SPHEREx が近傍の褐色矮星37個のスペクトルを並べたら、5つの大気模型がどれも合わなかった。半径を20〜50%ずらして帳尻を合わせていた

スポンサーリンク

この記事には広告(Amazon アソシエイトのリンク)を含みます。

褐色矮星(かっしょくわいせい)は、木星より重く、星になりきれなかった天体です。質量が足りず中心で水素の核融合を始められないまま、生まれたときの熱をゆっくり手放しながら、何十億年もかけて冷えていきます。熱い若いものは2,500K ほど、いちばん冷えたものは氷点下にまで達し、表面には水蒸気やメタンの雲がかかります。恒星でも惑星でもないこの天体の大気を、天文学者は理論の模型で描いてきました。Caltech/IPAC の Zafar Rustamkulov さんらは、2025年5月に全天の観測を始めた NASA の宇宙望遠鏡 SPHEREx が撮った近傍の褐色矮星37個のスペクトル(光を波長ごとに分けたデータ)を、代表的な5つの大気模型と突き合わせた結果を The Astrophysical Journal に報告しました。どの模型も、データを再現できませんでした。

全天を102の色で撮る望遠鏡

SPHEREx は、空の一点を長く見つめる望遠鏡ではありません。0.75〜5µm(マイクロメートル)の近赤外線を102の波長帯に分け、約2年の主ミッションの間に全天を4回なぞります。波長の分け方の細かさ(分解能)は4µm より短い側で約40、4〜5µm で約120と、巨大望遠鏡の分光器にはかないません。その代わり、空にあるすべての天体について、同じ条件でそろった「粗いスペクトル」が手に入ります。

褐色矮星にとって、これは都合のよい組み合わせです。従来の広域サーベイ(2MASS や WISE)は数個の広いフィルターで明るさを測るだけで、スペクトルとしての分解能は5〜8程度しかありませんでした。SPHEREx の102チャンネルは、水、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素の吸収帯をそれぞれ分けて測れるうえ、褐色矮星が出す熱の8割以上を占める波長域をまとめて覆います。すでに数千個の褐色矮星のスペクトルが集まっていて、研究チームはその中から、2〜30パーセク(約7〜100光年)にある、信号の質の高い37個を選びました。L型・T型・Y型の3つの型をまたぎ、温度にして約2,500K から約250K までが並ぶ、いわば「冷えていく順番」の見本帳です。

5つの模型、どれも合わない

比べたのは、Sonora Diamondback、Sonora Elf Owl、BT-Settl、ATMO2020、ATMO2020++ という5つの模型です。雲の扱い、化学反応の扱い、大気のかき混ぜ方について、それぞれ違う前提を置いています。37個のスペクトルにそれぞれの模型を当てて、どの波長でどれだけ外れるかを調べました。

結果、どの模型も、近赤外の1〜2.5µm に並ぶ3つの山(J・H・K バンドのピーク)と、4µm 付近の「不透明度の窓」を同時に合わせることができませんでした。この窓は、水の吸収帯の間に挟まれた、大気の深いところからの光がもっとも素直に抜けてくる波長で、褐色矮星のどの型にも共通して現れる目印です。外れ方がいちばん大きいのは、化学に敏感な二酸化炭素と一酸化炭素の吸収のあたりでした。

もっと困るのは、模型が合わせ込みの代償に返してくる数字です。スペクトルの形を合わせるために、模型は褐色矮星の半径を理論の予想よりかなり小さく見積もり、模型どうしでも20%ほどのばらつきを出しました。T9型の天体では半径の見積もりが模型間で約50%違い、いちばん冷たい Y 型の WISE J0855 では3〜4倍の開きがありました。重力や金属量の見積もりも、模型ごとにばらばらです。著者らは、褐色矮星の性質についての知識は観測の誤差ではなく模型の系統誤差で頭打ちになっている、と書いています。

合っていたのは、炭素の行き先

模型がまったく役に立たなかったわけではありません。研究チームは、メタン・一酸化炭素・二酸化炭素のそれぞれの吸収の強さを、4µm の窓を基準にして測る指標を作りました。これで37個を並べると、温度が約1,000K から約700K へ下がるところ(T6型から T7型)で、一酸化炭素と二酸化炭素が急に減り、メタンに置き換わる様子がきれいに出ます。炭素が、熱いうちは一酸化炭素として、冷えるとメタンとして存在する、という化学の推移です。

この推移を、模型はおおむねなぞれました。中でもよく合ったのは、大気の鉛直方向のかき混ぜを弱く設定した Sonora Elf Owl です。木星では大気が激しくかき混ぜられて深部の化学が表面に持ち上がりますが、観測した褐色矮星たちは、それよりずっと静かな大気を好みました。雲を加えた Diamondback 模型は、雲のある L 型から雲の切れる T 型への移行域で、かえって当てはまりが悪くなりました。雲と化学を一緒に扱う理論が足りない、というのが著者らの見立てです。

模型を直すための地図

褐色矮星は、主星を持たない孤立した天体です。だからこそ、主星の光に邪魔されずに「重い惑星のような大気」そのものを調べられる、系外惑星研究の試験台になってきました。模型が褐色矮星を再現できないなら、その模型を系外惑星に当てて得た温度や半径も、同じだけ信用できないことになります。

SPHEREx は25か月の主ミッションでまだ最初の1周を終えた段階で、同じ天体を何度も撮り直すことで、スペクトルの精度はこれから上がっていきます。数千個の褐色矮星の見本帳がそろえば、模型のどこを直せばよいかが、波長ごと・温度ごとに見えてくるはずです。NASA のリリースで共著者の J. Davy Kirkpatrick さんは、この結果を「もっと多くの暗い世界を調べよという呼びかけ」と言い表しています。

関連する商品

この記事に関連する本や商品は、Amazon で探せます。

上のリンクから購入されると、このブログに紹介料が入ることがあります。

出典

コメント

タイトルとURLをコピーしました