夜空に大きな花火が開いて、しばらくすると白い煙が風に流れていく。あの煙が消えれば、空はもとどおり——そう思って見上げている人がほとんどだと思います。ところが、目に見える煙がはけたあとの空気には、目に見えない汚染物質もいっしょに残っている。そんな研究が発表されました。花火が出しているのは、煙と光と音だけではなかったという話です。
花火と空気の、これまで分かっていたこと
花火が空気を汚す、という事実そのものは、実は前から知られています。祝祭のあとに増えるのが、PM2.5(ピーエムにてんご=直径2.5マイクロメートル以下の細かい粒子)。髪の毛の太さの30分の1ほどしかない小さな粒で、吸い込むと肺の奥まで届きやすいため、大気汚染のなかでもとくに注意されている種類です。花火の色を出すためのバリウムや銅といった金属も、この粒子にまじって空気中に飛びます。
ここまでは「目に見える煙・粒子」の話でした。今回あらためて分かったのは、その煙にまぎれて、目に見えない気体の汚染物質も出ているということです。
煙だけではない、アミンという“見えない”成分
アメリカ化学会(ACS)が独立記念日を前に、花火の環境影響に関する新しい研究をまとめて紹介しました。そのうち大気に関する一本が、花火が出すアミン類に注目した研究です。アミンというのは、アンモニアに似た構造を持つ窒素をふくむ化合物のグループで、花火の一部の配合材料にも含まれています。やっかいなのは、このアミンが空気中で反応して微粒子(エアロゾル)に変わり、もやのような「かすみ(ヘイズ)」や空気の悪化につながりうる点です。
研究チームが確かめたかったのは、花火が爆発するときにアミンが使い果たされて消えるのか、それとも逆に空気中へ放出されるのか、という点でした。結果は後者。中国の旧正月(春節)に打ち上げられる花火のまわりで、気体と粒子の両方を測ったところ、花火をあげていない時期にくらべて、いくつかのアミンがはっきりと増えていました。とくに大きな花火があがったときほど、増え方が大きかったといいます。同時に、PM2.5や硫酸イオン・カリウムイオンといった、花火でおなじみの汚染物質も増えていました。
くわしく分析すると、増えたアミンは、もともと空気中にあったものが姿を変えたのではなく、花火そのものから直接出た一次排出が主でした。気体側ではモノメチルアミン、粒子側ではエチルアミンが目立った、という細かいところまで見えています。つまり花火は、これまで数えられていなかった大気中アミンの新しい発生源だった、というのが今回のいちばんの発見です。花火が祝祭のあとのかすみに足しているのは、目に見える煙だけではなかったわけです。
祝祭の裏で空気に起きていること
花火の汚染というと、打ち上げた瞬間のまぶしさや、そのあとの煙のイメージが強いと思います。でも実際には、光が消えたあとも空気のなかでは化学反応が続いていて、目に見えない成分がじわじわとかすみをつくっていく。今回の研究は、その「見えない続き」の一部を具体的につかまえた、と言えます。
関連して、同じくACSが紹介したイギリスの研究では、数日間続く大規模なスポーツ大会で空気中の粒子を測っています。開会式・閉会式のたびに細かい粒子が二段階で跳ね上がり、そのうち一段は花火由来でした。すべての行事に参加した人は、世界保健機関(WHO)が示す大気汚染物質のめやすを超える量を吸っていた可能性がある、と見積もられています。祝祭のような一時的なイベントも、細かい粒子を吸い込む経路になりうる、という指摘です。

受け取り方の注意点
念のため補っておくと、これは「花火をやめるべき」という話ではありません。花火による汚染は、あがっている間とその直後に集中する、短時間のスパイク(急な山)です。年に数回の花火が、日常の空気を長く汚し続けるわけではありません。今回のアミンの研究も、花火という発生源をはじめて具体的にとらえた初期段階のもので、健康への影響を直接はかった研究ではない点は押さえておきたいところです。
それでも、「煙がはけたら終わり」ではなく、目に見えないところで空気の中身が変わっている、という視点は覚えておいて損はありません。花火の多い季節に、風向きや換気を少し気にかけるくらいの、等身大の心づもりで十分だと思います。
出典
アメリカ化学会(ACS)のまとめ:3 discoveries spark awareness of fireworks’ environmental impact
アミンの研究(査読済み・Environmental Science & Technology Letters):Firework Display Is a Newly Identified Source of Gaseous and Particulate Amines
粒子状物質の研究(ACS ES&T Air):ACS ES&T Air(イギリスのスポーツ大会での測定)


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