出ています。

姿と暮らし

殻は細長い楕円形で、緑がかった半透明の薄い板が二枚重なっています。殻の後ろから、殻と同じくらいか、それより長い肉質の柄(肉茎)が伸びます。この殻を三味線の胴、肉茎を棹に見立てたのが和名の由来です。学名のLingulaは「小さな舌」で、殻の輪郭を舌に見立てています。

二枚貝と決定的に違うのは殻の向きです。二枚貝は体の左右に殻がつきますが、腕足動物は背中側と腹側に殻がつきます。もうひとつ、殻の材質も違います。ほとんどの腕足動物や貝は炭酸カルシウムの殻を作りますが、シャミセンガイの殻はリン酸カルシウムとキチン、それに有機物を何層にも重ねた、しなやかで少し弾力のある構造です。リン酸カルシウムは脊椎動物の骨や歯と同じ成分で、殻の材料としてはかなり珍しい選択です。

暮らし方は、干潟や浅い海の砂泥に縦穴を掘って潜るというものです。殻を上、肉茎を下にして穴の中に納まり、殻の先端だけを砂の表面近くに出します。殻を少し開くと、内側にある触手冠という繊毛の生えた器官で海水を吸い込み、水中の小さな有機物をこし取って食べます。危険を感じると肉茎を縮めて穴の奥へ引っ込みます。有明海の漁師は、砂の表面に残る楕円形の線を目印にして一つずつ手で掘り出します。

腕足動物という名前は、この触手冠を「腕」と誤解したことに由来します。実際は歩くための脚でも、ものをつかむ腕でもありません。

この体制は非常に古く、カンブリア紀の地層からすでにシャミセンガイ型の腕足動物が見つかります。オルドビス紀になると腕足動物は殻を持つ動物の中でもっとも数が多いグループに成長し、海底を埋めるように暮らしていました。シャミセンガイ型の潜る種類は、砂泥の中に残された巣穴の化石や、殻が穴の中に立った状態で埋まった標本から、当時も同じように穴に潜っていたことが分かっています。

日本との縁は深く、明治10年(1877年)にアメリカの動物学者エドワード・モースが来日した目的は、このシャミセンガイの研究でした。モースはその滞在中に大森貝塚を見つけています。有明海周辺ではミドリシャミセンガイを「メカジャ」と呼んで煮付けや味噌汁にしてきましたが、生息数の減少で、今では気軽に食べられる存在ではなくなっています。

「生きている化石」という呼び方の出どころ

シャミセンガイを「変わらない生き物」の代表に押し上げたのは、チャールズ・ダーウィンです。1859年の『種の起源』で、ダーウィンは最古の地層に出てくる動物のうちオウムガイやシャミセンガイなどは現在の種とあまり違わない、と書きました。当時はカンブリア紀という区分がまだなく、ダーウィンはこれを「シルル紀の動物」と呼んでいます。この一節を根拠に、シャミセンガイは「地球でもっとも古くから姿を変えていない動物」として紹介されるようになりました。

根拠になっていたのは殻の形です。カンブリア紀やオルドビス紀の地層から出る、細長い舌のような殻の化石が、現生のシャミセンガイと見分けがつかない。だから古い化石も現在の種も同じLingula属に入れられ、この属は5億年以上続いてきた、と説明されてきました。

属としては新参者だった

2003年、フランスの腕足動物研究者クリスチャン・エミグは、この見方を正面から退ける論文を発表しました。要点は、殻の輪郭が似ているだけで同じ属に入れられてきた化石を一つずつ見直すと、シャミセンガイ属の特徴を実際に備えたものは白亜紀の終わりか古第三紀のはじめより古い地層からは確認できない、というものです。それより古い「Lingula」とされていた化石は、殻の内側の筋肉の付着痕や殻の細部が異なり、リンギュレラやディグノミアなど別の属に分けられました。カンブリア紀から続くのはシャミセンガイ科より上のグループであって、シャミセンガイ属そのものではないというのがエミグの結論です。

この論文で、シャミセンガイの「4億年」「5億年」という数字は、属の年齢ではなく、潜って暮らす細長い殻という生活様式の年齢だったことがはっきりしました。同じ形の殻を持つ別々の属が入れ替わりながら、同じ暮らしを続けてきたのです。

2015年には、沖縄科学技術大学院大学(OIST)を中心とする日本のチームが、奄美大島で採集したミドリシャミセンガイのゲノムを解読しました。解読の結果、ゲノムの中では遺伝子ファミリーの拡張などの変化が活発に起きていて、姿の変わらなさと遺伝子の変わらなさは別物だと示されました。同じ研究では、シャミセンガイがリン酸カルシウムの殻を作る仕組みが脊椎動物の骨とは無関係に独立して生まれたこと、系統上は貝に近い位置にいることも分かっています。

ダーウィンがシャミセンガイの名前を挙げた文脈も、実は「変わらない生き物の見本」としてではありませんでした。最古の地層にすでに現在と似た動物がいるのなら、その前にさらに長い進化の時間があったはずだ、という論の中で出てくる例です。姿が変わらないことを示す証拠として使われるようになったのは、後の読まれ方によるものです。

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出典

Emig, C. C. (2003). Proof that Lingula (Brachiopoda) is not a living-fossil, and emended diagnoses of the Family Lingulidae. Carnets de Géologie, Letter 2003/01.

Luo, Y.-J. et al. (2015). The Lingula genome provides insights into brachiopod evolution and the origin of phosphate biomineralization. Nature Communications 6, 8301.

‘Living fossil’ genome decoded — OIST プレスリリース(EurekAlert!、2015年9月18日)

Darwin, C. (1859). On the Origin of Species — Nautilus と Lingula に触れた一節(Darwin Online 校訂版)

ミドリシャミセンガイ — 熊本学園大学 水俣学研究センター

ミドリシャミセンガイ — じざかなび福岡(福岡県)

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