1ゼプトジュール未満を実測——暗黒物質探しにもつながる超高感度センサー

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フィンランドの研究チームが、想像しづらいほど小さなエネルギーを測り取ることに成功しました。その大きさは、わずか0.83ゼプトジュール。1ゼプトジュールにも届かない量です。「これまでで最も小さなエネルギーを、計算上の見積もりではなく実際に測ってみせた」という話です。

ゼプトジュールと言われてもピンと来ないと思うので、まずはここから始めます。

ゼプトジュールという単位

ゼプトジュールは、エネルギーの大きさを表すジュールに、ものすごく小さいことを意味する「ゼプト」が付いたものです。1ゼプトジュールは1ジュールの10垓(がい)分の1、数字で書くと0.000000000000000000001ジュール。1兆分の1の、さらに10億分の1という極端な小ささです。

あまりに小さくて感覚がつかめないので、研究チームは身近なたとえを出しています。赤血球を1ナノメートル(1ミリメートルの100万分の1)だけ持ち上げるのに必要なエネルギーが、だいたい1ゼプトジュールくらい。今回測れたのは、それよりさらに小さい量です。

こんなに小さなエネルギーをなぜ測りたいのか。光は「光子(こうし)」という粒のかたまりとして飛んでいて、その1粒が運ぶエネルギーはとても小さい。量子の世界をあつかう技術では、こうした微小なエネルギーをきちんと数えられるかどうかが、性能の差に直結します。測る精度が上がるほど、できることが増えていく、というわけです。

今回の測定結果

研究を率いたのは、Aalto(アールト)大学のMikko Möttönen(ミッコ・メットネン)教授のチームです。量子コンピュータ企業のIQM、フィンランド技術研究センター(VTT)と組んで、専門誌『Nature Electronics』に成果を発表しました。

これまでも、超伝導体を使ったセンサーなら1ゼプトジュールを切る精度が出せるはず、という予測自体はありました。ただ、その数字はノイズや応答の特性から計算で導いたもので、いわば「理論上いけるはず」という見積もりにとどまっていました。今回の成果は、その極小のエネルギーを実際にセンサーで受け止め、0.83ゼプトジュールという値として読み出してみせたところにあります。つまり、机上の予測が初めて実測に追いついた、という一歩です。

センサーの仕組み

使ったのはカロリメーター。熱の出入りで、ごくわずかなエネルギーの変化をとらえるセンサーです。ものに当たったエネルギーが熱に変わると、温度がほんの少し上がる。その温度変化を読み取ることで、もとのエネルギーの大きさを逆算します。

センサーは2種類の金属を組み合わせて作られています。電気抵抗がゼロになる超伝導体と、ふつうに抵抗のある金属です。この組み合わせだと、超伝導の状態がとても壊れやすくなる。極低温に保った金属の温度がほんの少し上がるだけで、超伝導がすっと弱まります。その「壊れやすさ」こそが、わずかなエネルギーを感じ取る敏感さの正体です。研究チームは、ここに微弱なマイクロ波のパルスを撃ち込み、余計なノイズをていねいに取り除いたうえで信号を読み出しました。

このカロリメーターは、量子コンピュータの心臓部である量子ビットと同じく、絶対零度に近いミリケルビンというごく低い温度で動きます。測るために装置をわざわざ温めたり、信号を大きく増幅したりしなくて済むので、量子ビット側への余計な邪魔が少ない。この相性のよさが、後で出てくる応用につながります。

想定される応用

まず近いところでは、量子コンピュータの量子ビットの状態を読み取る部品として使える見込みです。同じ低温で静かに動けるという性質が、ここで効いてきます。

その先には、光子を1個ずつ数える、という目標があります。光の最小単位を取りこぼさず数えられるようになれば、量子の技術全般にとって心強い道具になります。

さらに遠い応用として名前が挙がっているのが、暗黒物質の探索です。宇宙にあるはずなのに直接見えていない暗黒物質の候補として、「アクシオン」という非常に軽い粒子が考えられています。その手がかりはごく小さなエネルギーとして現れると予想されていて、それを拾うには今回のような超高感度のセンサーが要る、という文脈です。

留意点

これは実験室での成果で、絶対零度に近い特別な環境で達成されたものです。すぐに身のまわりの機器に入るという話ではありません。また、暗黒物質の検出に役立つ「可能性がある」という段階で、実際にアクシオンを捉えたわけではない点も、混同しないようにしたいところです。とはいえ、計算上の限界とされてきた水準を実測でまたいだことは、今後の量子技術や精密測定の土台になりそうな結果です。

出典

研究内容のより詳しい解説は、以下で読めます。元論文は本文が有料のことがあるため、無料で読めるプレスリリースもあわせて挙げておきます。

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