AI作曲をめぐる一年 ―― 訴訟から提携、そして7月の審理へ

AI・テクノロジー
スポンサーリンク

2024年の夏、世界最大級のレコード会社3社が、AIで曲を作るスタートアップ2社を著作権侵害でいっせいに訴えました。それから約1年。訴えた側の3社のうち2社は、訴えた相手と手を組み、いっしょに音楽サービスを立ち上げる側にまわっています。

敵として法廷で向き合っていた相手と、なぜ組むことになったのか。そしてまだ決着していない部分がどこに残っているのか。この一年の動きを順番に追っていきます。

発端は2024年の一斉提訴

話の中心にいるのは、Suno(スノ)Udio(ユーディオ)という2つのAI作曲サービスです。どちらも「切ない雰囲気のシティポップ」といった文章の指示を入れるだけで、歌もふくめた一曲まるごとを自動で生成してくれる——というもので、2024年にかけて利用者を一気に増やしました。

問題になったのは、そのAIの「学習のさせ方」でした。文章から曲を作れるようにするには、大量の既存の楽曲をAIに読み込ませて練習させます。レコード会社側は「その練習に、自分たちが権利を持つ楽曲を許可なく使った」と主張しました。2024年6月、全米レコード協会(RIAA)がユニバーサル・ソニー・ワーナーの大手3社を代理して、SunoとUdioを著作権侵害で提訴します。曲数しだいでは賠償額が莫大になりうる、業界の注目を集めた裁判でした。

最初の転換 ―― ユニバーサルとUdioの和解

流れが変わったのは2025年10月29日。大手3社の一角ユニバーサル・ミュージックが、Udioとの裁判を和解で終えると発表しました。しかも、ただ訴えを取り下げるだけではありません。両社はUdioの楽曲をライセンス(正式に使用許可)する契約を結び、いっしょに新しい音楽プラットフォームを2026年に立ち上げる、という提携まで発表したのです。

新サービスは、許可の取れた楽曲だけで学習させたAIを使う「クリーンな」つくりになる予定で、参加するかどうかはアーティスト側が自分で選べる仕組み(オプトイン)とされました。参加した場合は、学習に使われたことと、生成された曲の両方に対して報酬が支払われる、という説明です。いっぽうで利用者にとっては制約も生まれ、Udioは移行にあわせて、作った曲を外部にダウンロードする機能をいったん止めています。生成した曲はサービスの「壁の中」で楽しむ形に変わりました。金銭面の具体的な条件は公表されていません。

ワーナーの二連続和解

ユニバーサルが先陣を切ると、続いたのがワーナー・ミュージックでした。11月に入るとまずUdioと和解し、その約1週間後の11月25日には、もう一方のSunoとも和解します。こちらもライセンス提携がセットで、Sunoは今後より高度な「許可済みモデル」を出すこと、ダウンロードを有料会員向けに絞ることなどを打ち出しました。

ワーナーとSunoの合意には、ちょっと変わった一項も含まれていました。ワーナーが持っていたライブ情報サービス「Songkick」を、Sunoが買い取ったのです。さらに、アーティストの名前・姿・声などをAIに使わせるかどうかは本人がコントロールできる、という条件も添えられました。訴える相手だった会社が、今度は資産を買い、いっしょに商売をする——一年前には想像しにくかった距離感です。

和解が残した宿題

ここまでで、大手3社のうち2社が矛を収めたことになります。ただ、この一連の和解は「めでたし」で終わる話でもありません。

まず、金銭的な条件はどの和解でも明かされていないため、実際にいくら動いたのかは外からは分かりません。そして、守られる対象になったのは基本的に「和解した大手レーベルに所属するアーティスト」に限られます。裏を返せば、訴える体力のなかった独立系(インディー)のアーティストの曲も学習データには含まれているのに、そちらには補償の枠組みが用意されていない、という指摘が出ています。報酬の分配をめぐっては、和解した当のレーベル側を音楽家の団体が逆に訴える動きも起きていて、和解が新しい火種を生んでいる面もあります。

和解を選ばなかったソニー

そして、大手3社の最後の一角ソニー・ミュージックだけが、SunoともUdioとも和解せず、いまも法廷に残っています。Sunoに対してはマサチューセッツ州の連邦裁判所で、Udioに対してはニューヨーク南部の連邦裁判所で、それぞれ裁判が続いています。

なぜソニーは組まないのか。見立てとして語られているのは、「二社と個別に和解して自社だけがライセンス収入を得るより、裁判所に判断を出してもらうほうが価値が大きい」という読みです。もし「許可のない楽曲でAIを学習させるのは著作権侵害だ」と裁判所が認めれば、その効果は目の前の二社にとどまりません。AIで音楽を作る会社は軒並み、学習の前にライセンスを取らざるをえなくなる——業界全体のルールを一手で変えられる、という計算です。

対決姿勢はむしろ強まっています。レーベル側は訴えの範囲を広げ、無断で学習に使われた曲がさらに6万1千曲を超えると主張しはじめました。認められれば、賠償額は曲数に応じて膨らみます。いっぽうのSunoは、係争のさなかに4億ドル(約600億円規模)を新たに調達し、評価額は54億ドルまで跳ね上がりました。裁判で「これは侵害だ」と押すレーベルと、「Sunoは勝つ」に賭けて資金を注ぐ投資家。同じ一社をはさんで、正反対の読みが並走している状態です。

7月の審理という分かれ道

その緊張が集まる場が、2026年7月に予定されている審理です。マサチューセッツのSunoの裁判では、本格的な裁判(トライアル)に進む前に、争点を法律論だけで決められないかを判断する「略式判決」の審理が組まれています。

核心にあるのは、フェアユースという考え方です。これは、一定の条件を満たせば、許可がなくても著作物を使ってよいとするアメリカの法的な例外のこと。Suno側は「AIは楽曲そのものをコピーして貯めているのではなく、メロディーやリズムの傾向を学んで新しい曲を生み出しているだけだから、フェアユースにあたる」と主張します。対するレーベル側は「産業規模で大量にコピーしており、生成された曲は元の曲と同じ市場で競合する。例外の範囲を超えている」と反論しています。

この判断が重いのは、音楽だけの話にとどまらないからです。「許可のない著作物でAIを学習させてよいか」という問いは、文章・画像・プログラムのコード・動画をあつかう他のAIにもそのまま当てはまります。音楽が最初の試金石になっているのは、曲という単位が数えやすく、権利者がはっきりしていて、訴える体力のある会社が持っているから、という事情もありそうです。

訴える側から組む側へ——大手2社はこの一年でそう動きました。けれど、和解を選ばなかったソニーが残り、7月の審理を前にした天秤はまだどちらにも傾いていません。裁判所がどちらの言い分を採るかで、AIと音楽の関係も、その先のAIと著作物ぜんたいの関係も、大きく描き直されることになります。答えが出るのは、これからです。

出典・参考

ユニバーサルとUdioの和解と新プラットフォーム構想については Music Business WorldwideBillboard、ワーナーとSunoの和解は TechCrunch、ソニーの係争と7月の審理については TechTimes を参照しました(いずれも英語)。

コメント

タイトルとURLをコピーしました