恐竜を絶滅させた隕石が、地下に作った“生命のゆりかご”——想定の4倍、800万年続いていた

宇宙・天文
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恐竜を絶滅させた巨大隕石は、地表をめちゃくちゃにしただけではなかったようです。同じ衝突が地面の下に、生命を育めるかもしれない温かい環境を作り、それが想定の4倍も長く続いていた——そんな研究がまとまりました。隕石といえば「絶滅」のイメージが強いですが、その同じ場所が、別の生命にとっては“ゆりかご”になっていたかもしれない、という話です。

恐竜を滅ぼした衝突のあらまし

いまから約6600万年前、直径10キロほどの小惑星が、現在のメキシコ・ユカタン半島の沖合に落ちました。これがチクシュルーブ衝突です。衝突は巨大な津波と世界規模の火災を引き起こし、舞い上がったちりが何年も太陽の光をさえぎりました。光合成が止まり、食物連鎖が崩れた結果、鳥以外の恐竜をはじめ、地球上の生物種のおよそ4分の3(約75%)が姿を消したとされています。

残ったクレーターは、いまは堆積物と海に覆われて見えませんが、差し渡しで約200キロにもなります。これだけでも十分に破滅的な話ですが、近年の研究者が注目してきたのは「地表」ではなく、その「地下」で何が起きたか、でした。

地下にできた熱水系

衝突のすさまじいエネルギーは、岩を溶かすほどの熱を生みました。砕けた岩のすきまに地下水や海水がしみ込み、その熱で温められて、岩のあいだを巡るようになります。こうしてできるのが「熱水系(ねっすいけい)」——熱い水が岩のすきまを循環する環境です。

熱水系は、生命の起源を考えるうえで有力な舞台のひとつとされています。今回の研究チームも、温かい水・豊富な化学成分・岩のすきまという条件がそろう熱水系は、初期の生命がよりどころにしやすい場所だと指摘しています。研究を率いたグラスゴー大学のアンマリー・ピッカーズギル博士は「地球上で温かい水が流れているところには、たいてい生命がいる」と述べています。実際、地球の火山地帯や深海の熱水噴出孔では、太陽の光に頼らずに生きる微生物が暮らしています。

ただ、温かい水ができても、それがすぐに冷めてしまえば生命が根づく時間はありません。カギになるのは「どれだけ長く続いたか」です。

「少なくとも800万年」という結果

今回の研究の核心はここです。チクシュルーブの地下の熱水系は、少なくとも800万年は活動を続けていた——というのが新しい見積もりです。

これまでの研究では、この熱水系が続いた期間はおよそ200万年程度と考えられていました。2000年代の計算にもとづくもので、当時から「控えめな見積もり」とされてはいたものの、今回の数字はそのさらに約4倍です。研究チームによれば、これは隕石衝突によってできた熱水系として、地球で記録されている中で最も長寿命のものになります。

つまり、衝突の現場は地表が壊滅した後も、地下では800万年という長い時間、生命を支えられる温かい環境を保っていた可能性がある、ということです。

年代測定とシミュレーション

では、どうやって「800万年」とわかったのでしょうか。手がかりになったのは、2016年にクレーターを掘って取り出した岩石です。国際的な掘削プロジェクトが、クレーターの中心寄りに環状に盛り上がった岩石帯(ピークリングと呼ばれます)まで深く掘り進めました。

その岩石の中には、熱い水が流れたことでできた、カリウムを多く含む長石(ちょうせき=ありふれた造岩鉱物)が含まれていました。チームはこれを「アルゴン–アルゴン法」という年代測定で調べます。これは、鉱物の中で時間とともに進む放射性物質の変化を手がかりに、その鉱物がいつできたかを測る方法です。

すると、鉱物ができた年代は、衝突直後の約6600万年前から、約5800万年前まで幅広く分布していました。この約800万年の幅が、熱い水が地下を巡り続けていた期間を示しているわけです。

さらにチームは、コンピューターでのシミュレーションも行いました。どんな地質条件なら、ここまで長持ちする熱水系ができるのかを再現したところ、岩のすきまが多く水を通しやすいこと、衝突が残した余熱、そしてもともとその土地が持つ地熱——これらが組み合わさることで、地下の温かい環境が長く保たれたことがわかりました。年代測定とシミュレーションの両方が、同じ「長寿命」という結論を指していたことになります。

生命の起源、そして火星への示唆

熱水系が長く続くことには、大きな意味があります。生命のもとになる化学反応が起きるチャンスが、それだけ増えるからです。もし単純な生命が生まれれば、長く続く環境ほど、その生命が広がり、根づく余地も大きくなります。研究チームは、このチクシュルーブの例を、地球の古い時代に生命がどう育まれたのかを考えるための“モデルケース”として使えると考えています。

そしてこの話は、地球だけにとどまりません。火星のように、かつて温かく水のあった惑星にも、たくさんの巨大なクレーターがあります。ピッカーズギル博士は、分厚い大気に守られていない火星は地球よりも多くの衝突を受けてきたはずで、水が豊富だった時代に大きな衝突が起きれば、生命を支えうる長寿命の熱水系ができた可能性がある、と話しています。衝突でできた岩のすきまは、放射線や極端な温度から微生物を守る“すみか”にもなりえます。今後の火星探査で「どのクレーターに注目すべきか」を選ぶ手がかりにもなりそうです。

解釈上の留意点

気をつけたいのは、この研究が「ここに生命がいた」と証明したわけではない、という点です。あくまで、生命を育める“条件”が長く保たれていた可能性を示したものです。

研究によれば、地球で知られている約200の衝突構造のうち、熱水系の痕跡があるのは約70。そのうち、微生物がいた明確な証拠が見つかっているのは、わずか8つにとどまります。古い時代の岩石記録はほとんど残っておらず、当時の地下がどんな状態だったのかは、まだよくわかっていません。だからこそ研究チームも、「生命がいたと断定はできないが、生命が生まれるのに十分な条件と時間がそろっていたかは検討できる」という慎重な言い方をしています。今回の成果は、その「条件と時間」のほうに、新しい数字を与えたものだと言えます。

出典

この研究は、査読つきの学術誌 Communications Earth & Environment に2026年6月9日付で掲載されました(オープンアクセスで全文を読めます)。

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