土星の南極に「十角形」が見つかった——出発点はアマチュア天文家の写真

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土星の南極のまわりに、十角形の巨大な波模様が見つかりました。スペイン・バスク大学のアグスティン・サンチェス=ラベガ氏らの研究チームが、2026年9月に科学誌Science Advancesで報告したものです。

土星といえば、北極を取り囲む六角形の渦がよく知られています。今回はその反対側、南極です。しかも発見のきっかけは、大型望遠鏡でも探査機でもなく、アマチュア天文家が自宅の望遠鏡で撮った写真でした。

北極の六角形、44年間の「唯一」

まず、北極の六角形の話から始めます。この模様は、1980〜81年に土星を通過したボイジャー探査機の画像で初めて見つかりました。北緯78.5度付近を流れるジェット気流が、なぜかほぼ正確な六角形を描いて極を一周している——そんな構造は、太陽系のほかのどこにもありません。

その後もハッブル宇宙望遠鏡や、2004年から2017年まで土星を周回した探査機カッシーニがくり返し撮影していて、少なくとも44年間、形を保ち続けていることが分かっています。大きさは、内側に地球が4個入るほど。気象現象であることは確かなのに、なぜここまできれいな多角形になるのかは、いまだに説明がついていません。

当然、研究者たちはこう考えました。北にあるなら、南にも似たものがあるのではないか。土星の南北のジェット気流は、おおむね対称的に並んでいるからです。サンチェス=ラベガ氏のチームは、1990年からハッブルの画像で南極側を探し続けてきました。ところが、何も見つかりません。カッシーニが13年かけて撮りためたデータにも、それらしいものは写っていませんでした。

さらに間の悪いことに、土星は自転軸が傾いたまま約29.5年かけて太陽を回るため、地球から見える半球が季節とともに入れ替わります。南極域は2012年ごろから地球側に背を向けてしまい、長らく観測そのものができない状態が続いていました。

アマチュアの画像に写った波線

南極が再び見え始めたのは2023年。そして2024年、変化に最初に気づく手がかりをもたらしたのは、アマチュア天文家たちの画像でした。南極のまわりに、暗くうねる一本の線が写っていたのです。

研究チームは、オーストラリア・ブロークンヒル天文台のトレバー・バリー氏と、フランス天文協会のジャン=ポール・オジェ氏が撮影した画像をもとに、極を真上から見下ろす形に変換する「極投影」という処理を行いました。すると2025年、うねる線の正体がはっきり浮かび上がります。頂点が10個。まぎれもない十角形が、南極を取り囲んでいました。

ハッブルの高解像度画像でも確認が取れ、さかのぼると2023年10月の画像にすでに淡い十角形が写っていたことも分かりました。一方で、カッシーニ時代のデータには影も形もない。つまりこの十角形は、南極が地球から見えなかった2017年から2023年のあいだのどこかで、新しく生まれた可能性が高いのです。

それが意味することは小さくありません。44年間「太陽系で唯一の存在」とされてきたあの六角形は、実は変わり者ではなかった——土星の大気には、南北どちらの極域でも多角形の波を生み出す条件がそろっていた、ということになります。サンチェス=ラベガ氏自身も、六角形はこれまで考えられてきたほど特別ではなかったと述べています。両氏の名前は論文の著者欄にも並んでいて、アマチュアの観測がそのまま研究の土台になった形です。

十角形の規模と動き

見つかった十角形は、南緯60度前後(正確には南緯58〜63度あたり)に位置しています。北極の六角形(北緯78.5度付近)よりも、だいぶ極から離れた場所です。

スケールは桁外れで、十角形の一辺だけで16,700kmを超えます。地球の直径(約12,700km)より長い直線が、10本つながって極を囲んでいる計算です。

動きには面白い対比があります。十角形が乗っているジェット気流は、東向きに時速約420kmで吹き荒れています。ところが十角形の模様そのものは、時速わずか10kmほどでゆっくり東に流れていくだけ。猛烈な流れの上に、ほとんど動かない巨大な形が浮かんでいる格好です。この点は北極の六角形とよく似ていて、どちらも「ジェット気流に乗った大気の波」という同じ種類の現象だと考えられています。

また、波長を変えて観測すると、異なる高度・緯度にも十角形の痕跡が見つかりました。雲の表面に描かれた模様ではなく、大気の中を縦に貫く立体的な構造だということです。

形成の謎と隣の高気圧渦

それにしても、なぜ北は6角で南は10角なのか。なぜ六角形は44年以上安定しているのに、十角形はここ数年で突然現れたのか。分からないことだらけです。

手がかりとして注目されているのが、十角形のすぐ北側にある直径約4,000kmの高気圧性の渦です。木星の大赤斑を小さくしたような渦で、研究チームは「レッドスポット」と呼んでいます。興味深いことに、十角形はこの渦の近くでもっともくっきりし、惑星の反対側ではもっとも不明瞭になります。この渦が波を駆動しているのではないか、という筋書きです。

研究チームはシミュレーションでいくつかのシナリオを試しましたが、観測された十角形を正確に再現できたものはまだありません。しかも、渦犯人説には過去に苦い前例があります。1980年に六角形が見つかったときも、すぐそばに似たような渦があり、同じ説が唱えられました。ところがその後、渦は消えたのに六角形は残ったのです。

今後の観測の見どころ

六角形が見つかったとき、それはすでに完成された姿でした。私たちは「できあがった多角形」しか知りません。ところが今回の十角形は、生まれたばかりで、まだ形が変わり続けている可能性があります。多角形が育っていく過程を最初から観察できるのは、これが初めてです。

タイミングも味方しています。土星の南半球はいま、春から夏へ向かっている途中です。土星の季節は1つあたり約7.5年と長く、これから南極は太陽の側へ、そして地球から見やすい角度へと、じわじわ傾いていきます。日射が増えたとき、十角形が崩れて消えるのか、それとも安定して居座るのか。サンチェス=ラベガ氏らは、ハッブルやジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡での継続観測が必要だとしています。

44年前の六角形は探査機が見つけました。今回の十角形は、アマチュアの望遠鏡が最初の一枚をとらえています。次に土星が見せる姿を最初に写すのも、案外どこかの庭先の望遠鏡かもしれません。

出典

Sánchez-Lavega, A. et al., “A decagon wave around Saturn’s south pole”, Science Advances, Vol. 12, eaee4251 (2026)
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aee4251

ScienceAlert: “Astronomers Spot an Uncannily Geometric, 10-Sided Structure in Saturn’s Atmosphere”(2026年9月3日)
https://www.sciencealert.com/astronomers-spot-an-uncannily-geometric-10-sided-structure-in-saturns-atmosphere

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