宇宙が生まれてまだ8億5000万年ほどしか経っていなかったころのクエーサーが、ちらちらと“またたいて”見えた。その光のゆらぎを手がかりにたどると、中心にある巨大ブラックホールが、すでに平たい円盤をまとっていたことがわかった。薄くて平らな円盤は、本来もっと時代が下ってから——いわば“落ち着いた”ブラックホールに多い形だ。宇宙の夜明けにこれほど早くできていたのは予想外だった。
見つかったのは「J0439+1634」と呼ばれるクエーサー。MITカブリ天体物理・宇宙研究所などのチームが、その光のまたたきをとらえ、結果を2026年6月8日付の科学誌Nature Astronomyに発表した。初期宇宙のクエーサーがまたたく様子を実際に観測できたのは、これが初めてだという。

クエーサーと降着円盤のしくみ
クエーサーは、銀河の中心にある巨大ブラックホールが活発にガスを飲み込み、まわりが激しく輝いている天体のことだ。ブラックホールに吸い込まれていくガスやちりは、いきなり落ちるのではなく、いったん渦を巻きながら円盤状にたまる。これを降着円盤(こうちゃくえんばん=ブラックホールに落ちる物質がつくる渦巻き状の円盤)と呼ぶ。物質どうしがこすれ合って高温になり、銀河まるごとを上回るほどの光を放つ。その明るさこそ、はるか遠くからでもクエーサーが点として見える理由になっている。
今回のポイントは、この円盤の“形”にある。ブラックホールが激しく成長している最中は、円盤はぼってりと厚く、乱れた形になると考えられてきた。逆に、薄くて平らな円盤は、成長が一段落して落ち着いたブラックホールに見られる形とされる。だから平らな円盤は「成熟したしるし」と受け取られてきた。
早すぎた“成熟”——平らな円盤
ところがJ0439+1634の円盤は、薄くて平らだった。時代の新しい、近くのクエーサーで見慣れた形に近い。宇宙誕生から8.5億年といえば、今の宇宙(約138億歳)のまだ6%ほどしか経っていない時期にあたる。本来なら厚くて乱れた円盤が見えるはずの段階で、もう整った円盤ができていたことになる。
研究チームのアナクリスティーナ・アイラース氏(Anna-Christina Eilers、MIT物理学准教授)は、ブラックホールが通るはずの“ぐちゃぐちゃで急激な成長期”は、明るいクエーサーとして見えるよりずっと前に、ごく早い時期に済んでしまっているのではないか、と話す。つまり、私たちが見ているのはすでに山を越えたあとの姿で、本当に激しかった時期はさらに昔に隠れている、という見方だ。
またたきの検出と14年分の赤外線データ
遠い天体ほど、観測は難しくなる。宇宙が膨張しているせいで、遠くから届く光は引き伸ばされて赤いほうへずれる(赤方偏移=せきほうへんい)。光の波長だけでなく時間の進み方も間延びして見えるため、本来は数週間で起きるまたたきも、地球からは数か月かけてゆっくり明滅しているように映る。だからこのまたたきを拾うには、赤外線で、しかも何年もかけて見張り続ける必要があった。
チームが使ったのは、NASAの赤外線探査機NEOWISEが約14年かけて全天を繰り返しスキャンしたデータだ。元MITのキシャレイ・デ氏(Kishalay De、現コロンビア大)が始めた、このアーカイブデータを処理し直すプロジェクトから、宇宙の夜明けの時代にまたたく信号が浮かび上がった。ろうそくの炎が決まったリズムなく揺れるように、14年のあいだ不規則にまたたいていたという。
明るさは太陽およそ12兆個ぶん。そのうち約20%、太陽2兆個ぶんほどの幅で明滅していた。さらにチームは、複数の波長でまたたき方を追った。波長は物質の温度に対応し、ブラックホールに近いほど熱い。だから波長ごとのまたたきを比べると、円盤のどのあたりがどう光っているか——つまり円盤の形を、地図を描くようにたどれる。こうして浮かび上がったのが、あの薄くて平らな円盤だった。
巨大ブラックホール形成への示唆
そもそも、なぜ初期宇宙に巨大ブラックホールがあるのか自体が大きな謎だ。最初の銀河が落ち着くには10億年以上かかると考えられていたのに、観測では宇宙の最初の10億年のうちに、すでに200個を超える巨大ブラックホールが見つかっている。重力レンズ(手前の銀河の重力でうしろの天体の光が拡大される現象)の効果を補正すると、J0439+1634の中心にあるブラックホールは太陽の約6億倍の質量とされる。これほど短い時間でここまで育った理由は、まだわかっていない。
今回の平らな円盤は、その謎をさらに濃くする。同じガスの食べ方や円盤の構造が、環境がまるで違う初期宇宙でもう成立していた——という直接の証拠は、これまでなかったとアイラース氏は言う。筆頭著者のジーン・レオン氏(Gene Leung、MITカブリ研究所の博士研究員)は、これほど成熟して見えるからには、もっと早い段階で何かが起きていたはずだ、と付け加える。その“何か”を突き止めるには、さらに昔、クエーサーになる前の姿まで遡って見る必要がある。
解釈上の留意点
興味深い結果だが、まだ1天体での観測である点には注意がいる。J0439+1634は手前の銀河による重力レンズを受けており、チームは、手前の銀河の星が引き起こす一時的な増光(マイクロレンズ)がまたたきの正体ではないかも検討した。ただ、その場合に予想される時間スケールが観測と合わないため、可能性は低いと結論づけている。とはいえ、初期宇宙のブラックホールが本当に“早熟”だと言い切るには、同じようにまたたく初期クエーサーをもっと見つける必要がある。研究チームも、次世代の観測でその数を増やしていきたいとしている。
出典
・MIT News:MIT astronomers discover the earliest known flickering quasar
・論文(Nature Astronomy, 2026年6月8日):Discovery of quasar variability and early accretion disk signatures at cosmic dawn
・プレプリント(arXiv):arXiv:2605.00978
・解説:A Quasar at Cosmic Dawn Flickers into View(Universe Today)


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