帆だけで大西洋を渡る貨物船——フランスの風力スタートアップが挑む海運の脱炭素

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大西洋を、帆だけで渡る貨物船が動き出そうとしています。フランスの新興企業ヴェラ・トランスポート(Vela Transport)が、風の力で進む専用の帆船にパレット積みの荷物を載せ、ヨーロッパと米国のあいだを運ぶ計画です。エンジンを主役から下ろし、帆走という古い技術を現代の物流に組み込む試みで、排出を大幅に減らせると見込んでいます。

海運の脱炭素という難題

世界の貨物の約9割は船で運ばれています。年間でおよそ120億トンという量で、その輸送から出る二酸化炭素は世界全体の2〜3%ほどを占めます。割合だけ見ると小さく感じるかもしれませんが、これは一国まるごとに匹敵する規模で、減らすのは簡単ではありません。大型のコンテナ船は重油を燃やして進むため、ここをどう変えるかが長年の課題になってきました。

これまでにも、燃料を水素やメタノールに替える、排ガスから二酸化炭素を回収する、交換式のコンテナにバッテリーを積む、といったさまざまな方法が試されてきました。ヴェラが選んだのは、もっと原始的で、しかし理にかなった答えです。風で進む、という昔ながらのやり方に戻ることでした。

ヴェラ・トランスポートの帆走貨物船

ヴェラを共同で立ち上げたのは、単独無寄港の世界一周で記録を出したヨットレースの名手フランソワ・ガバール氏です。レースの世界で培われた技術が、そのまま貨物船に持ち込まれています。

船はトリマランと呼ばれる形をしています。船体が3つ並んだ三胴船のことで、横幅が広く安定するため、大きな帆を張っても倒れにくいのが特徴です。アルミ製で全長は約67メートル(220フィート)、幅は約25メートル。ここに約415トン、ヨーロッパ規格のパレットにして600枚ぶんの荷物を積めます。これは大型コンテナ船のおよそ5分の1で、貨物機と比べれば5倍ほどの量にあたります。巨大なコンテナ船の代わりというより、空輸の荷物の一部を引き受ける規模だと考えると分かりやすいです。

物流大手のDHLがこの船での輸送契約を結んでおり、2027年からフランスと米国を結ぶ航路で運用が始まる予定です。荷物の予約や通関、倉庫といった陸側の手続きはDHLが担い、海の上をヴェラの帆船が運ぶという分担になります。最初の1隻はこの秋にフィリピンの造船所で完成し、フランスへ回航したのち、2027年に初の大西洋横断に出る計画です。うまくいけば2028年末までに5隻をそろえ、米仏間で年間4万8000トンを運ぶ態勢を目指すとしています。

風だけで大西洋を渡るしくみ

この船は基本的に帆だけで進みます。ディーゼルエンジンを使うのは港での出入りなど、こまかい操船のときに限られます。決まった直線ルートをなぞるのではなく、その時々の天気と風を読んで航路を選ぶ「ウェザールーティング」という手法で、追い風をつかまえながら進みます。レース由来の発想です。

速度は14ノット、時速にしておよそ26キロメートル。ヴェラによれば、フランスのバイヨンヌからニューヨークまでを13日ほどで結べる見込みで、これは同じ区間を走るコンテナ船より4日ほど長い計算です。エンジンを回さないぶん、水中に出す騒音もほとんどなくなります。大型船のエンジン音は海の生き物のコミュニケーションを妨げるとされており、静かに進めること自体にも利点があるという指摘もあります。

「最大99%削減」の正しい読み方

ここは少していねいに見ておきたいところです。ヴェラは排出を「最大99%」減らせるとうたっていますが、この数字は主に空輸(航空貨物)と比べたときのものです。飛行機で運ぶ荷物を帆船に切り替えれば、それくらい大きく減らせるという話になります。

一方、従来のコンテナ船と比べた場合は約90%の削減で、気候コンサルティング会社カーボン4(Carbone 4)が行ったライフサイクル評価では、ルートによって最大96%とされています。つまり「99%」と「90%」は比べる相手が違うわけで、同じものを99%減らせるという意味ではありません。この算定はヴェラとカーボン4によるもので、船はまだ就航前のため、あくまで見込みの数値である点もおさえておきたいところです。

とはいえ、比較の相手を正しく置いても、削減の幅が大きいこと自体は変わりません。とくに、これまで飛行機で運ばれてきた急ぎの高付加価値品を海に移せれば、効き目は大きいということです。

向いている荷物と、その限界

ヴェラが運ぼうとしているのは、ワインや医薬品、繊維製品、家具、化粧品といった品目です。温度管理が要る医薬品などのために、医薬基準に対応した冷蔵設備も備えるとしています。ある種の荷物では、空輸の5分の1ほどのコストで運べるといいます。

ただし、向き不向きははっきりしています。風まかせである以上、スケジュールの正確さは天候に左右されます。大量の荷物を、長い距離を、短い納期で運ぶような用途には合いません。事実、競合の帆走貨物船が初の大西洋横断で帆柱の一部を傷め、途中からエンジン併用に切り替えたという例もあります。環境団体の専門家も、純粋な帆走貨物はあくまで「ニッチ(すき間)な解決策」だと見ています。そのうえで、海運の排出を減らす真剣な試みはどれも意味がある、とも付け加えています。

つまり、帆船が巨大なコンテナ船を置き換えるわけではありません。コンテナ船が運ぶ荷物の一部を引き取り、全体の排出を少しずつ削っていく。そういう位置づけの船だと考えるのが実情に近いです。

帆走への回帰という潮流

風を使う船を試みているのはヴェラだけではありません。フランスのグラン・ド・セイルは、ブルターニュとニューヨークを結ぶ帆走貨物の輸送を手がけていますし、既存の貨物船に硬い「翼」のような帆を後付けして燃料を節約する取り組みも各地で進んでいます。大きな船まるごとを帆船にするヴェラの構想は、その中でも思い切った部類に入ります。

海運をきれいにする決定打はまだ見つかっていません。水素もメタノールもバッテリーも、それぞれに課題があります。そんな中で、何百年も前から人類が使ってきた風という動力をもう一度引っぱり出してきたところに、この試みの面白さがあります。古い技術が、最新の設計と気候への要請を得て、形を変えて戻ってきた。航海の結果が出るのは2027年以降ですが、帆をふくらませた貨物船が大西洋を渡る光景は、見てみたいと思わせるものがあります。

出典

Giant trimaran surges toward goal of slashing 99% of emissions(New Atlas)

Vela Transport 公式サイト

This wind-powered cargo ship wants to cut emissions by up to 96%(CNN)

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