クアルコム、データセンターを「次の成長市場」に——スマホチップの巨人が宗旨替え

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スマートフォン向けのチップで知られるクアルコムが、これからの成長の柱をデータセンターに置く、とはっきり打ち出した。2026年6月24日に開いた投資家向け説明会(インベスターデー)で、AIの普及で膨らみ続けるデータセンター市場を「次の成長市場」と位置づけ、そのための包括的な戦略を公開している。スマホの会社が、電力をどんどん食うAIインフラの世界へ本格的に足を踏み入れようとしている。

「次の成長市場」としてのデータセンター

クアルコムのデータセンター部門を率いるトニー・ピアリス氏(EVP兼ゼネラルマネージャー)は、説明会で、後発ではあっても十分に勝負できると語った。狙いははっきりしていて、ライバルのプラットフォームより総保有コスト(TCO=チップを買ってから使い続けるまでにかかる費用の合計)を抑え、消費電力あたりの性能でも上回る、という線だ。スマホ向けで長年磨いてきた省電力の技術を、そのままデータセンターの土俵に持ち込めるという読みである。

背景には、スマホへの依存を薄めたいという事情がある。クアルコムの売上は今もスマホ向けが大きな比重を占めていて、市場が成熟するなかで新しい稼ぎ口を探してきた。そこへ、AIの広がりでデータセンターの投資が世界的に膨らんでいる。やや乱暴に言えば「お金がそこに集まっているのだから、自分たちの得意技で取りに行く」という話で、クアルコムのアモンCEOも、これまで地道に技術や資産を積み上げてきた結果、いまようやくデータセンターの次の段階に入れる態勢が整った、という言い方をしている。

一度は手を引いた市場への再挑戦

じつはクアルコムがデータセンター向けのチップに挑むのは、これが初めてではない。2017年に「Centriq(セントリック)2400」というサーバー向けのチップを投入し、インテルが握る市場に切り込もうとした。このときもうたい文句は「省電力と低コスト」で、マイクロソフトなどが関心を示していた。ところが翌2018年には事業を大幅に縮小し、開発チームを解体。挑戦はあっけなく終わっている。

当時うまくいかなかった理由のひとつは、サーバーの世界が乗り換えに慎重で、性能や価格で多少よくても動かしにくかったこと。そしてもうひとつ、ちょうどAMDが新しいサーバー向けチップで攻勢を強めていて、割って入る隙が小さかったことだ。今回の再挑戦は、その苦い経験を踏まえたうえで、AIという新しい追い風に乗り直す形になる。とくに、学習済みのAIを実際に動かして答えを出させる処理(推論)の需要が急速に伸びていることが、後発でも入り込める余地を作っている、という見立てだ。

投資家向け説明会で示した数字

今回いちばん目を引いたのは、売上目標の引き上げだった。クアルコムは、スマホ以外(非ハンドセット)の売上を2029会計年度に400億ドルへ伸ばす目標を掲げた。これは、これまで示していた同じ年度の目標のおよそ2倍にあたる。そのうちデータセンターだけで150億ドル超を見込み、自動車向けでも100億ドルを狙う。逆にスマホ(ハンドセット)は、2029会計年度には半導体部門の売上の約3分の1まで比率が下がる、という絵を描いている。会社全体としては、データセンターや自動車、ロボティクスなど対象となる複数の市場を合わせて、2030年までに約1.7兆ドル規模の市場が見込めるとした。

この強気の見通しを受けて、発表当日のクアルコム株は約15%上昇した。市場がこの方向転換を、ひとまず前向きに受け止めたことになる。ただし、これらはあくまで数年先に向けた「目標」であって、達成済みの実績ではない点は読み違えないようにしたい。

武器は「ワットあたりの性能」

クアルコムが繰り返し強調するのが、消費電力あたりの性能だ。AIデータセンターはとにかく電気を食い、各地で電力不足が課題になりつつある。だからこそ、同じ仕事をより少ない電力でこなせるチップに価値が出る。クアルコムは、この戦いを「1ワットあたり・1ドルあたりで、どれだけ多くの処理をさばけるか」という土俵に持ち込もうとしている。モバイルで鍛えた低消費電力の設計思想が、そのまま強みになるという主張だ。

具体的な製品も並べた。サーバー向けCPUの「Dragonfly(ドラゴンフライ)C1000」、推論に特化したアクセラレーター「Dragonfly AI300」、それに大量のデータを高速にやりとりするための技術などで、推論用のアクセラレーターはAI200・AI250に続く形でラインナップをそろえていく。顧客の顔ぶれも見え始めていて、メタとはデータセンター向けCPUで複数世代にわたる協業を結び、その第1弾となるDragonfly C1000は2028年後半に生産が始まる予定だという。AIモデルの共有で知られるHugging Faceも、自社の処理をクアルコムのデータセンター向け基盤に載せる。クアルコムの財務責任者は、スマホ向けチップを通じてほぼすべての大手クラウド事業者とすでに取引があり、「いきなり新しい関係を作るわけではない」とも語っている。

エヌビディア一強への挑戦

いまAIチップの市場は、エヌビディアがほぼ独走している。CPUの分野ではインテルとAMDが強く、さらにマイクロソフトやアマゾン、グーグル、メタといった大手は、自分たちのデータセンター用に独自のチップまで作り始めている。そこへクアルコムが加わることで、エヌビディア一強の構図に、別の畑から挑む顔ぶれがまた一つ増える形になる。

つまり今回の動きは、クアルコム1社の事情にとどまらない。AIインフラの土台を誰が握るのかという競争が、GPUを作る会社だけの話ではなくなり、スマホやモバイル通信で力をつけてきた企業まで巻き込んで広がっている、という流れの一例として読める。電力がボトルネックになりつつある時代に、「省電力」という別の物差しで勝負する挑戦者が出てくるのは、市場にとっては選択肢が増えるという意味でも注目に値する。

見ておきたい留意点

勢いのある発表ではあるが、いくつか冷静に見ておきたい点がある。まず、示された売上目標も製品計画も、これから実現していく「ロードマップ」であって、現時点の成果ではない。主力となるCPUの量産も2028年後半からで、本番はまだ先だ。クアルコムは過去に同じ市場でつまずいた経緯もあり、今度こそ続けられるかは、これからの実行力にかかっている。性能についても、現状はクアルコム自身の説明が中心で、第三者による独立した検証はこれからという段階だ。期待を込めて追いかけつつ、数字や宣言はそのまま鵜呑みにしない、くらいの距離感がちょうどよさそうだ。

出典

Qualcomm Accelerates Diversification with Comprehensive Strategy for Data Center(クアルコム公式プレスリリース)
Qualcomm claims it’s not too late for Dragonfly to land in datacenters(The Register)
Qualcomm stock pops after chipmaker almost doubles 2029 non-handset revenue projection(CNBC)

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