「火力発電の電気で充電するなら、EV(電気自動車)はガソリン車より環境に悪い」——長く言われてきた話です。ところが最新の研究は、そうではないと改めて示しました。アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)のチームが、車を作る段階から走らせる段階まで通して排出量を計算したところ、全米のどの地域で充電しても、同じくらいの大きさのガソリン車を下回る、という結果になりました。

根強い誤解の正体
EVは走っているあいだは排気ガスを出しません。でも、その電気はどこかの発電所で作られています。石炭や天然ガスなど化石燃料に頼った電力で充電すれば、結局は発電所のほうでCO2(二酸化炭素)を出していることになる——つまり「排出する場所をマフラーの先から発電所に移しただけ」だ、という考え方です。
これに、バッテリーの話が重なります。電池を作るには鉱物の採掘や加工で大きなエネルギーが要るため、工場から出てきた時点でのCO2は、同じクラスのガソリン車より5〜8割ほど多い、という試算があります。「作るときに余計に出して、汚い電気で走るなら、トータルでは変わらないか、むしろ悪いのでは」。この見立てには、それらしい根拠があるように見えます。
ひとつひとつの事実は、たしかに間違っていません。問題は、そこから引き出される結論のほうでした。
全米規模での比較結果
今回の研究は、MITのMarco MiottiさんとJessika Trancik教授が学術誌『Environmental Research Letters』に発表したものです。アメリカ全土を郵便番号(ZIPコード)の単位に分け、その地域の電力が何で作られているかまで反映して、ガソリン車・ハイブリッド車・プラグインハイブリッド車(PHEV)・EVの排出量を比べました。
結果はこうです。アメリカの多くの地域で、EVのライフサイクル排出量(=製造から走行までを通した合計)は、同クラスのガソリン車より4〜6割ほど低くなりました。そして、もっとも化石燃料に頼った電力の地域でさえ、EVがガソリン車を上回ってしまう郵便番号区は一つもなかった、と報告されています。
つまり「電気が汚い地域ではEVに乗っても意味がない」という前提そのものが、アメリカのどこを探しても成り立たなかった、ということです。
算定の手法
この計算の土台にあるのが、ライフサイクル評価(LCA=作る・使う・燃料や電気を用意する、までを通して足し合わせるやり方)です。走行中の排出だけでなく、車体や電池の製造、ガソリンの精製や電気の発電まで含めて見積もります。「採掘や製造を無視している」という批判が時々ありますが、その部分はもともと計算に入っています。研究チームは地域ごとの電源構成のデータ(OpenGridやeGRID)を組み合わせ、車種ごとの比較を地図として描けるようにしました。個別の車を見比べられる無料ツール「carboncounter.com」にも、今回の結果が反映されています。
なぜ化石燃料の電気でもEVが勝てるのか。大きいのは効率の差です。発電所は、車のエンジンよりも燃料の熱を電気に変える効率が高く、規模が大きいぶん無駄が少なくて済みます。そのため、仮に電気を100%石炭で作っていても、1km走るあたりのCO2は同等のガソリン車より少なくなる、と整理されています。製造でついた「CO2の借金」も、別の試算ではおおむね2〜3年・走行2〜3万kmほどで取り返せるとされ、その後は走るほど差が開いていきます。
排出削減が大きくなる条件
削減の大きさは、どこで・どう乗るかでかなり変わります。研究によれば、EVが効くのは、電力がクリーンな地域・交通量が多い場所・年間の走行距離が長い人・温暖な気候、といった条件がそろうところで、これらはどれも同じくらい効いてくるといいます。個人で見れば、よく走る人、大きめの車に乗る人、渋滞にはまりやすい人ほど、ガソリン車から乗り換えたときの削減幅が大きくなります。
意外なのは寒冷地の扱いです。ノースダコタのような寒い地域では、極寒の夜にEVの電費(電気あたりの走行距離)が最大で半分ほどまで落ちることもあります。それでも、年間を通した排出削減への影響はわずかだったとのこと。「寒いところではEVは使えない」というのも、言いすぎだったわけです。
購入を考えるときの目安
長い距離を走る人や、ストップ&ゴーの多い街乗りが中心の人ほど、EVの利点は出やすくなります。PHEVについては、街中ではEVの8〜9割、郊外でも6割ほどの削減になりうる、という結果でした。ただしこれは「こまめに充電すれば」の話で、充電を怠ると利点はしぼんでいきます。
もうひとつ押さえておきたいのは、時間の向きです。電力網は再生可能エネルギーが増えるほどクリーンになっていくので、いま走っているEVも年々自動的に低排出になっていきます。逆にエンジン車は、排ガス浄化の装置などが年月とともに劣化し、むしろ悪くなりがちです。同じ車を長く使うほど、この差は効いてきます。
解釈上の留意点
いくつか前提があります。まず、これはアメリカを対象にした研究です。電源構成(電気を何で作っているか)は国や地域でかなり違うので、数字をそのまま別の国に当てはめることはできません。
次に、EVは「排出ゼロ」ではありません。製造にも、電気を作る過程にもCO2はかかります。研究者自身も「これで問題解決、ゼロ達成」とは言っていません。あくまで「同等のガソリン車と比べれば、通算では少なく済む」という話です。
比較の仕方にも注意が要ります。今回の結論は、だいたい同じ大きさ・クラスの車どうしを比べた場合のものです。とても大きなEVのSUVと、小さくて燃費のいいガソリン車を並べれば、差は縮みますし、組み合わせによっては逆転することもあります。「EVだから無条件に低い」のではなく、「同じような車どうしならEVが低い」と読むのが正確です。
出典・もっと知りたい人へ
元になった論文はオープンアクセスで、誰でも全文を読めます。
- 論文:Miotti, M. & Trancik, J. E. “Determinants of electric vehicle emissions savings and costs across locations and individuals.” Environmental Research Letters 21, 094021 (2026). https://doi.org/10.1088/1748-9326/ae0c23
- MITニュースの解説:For most US drivers, EVs offer emissions benefits and cost savings
- 車種ごとに比較できる無料ツール(MIT Trancik Lab):carboncounter.com
- きっかけになった記事:EVs Always Beat Combustion Emissions Performance(Hackaday)


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