重力波の検出が累計390件に——ブラックホールの「隠れた集団」が見えてきた

宇宙・天文
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ブラックホール同士がぶつかると、その衝撃で時空そのものがわずかに揺れる。この「時空のさざ波」=重力波が、また一度に161件も見つかった。これまでの検出と合わせると、人類が捉えた重力波は累計390件になる。

数を大きく増やしただけではない。過去最高にくっきりした信号や、これまでで最も正確に位置を絞り込めた衝突、そして「別のブラックホール同士の合体からできたらしいブラックホール」の手がかりまで含まれている。ひとつ捉えるだけでも大ニュースだった重力波が、いまや週に何件も見つかる時代に入った、という話だ。

重力波検出の基礎

重力波が初めて直接とらえられたのは2015年のこと。アインシュタインが100年前に存在を予言していた、時空の「揺れ」だ。この揺れを拾うのが、アメリカのLIGO(ライゴ)、イタリアのVirgo(バーゴ)、日本のKAGRA(かぐら)という3つの巨大な観測装置で、まとめてLVKと呼ばれる国際チームが運用している。

装置は数kmにわたるトンネルにレーザーを走らせ、重力波が通り過ぎた瞬間の、ごくわずかな長さの変化を読み取る。その変化は陽子1個の大きさよりずっと小さい。こうして捉えた一件一件を、いつ・どこで・どんな天体が・どれくらいの規模で衝突したかまで整理してまとめたものが「重力波カタログ」だ。今回公開されたのは、その最新版にあたる「GWTC-5.0」になる。

カタログをほぼ倍増させた161件

今回加わった161件は、2024年4月から2025年1月にかけての観測(O4bと呼ばれる期間)で捉えられたもの。これだけで、これまでのカタログがほぼ倍の規模にふくらんだ。累計390件のうち、じつに約75%が、2015年以降で最も新しい4回目の観測期間(O4)に集中している。

理由はシンプルで、装置の感度が観測のたびに上がっているからだ。休止期間に改良を重ね、次の観測ではより遠く・より小さな揺れまで拾えるようになる。その結果、装置が動いているあいだは毎週3〜4件のペースで新しい衝突が見つかる。ひとつずつ吟味していた時代から、たくさんの検出をまとめて統計的に扱う「数の天文学」へと、はっきり移り変わってきた。

「隠れた集団」=二世代ブラックホール

数がそろってくると、一件ずつでは見えなかった「集団としての顔」が見えてくる。今回の目玉のひとつが、二世代ブラックホールと呼ばれる天体の手がかりだ。

ふつうのブラックホールは、大きな星が一生の最後につぶれてできる。ところが2024年10月と11月に、わずか1か月違いで見つかった二つの合体(GW241011とGW241110)は、少し様子が違った。ブラックホールの「スピン」=自転の速さや向きに、以前どこかで一度合体したことをうかがわせる特徴があったのだ。

つまり、これらは星から直接できたのではなく、すでにブラックホール同士がぶつかってできた「二代目」の可能性が高い、というわけだ。こうした二代目が生まれるには、ブラックホールが何度もぶつかれるほど混み合った場所——星がびっしり詰まった星団のような環境——が要る。しかも今回、二世代とみられる天体どうしが、共通した性質を持つひとつのグループを作っているらしいことも見えてきた。カタログが大きくなったからこそ浮かび上がった、まさに「隠れていた集団」と言える。

記録を更新した二つの信号

新記録も生まれた。ひとつは、位置特定の正確さ。2024年6月15日に捉えられた合体(GW240615)は、空のどこで起きたかを、わずか6平方度という狭い範囲まで絞り込めた。これは、この観測期間から復帰したVirgoが加わり、3台で「三角測量」できたおかげだ。位置がはっきりすれば、同じ場所からの光やほかの信号を望遠鏡で追いかけやすくなる。

もうひとつは、信号の「くっきり具合」。2025年1月14日の合体(GW250114)は、雑音に対する信号の強さ(SNR)が76.9と、これまでで最も明瞭だった。太陽の32倍と34倍というよく似た重さのブラックホール同士が、10億光年以上かなたでぶつかったもので、そのクリアさから、一般相対性理論のこれまでで最も精密な検証などにも使われている。

宇宙の膨張速度への波及

検出数が増え、位置の特定も正確になったことで、思わぬところにも成果が及んだ。宇宙がどれくらいの速さで広がっているかを表す「ハッブル定数」の見積もりだ。

この値は、測り方によって答えが食い違う「ハッブル・テンション」という難問を抱えている。重力波は、光を使う従来の方法とはまったく別のものさしになるため、独立した答えを出せる。今回のデータでは、これまでの重力波による測定よりも約25%精度が上がったという。宇宙の成り立ちに関わる大きな謎に、また一歩近づいたことになる。

現時点での位置づけと留意点

カタログ本体はすでに一般公開されているが、それを詳しく論じる関連論文は、天文学の学術誌(Astrophysical JournalとAstrophysical Journal Letters)に投稿された段階で、これから査読を受ける。二世代ブラックホールや一般相対論の検証といった個別の成果のなかには、すでに別途発表されているものもある。

また、4回目の観測にはまだ解析中のデータが残っており、その最後の部分は2026年12月に公開される予定だ。検出数は今後さらに増える見込みで、ブラックホールや中性子星がどう生まれ、宇宙がどう育ってきたのかを、より細かく描けるようになっていく。

出典・もっと知りたい人へ

GWTC-5.0: Updated LIGO–Virgo–KAGRA Catalog sets new records in precision gravitational wave astronomy(LIGO Caltech 公式発表)

Astrophysicists strike black gold with trove of gravitational wave detections(University of Glasgow)

390 gravitational wave detections reveal hidden population of black holes(ScienceDaily)

検出された合体天体の質量マップ(インタラクティブ図/Northwestern)

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