JWSTが見つけた『小さな赤い点』の正体は、生まれたての超巨大ブラックホールだった

宇宙・天文
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宇宙望遠鏡が撮った写真の中に、正体のわからない「小さな赤い点」がたくさん写っていました。十数億光年どころか、宇宙が生まれて数億年しか経っていないころの姿です。これがいったい何なのか、研究者たちはずっと頭を抱えてきました。その答えが出ました。どうやら、生まれたての超巨大ブラックホールが、濃いガスの“繭(まゆ)”にくるまれた姿だったようです。

そもそも「小さな赤い点」って?

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)という、地球から約150万キロ離れた場所で2021年末から動いている強力な望遠鏡があります。遠くを見るほど昔の宇宙を見ていることになるので、JWSTは宇宙のごく初期の姿を写し取れます。

その画像の中に、星でも普通の銀河でもなさそうな、ぽつぽつとした赤い点が見つかりました。英語でそのまま「little red dots(小さな赤い点)」と呼ばれています。やっかいなのは、宇宙が数億歳くらいのころに見えるのに、その10億年ほど後になると消えてしまうように見えること。期間限定で現れる謎の天体、というわけです。

正体については、いくつかの説が争っていました。とてつもなく重い初期の銀河だという見方、中心に超巨大ブラックホールがあるという見方、あるいは爆発的に星が生まれている場所だという見方。決め手がなく、長らく宙ぶらりんでした。

何がわかった?

コペンハーゲン大学などの研究チームが、JWSTで撮った特に質の高いスペクトル(光を波長ごとに分解したデータ)を2年がかりで丁寧に調べました。すると、これまでの読み方が間違っていた可能性が見えてきます。

カギは「線の広がり方」です。天体の光をスペクトルに分けると、特定の波長に明るい線(輝線)が現れます。この線が幅広くにじんでいると、これまでは「ガスがすごい速さでぐるぐる回っているからだ=中心にとても重いブラックホールがある」と解釈されてきました。線の広がり=速度=質量、という読み方です。

ところが今回の分析では、線が広く見えるのは速度のせいではなく、濃い電子の霧の中で光が散らばってにじんでいるだけ(電子散乱と呼ばれます)だと示されました。くもりガラス越しに見ると光がぼんやり広がって見えるのと、イメージは近いです。そのにじみを取り除いてみると、本来の線はずっと細い。つまり、思っていたほど中身は重くなかった、ということになります。

計算し直したブラックホールの重さは、太陽の10万〜1000万倍ほど。これまでの見積もりより、ざっと100倍も軽い値です。参考までに、私たちの天の川銀河の中心にあるブラックホールは太陽の約400万倍なので、だいたい同じくらいの“スケール感”に収まります。研究チームは、これらが宇宙の初期に見つかっている中でもっとも軽いブラックホールで、まだ若い超巨大ブラックホールの仲間だと考えています。

つまり、長らく正体のわからなかった「小さな赤い点」は、濃いガスの繭に包まれた“若い”超巨大ブラックホールで、しかもこれまで思われていたより100倍ほど軽かった——。それが、2年がかりの分析でたどり着いた答えでした。

どうやってそう言える?

濃い電子の繭があると考えると、つじつまが合う点がいくつもあります。データからは、電子がぎっしり詰まっていて、しかも光が出ている領域がとても小さい(光が数日で横切れるくらい)ことが求められました。これだけ小さくて明るいものを説明できるのは、ブラックホールが周りの物質を勢いよく飲み込んでいる場合くらいしかありません。

しかもその飲み込む速さは、理論上の上限(エディントン限界=物質を取り込める速さのほぼ最大値)の近くまで来ています。さらに、超巨大ブラックホールのわりにX線や電波がとても弱いという、これまで不思議だった性質も、分厚いガスの繭に覆われていると考えれば自然に説明がつきます。要するに、「濃いガスにくるまれた、猛烈に成長中の若いブラックホール」という一枚の絵で、ばらばらだった手がかりがつながった、という話です。

だから何がうれしいの?

宇宙には昔から大きな謎があります。ビッグバンからわずか7億年ほどしか経っていない時代に、すでに太陽の10億倍もある超巨大ブラックホールが存在していたこと。短すぎる時間で、どうやってそこまで育ったのか、という問題です。

今回の研究は、その「育っている途中」の段階を初めて捉えたのかもしれない、という点で面白いところです。周りを包む濃いガスの繭が、ブラックホールにとっての“燃料”になって、一気に成長させている——そんな成長スパートのまっただ中を見ているのではないか、と研究者は話しています。巨大ブラックホールがどう生まれ育つのか、その入り口に近づける手がかりになりそうです。

ひとこと注意

とはいえ、これで「小さな赤い点」のすべてがきれいに説明し尽くされたわけではありません。今回はっきり言えるのは、特に質の高いデータがそろった天体についてです。今後さらに観測が増えれば、別の顔を見せる点が出てくる可能性もあります。新しい説が出てくると一気に決着したように感じますが、宇宙の話は積み重ねで少しずつ確からしくなっていくものなので、続報も気長に追っていくのがよさそうです。

出典・もっと知りたい人へ

研究論文(Nature、有料):Little red dots as young supermassive black holes in dense ionized cocoons(Rusakov et al., Nature 649, 574–579, 2026)

コペンハーゲン大学のプレスリリース:Solving the mystery of the universe’s ‘little red dots’

論文のプレプリント(arXiv、無料で全文読めます):arXiv:2503.16595

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